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バステト Bastet(仏語:Bastet)

古代名:バステト(バスト)/ギリシア名:−/別称・別綴り:
性別:女性


――――破壊と恵みもたらす気まぐれ女神

主な称号
ブバスティスの女主人、アトゥムの娘、ラーの瞳

主な信仰
猫の女神として有名。名前は「バストの町のもの」を意味する。「バスト」は地名なのだが、軟膏壷を意味するという説もある。
バステト女神はもともと地方神で、守護地バスト(ブバスティス)は下エジプト第18ノモスにあった。この町は、末期王朝時代にエジプトが分裂した際に首都になったこともある。

雌猫の気まぐれな性格から、彼女も気まぐれな恋の女神とされていたようだが、よくマンガや小説で扱われるように娼婦と結びつくとはいえない。何故なら男性もこの女神を信仰したし、バステトの祭りは町を上げての公な大祭だったからだ。(なお、この祭りについてはヘロドトスがその著書で詳しく書き著している)


●バステトの家族関係

古い本では、バステトはラーの娘とされることがあるが、これは後付の関係。
「ラーの瞳」という称号は、ラーが人類を滅ぼすために自らの眼をえぐって生み出した破壊女神セクメトとの同一視の結果、つけられたものになる。
つまり本来のラーの娘はセクメトであり、セクメト(雌獅子)が大人しくなったものがバステト(雌猫)という解釈が後代に付け足されることによって、バステト=ラーの眼から生まれた娘 されるようになった。

夫や子供を持つこともあったが、決まった組み合わせは持っていない。後付として、獅子の神マヘスが息子として加えられることもあった。羊と蛙の夫婦の息子が人間だったりするエジプト神話の中では、家族が同系列の動物で設定されているのはある意味珍しい。(笑)


●女神の二面性

バステトの初期の姿は獰猛なネコであり、ピラミッド・テスキトでは人に危害も加える恐ろしい神として登場する。しかし、同時に「王の乳母」の称号も持っており、のちにこの母性の側面がより強く強調されるようになっていく。ローマ時代には月の女神アルテミスと同一視されるようになった。

現在よく知られているのは新王国時代以降の姿で、しばしばシストルム(がらがら)を手にする姿で表されるバステトは、音楽と享楽の女神である。また、足元に子猫たちをはべらせる姿で表されることがあり、同じく音楽の女神でもあるハトホル同様に母性も象徴した。

ヘビの首をはねる雌ネコの姿で表現される、子供たちに危害を加えようとするものを退ける強力な「家庭の守り神」としては、同じく家庭の守り神であるベス神と同僚関係にある。

このように、他のエジプトの女神たち同様バステトも二面性を持つ女神だった。母なる女神としての優しさは、獰猛さや強さと表裏一体なのである。その意味でバステトは、雌猫であるとともに雌獅子でもあり続けた。


●ネコ飼育の起源について

野生のネコを飼いならしたのは古代エジプト人である。どうして飼いならしたのか。かわいかったからに違いない。きっとそうだ。世界のネコ好きは古代エジプト人に感謝するといいよ! 

2004年に「サイエンス」誌に新説が発表され、約9700年前のキプロス島が最初にネコを飼いならした場所の可能性があるとされたが、繁殖に成功し継続してネコを飼い続けていたのは豊富な証拠から古代エジプト人で間違いないので、あまり気にする必要はないようだ。

>>参考 飼い猫の起源:続編 「飼い猫の起源はやっぱりエジプト」学者たちの華麗なる論戦

現在発見されている、エジプトでの最古の飼い猫の証拠は、紀元前4000年ごろ…つまり先王朝時代、モスタジッダにある個人墓である。(*大英博物館 古代エジプト大百科1版より。ここの部分は発掘結果によって遡る可能性あり) 遡りました。紀元前6000年頃、ヒエラコンポリスの貴族墓が最古の可能性。

ネコ飼育の歴史については以下を参照。
端的に言うと、猫の姿をしたバステト女神は中王国時代まで存在しないので、それより前に出してはいけない。
古代エジプトといえば「ネコ」だけど、"飼い猫"が登場するのは古王国時代末ごろから! 一般化するまでには時間がかかるよ!

バステト女神は古王国時代にすでに存在し、古い時代のバステト女神ほど雌ライオンの姿で表されることが多いが、これはネコがまだ一般的ではなかったからと考えられる。時代が進むにつれ、バステトは性格が優しくなり、ネコの姿で表現されることが多くなる。いわば人間側の都合で姿や性格が変化した神と言える。
バステト女神のもつ「太陽神の目」などの呼称は、この方がもともと雌ライオンの姿をした神だったころの名残である。ふつくしいにゃーん
尚、エジプトで最古の「ネコの絵」はクヌムホテプ2世の墓ということになっている。


●ネコの墓

エジプトといえば動物のミイラが有名だが、中でもネコのミイラはとてつもなく多い。19世紀半ばまでには36のネコ専用墓地が知られていたが、中でもベニ・ハッサンのものは非常に大きく、数十万体が収められていたという。が、これらのミイラは肥料としてエジプトから輸出されてしまい、ヨーロッパのどこかで農業に使われてしまった。それでもなお多数のネコのミイラが現存しているあたり、古代エジプトでネコがいかに大切に(あるいは神聖視)されていたかを察することが出来る。


神話
・バステトの名前で出てくる独立した神話は、特に無い。セクメトやハトホルと同時に言及されることは良くある。

・神話上ではセクメト女神と同一視されることが多い。荒ぶる雌獅子としてはセクメト、おとなしい家猫としてはバステト、というわけだ。

・母猫の愛情溢れる姿から、バステトは母性愛の象徴としてハトホル女神とも結び付けられていた。

・テフヌト女神と同一視されたことから、天空の女神としての側面も持つ。


聖域
主にブバスティス
その他、メンフィス、ヘリオポリス、テーベ、レオントポリス、ヘラクレオポリス

DATA

・所有色―琥珀、白?
・所有元素―火、水
・参加ユニット―
・同一化―主にセクメト、テフヌト/たまにハトホル、イシス
・神聖動物―雌猫、古い時代は雌ライオン
・装備品―盾(アイギス)、シストルム、手提げ、メナト(保護の護符)


◎補足トリビア◎

知恵と駄文の神殿「エジプトの砦は猫で攻め落とせるか?
古代エジプト人と生活パートナーとしての「ネコ」について


【Index】