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 ―間話 そして時は巡る


 小人たちの地下世界から出てきた時、夜はまだ明けていなかった。
 周囲にはまだ、炎がくすぶっている。立ち上る煙と、異臭の入り混じる風。とても爽やかとは言いがたかった。静かな朝。鳥の声ひとつ聞こえない。
 「ふああ… まだ眠いや…」
暢気に大あくびをして伸びをするフェンリスの腕は、人間のそれ。そこにいるのは、狼ではなく、赤毛の少年の姿のフェンリスだった。
 「…何気なく元に戻ってるがお前、どうやったんだ」
 「え? わかんない。寝てて、気がついたら元に戻ってたんだ。あ! あとね、目が覚めたら、ホラ!」
少年は満面の笑みで、小さなナイフをヨルムにかざして見せた。
 「これ。姉さんがくれたナイフが目の前にあった!」
 「……。」
ヨルムは、額に手を当てた。「…原因は、多分、それだ。どう考えても」
 「え?!」
 「まあ、いい。そのうち分かるさ。…お、来たようだぞ」
向うの方から、車が一台向かってくる。運転しているのは、ハリスだ。クレイントンの森に戻るための足を準備すると言って、どこかへ出かけていた。
 「お待たせ。」
車を止めると、彼は爽やかな笑顔を浮かべた。「なかなかいい車だろ? 寮の駐車場に停めといたんだ。ちょっと埃を被っていたが、ドライブしてるうちに落ちる」
 「…立派な車だな。」
学生が持つには不釣合いな高級車だったが、彼の正体を知った今では大して驚くことではない。
 「ちょっと狭いが、乗ってくれ」
ローグだけは、あからさまに嫌そうな顔だったが、ここまで来たらついて行かないわけにもいかない。助手席にヨルム。後ろの席にルベット、フェンリス、ローグ。半開きにしたトランクに狼たち。そして…
 「ヨルム、その箱はなんだ?」
 「ああ、これか。」
ヨルムは、何か小箱のようなものを大事そうに抱えている。「小人の家さ。リィムたちが入ってる。さっき、森へ帰ると言ったら連れて行くよう頼まれた」
 小人たちは、太陽の光に当たると石になってしまうのだ。言い伝えの真偽はともかく、少なくとも本人たちもそう信じている。箱には中から開閉できる窓があり、中には数人の小人たちが潜んでいる。ヨルムを信頼してのことだ。それ以上に、彼らには、ゆかねばならない理由があるということ。
 ヨルムは、ハリスに出発の合図をした。アクセルが踏まれ、車が走り出す。一夜にして破壊された町、暴力的な死の匂いがそこかしこに満ち、変わり果てたミッドガルドを後に、ひとときの静寂の中に沈む町は遠くなっていく。

 朝焼けの中、世界は赤く染まって見えた。


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