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第九十三章

ヌウのパピルスより


 下界に於いて、東方に帆走することなきの章。
 印璽監督員の監督にして、勝利を得たるヌウ曰く、

 「万歳、反対(?)のために起これる汝の災難より離るるラーの男根よ、
  周期は百万年の間、運動せず。
  汝は強き者よりも強く、大いなるものよりも大いなり。
  我、もし帆走り去るか、二本の角により東方に捉え去られんか」

あるいは他者の言うが如く、

 「悪魔の祭日に何事かの悪事、または忌むべきことが我に為されなば、ラーの男根はオシリスの首とともに飲みくださるべし。
  而して我を見よ。何となれば、我は、神々がその言葉に答うる者らを刈り倒す田畑を行進すればなり。
  さて、真にケペラの神の二本の角は、押し退けらるるべし。
  而して、我もし束縛の下に置かれんか、東方に進まんか、悪魔の祭りが我が目の前にて行われんか、何がしかの悪性なる傷に蒙られんか、膿は真に、アトゥムの眼に存在するに至らん。」


 謎が多く難解とされる一節です。
 和訳されているのに日本語の意味がよくわからんという状況でして、思わず古語辞典引いてしまいました。どないせぇと。

 で、わからんわからんと言っても始まらないので、まずは分かりそうなところから意味を解読していこうかな、と。
 まずタイトルは「東に帆走ことなき…」なので、「死者は舟に乗って地下世界を流れる河を航行中だが、なんらかの理由により東の方向には行きたくない」のだと思われる。というわけで、この呪文は、舟を東に行かせないための呪文だと考えられる。

 東が忌むべきとされるのは、何かの原因によって失われた「ラーの男根」のためだろうか。
 後半から察するに、東方とは「好ましくない祭りが行われる」場所であり、「ケペラの神の二本の角にとらえられ、束縛される」ことを意味し、「悪性な傷に蝕まれ、肉体が膿によって腐る」ことを意味するのだろう。
 しかし、順調にいけば、ラーの男根はオシリスの首とともに死者に飲みくだされ、死者は東に行かなくても済む。

 …と、いう解釈も出来そうだ。(あくまで推測)

 さて、ラーの男根なるものについてだが、これが何なのか分からないのが、実はこの呪文の一番のネックになっている。
 ラーの眼が南方に逃れ、のちに連れ戻されたという神話は残っているのだが、ラーの男根が東へ逃れたという神話は残されていない。どんな背景があって生まれた思想なのかは不明である。また、ラーの男根と並んでオシリスの首が上げられているのも、謎である。
 オシリスの男根が魚に飲まれ、失われたという神話はあるのだが、関係があるのだろうか…。


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