NorthWind−トルスティンのサガ

冬には氷に覆われ、短い春にだけ花の咲く
そこは閉ざされた大地、囲む山々は神々の城壁と呼ばれた
北の大地は幾つもの部族に分かれ、
それぞれに首長たちが治めていた
首長の名はインゴールヴ
彼には四人の息子たちがいた
上の三人はいずれおとらぬ勇敢なる戦士たち
けれどいちばんの末っ子は
まだ剣を持つことさえ出来なかった

体のちいさな息子の名はトルスティン
瞳の色は凍てつく北の空のような澄んだ青
彼には母親がいなかった
生まれの違う弟だった
人々からはよそものの子と呼ばれた
彼はいつも一人きりでいた
誰もこの子の将来を重んじるものはいなかった

家の人々は冗談めかして彼に言った
「お前の母親は人間ではないのだ」と。
偉大なる首長が死んだ時
息子たちには家と、黄金と、厩の馬たちと、谷の土地が残された
いちばん上の息子が首長を継いで、家と土地を手に入れた
にばんめの息子とさんばんめの息子は馬と黄金を山分けして
末の息子には何も残っていなかった
価値のないものだけが残った

しかし彼は知っていた
誰も乗りこなせない、あばれ馬 厩に捨て置かれた一頭の馬が
本当はすばらしい馬なのだと

兄たちが寝静まった葬儀の夜、トルスティンは馬に乗って抜け出した
父の形見のちいさなナイフで しっかりと厩につなぐ金の縒り綱を切り取って
すると馬は喋り出した---

「ありがとうございます、我がご主人様 長い年月を経てようやく魔法の縛めより解かれました
私の名はヴィンダールヴ このような姿はしていても、風とともに生きるものでございます」

魔法の馬に飛び乗ってトルスティンの旅は始まる まだ見ぬ広い世界へと
夜明けの風とともに消えた末の息子を 誰も気にかけはしなかった
何も出来ない役立たずと思っていたから

「ご主人様、どこへ行かれますか。神々の城壁を越えてはるか南、雪を知らない黄色い土地でも
はるか北なる白の王国でも 大地の下の冥界でも はたまた天上の神々の世界へも---
風の行くのを阻めるのは猛き風の流れだけ 風を縛り付けるものは魔法の縛めだけ
この私には、ありとあるゆる場所を駆ける力がございます」

金に輝く太陽は、こう予言した
いずれ詩人たちは、あらゆる場所で 彼を称え歌うようになるだろう
どんな険しい山も越え どんな国も渡って来た
かの旅人の、幾多の冒険の物語を…