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第百八十五章

スチメスのパピルスより


 <アムドゥアトの首領たるオシリス、即ち大いなる神、永遠の君、アメンテトの主宰、神廟の中に在りて、王とせらる。而してオシリスは其の手に主権と所有権との象徴たる鞭と杖とを握る。神廟の中には、死者、其の両手を挙げて敬拝の意を表しつつ跪き、又其の両側には、各々二人の神在りて香を献ぐ。>

 オシリスに讃歌を献げ、永遠の主に敬拝を表し、神の意志を慰め、其の主の不可識なる正義と真理とを聲明するの章、オシリス=スチメス、即ちアムドゥアトに於ける祭壇室の献酒物兼統領、アメンの神殿の諸書記生の統領にして勝利を得たるもの曰く、

 『今汝を敬禮し奉る、噫汝聖なる神よ、汝大且つ恵みある者よ、汝セクテト船の汝の住処に住める永遠の君よ、汝アアテト舟に於いて其の昇天の多種多像なる者よ、汝に対して讃美は天に於いても、地に於いても奉げらるる。

 諸民諸国は汝を崇め、彼の恐怖の威厳は人々と諸のクウと死者との心中にあり。汝の霊魂はティトティト(メンデス)にあり、汝に対する恐怖はステン-ヘンにあり、汝は汝の可見的象徴をアンヌに置き、汝の変形の偉大さを二重の斎戒の場所に置く。我は汝に来たれり、而して我心は其処に正義と真理とを有す。我が胸中には何等の奸智、何等の詭計だもあらざるなり。願わくは我、我をして生者の仲間に我存在を有せしめ給へ、又汝の随従員中にありて河を船にて上下せしめ給へ。』


この文章を解説してみる。


 オシリス=スチメスという部分で、例によって、スメチスは故人の名前。この呪文書の持ち主である。
 スメチスは死者の世界、アムドゥアトにやって来て、祭壇室の献酒物・兼・統領、またアメンの神殿の諸書記生の統領になった。(あるいは、なったことにされている?)

 セクテト舟、アアテト舟は地下世界と地上世界を巡る、神々の乗る船のこと。
 セクテト(メセクテト)の船は地下の世界を、アアテト(マンデト)の船は地上の世界を巡る。この船に乗っているのは、通常、太陽であるラー神であり、日没後、ともに西から地下に入り、地下を進んだあと、東の地平線から出現する…という死と再生を繰り返す。
オシリスは死の神なので、セクテトの船のある場所に住んでいるし、復活を象徴する神なので、太陽の復活に関わるアアテトの船とも無関係ではない。
というわけで、地下と地上の船、どちらにおいても、オシリスは重要視されているということだろう。

あと「クウ」は霊魂…みたいなニュアンスでとらえてもいいだろう。
ティトティト。ステン―ヘン、アンヌは地名。それぞれ、古代エジプトの都市の名前なので、おそらくオシリスの神殿があったのだろうと思われる。

「私はオシリス、あなたの前にやって来ました。私には正義と真理(つまり二重マアト)があり、私の胸の中(つまり心臓)には罪はありません。なので私を地下世界に蘇らせ、死者の楽園に入れてください。」

と、要するにそれが言いたいために、長ったらしい前口上を述べているのである。

死人はみんな同じことを言うと思うのだが、オシリス神的に、毎回毎回、格式ばった前口上を聞くのは面倒くさくなかったんだろうかー、などと思ってみる。


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