王が彼岸においてオシリスとなるための呪文(ウナス王のピラミッドより)
おお、オシリスよ。
このウナスは来る。
神々を悩ますもの、不滅の魂を持つ者は。
かれ、心臓を要求し、力を奪い去り、力を賦与す。
かれの許すもの、ことごとくをかたわらに呼び寄せ、
かれに訴えしものを強制す。
これを逃れうるものなし。
かれ、パンを食わず、かれがカーもパンを食わず、
されど、かれのパン、かれのために果てん。
ゲブは神々の決定を述べり。
神々は言う、「汝は獲物をとらえるときのハヤブサ、見よ、汝(オシリス)は魂を所有し、強力なり。」と。
このウナスは来る。
神々を悩ますもの、不滅の魂を持つ者は。
汝を凌ぎ、汝に似、汝より疲れ、
汝より大いなる者にして、
汝より健やか、汝より声高く咆哮するもの。
汝にもはや時はなし。
セトとトトの成せしこと(オシリス殺害)を見よ。
汝の二人の弟、汝を悼むすべを知らざりしもの。
おお、イシスよ、ネフティスよ、我とともに来たれ。
共に来たれ。合一せよ、合一せよ。
このウナスは来る。
神々を悩ますもの、不滅の魂を持つ者は。
地上にある西の民は、このウナスがものなり。
このウナスは来たる。
神々を悩ますもの、不滅の魂をもつ者は。
この地上にある東の民は、このウナスがものなり。
このウナスは来たる。
神々を悩ますもの、不滅の魂を持つ者は。
地上にある北の民は、このウナスがものなり。
このウナスは来たる。
神々を悩ますもの、不滅の魂を持つ者は。
下天(冥界にある、もう一つの天)の下にあるものどもは、このウナスがものなり。
このウナスは来る。
神々を悩ますもの、不滅の魂を持つ者は。
筑摩世界文学大系1 古代オリエント集 杉勇・三笠宮祟仁 編訳
■かんたん解説■
このテキストの中では、ウナス(ウニス)王がオシリス神として語られ、死せる王がオシリス神と同化するという信仰のあらわれだと読むことが出来る。ピラミッドを、「天に昇り、太陽神ラーと同化するためのもの」として作りながら、同時に、地下の冥界の主であるオシリス神と同化するための呪文を刻むというのは、矛盾しているように見えるとともに、古代エジプト人の複雑な死生観を表しているようで、面白い。
日本人でも、死後の永遠を信じながら、生まれ変わりを信じるといった矛盾した死生観を持つ。(生まれ変わった人間が存在するというのなら、天国へ行った人は、すぐに天国を追い出されなければならないのか? 等。)
また、このテキストの中では、天の女神ヌトと、地の神ゲブの5人の子供たちの中のひとりとしてトト神が数えられ、トトとセトが共謀してオシリスを殺害したことになっている。