大神殿のナイショ話

華麗なる姉妹の、華麗なる痴話喧嘩。



 イシスとネフティスといえば、知名度も信仰度も高かった超・有名な女神姉妹です。
 しかも美人でゴージャスな、喩えるなら叶姉妹みたいな人たちです。
 そのお2人が喧嘩をしたら、どうなるのでせう…?

 南方守護部隊隊長 クヌム君「ああ、そりゃースキャンダルだろう。」
 本社門番 ティトエス「見たくないね。」 
 特殊警備隊 セクメト「…くだらんな。」

 誰しも、あまり考えたくないことのようなのですが、ときどき実際に起こってしまうのもまた事実。そして、2人が喧嘩になったら、一番困る人がここにいました。
 トト神。(またか!)

 だって…イシスにもネフティスにも関連が深いのって…家族以外では彼だけなんですもの。アヌビスも関係があるけど、彼は非公式とはいえネフティスの息子なんだからネフティスの味方をしても誰も文句は言いません。でもトト神だけは違います。
 どっちの味方をすればいいんですか?
 っていうか、どうやって諌めればいいんでしょう。

 いや…そもそも、イシスとネフティスって、どういう原因でケンカになるんでしょう…?

 まずは過去のデータその1。
 この2人は、2人ともオシリスLOVEだったのに、実際に結婚したのは姉のイシスです。
 ネフティスは怒りも恨みもせず、セトと結婚しました。ギリシアの神々と違って、エジプトの神さまは、イチイチ恋愛沙汰で醜い争いはしないようです。

 では次に、過去のデータその2。
 ネフティスとオシリスの不倫。イシスの格好をしていたネフティスを、オシリスが間違えたためだという神話がありますが、間違えていることを申告せずにそのまま身を任せてしまったネフティスは確信犯。でもイシスは怒らない。妹のほうが先に子供を作ってしまっても文句言わないし、その子供に辛く当たったりはしない。
 エジプトは母系社会だったので、どっちが先に子供を生むかは関係無かったようだ。

 だいたいの神話は男女関係が喧嘩に発展するものなんだけど、この可能性が消えるとなると、あとは何だ?? もしかして、イシスとネフティスって、喧嘩しない姉妹なのかな…
 …おや。

 向こうが何か騒がしいようです。あ、真っ青になったセルケト女神が逃げて来ますね。

 トト「どうかしたんですか?」
 セルケト「ヤバい。ヤバい。ヤバイよ逃げたほうがいいってば。なんかヤバい雰囲気なのよあっちのほう。」
 トト「…え?」

 奥の部屋では、何と、イシスとネフティスがバトルフィールドを展開していました!!


 ことの発端は、通販で買ったおニューのワンピースを、ネフティスが試着していた時まで遡ります。

 ネフティス「ふん、ふふーん♪ どう、似合うかしら姉さん。」
 イシス「んー…。ちょっと色合い派手すぎるんじゃない? もう少し落ち着いた雰囲気のほうが良かったと思うんだけど。」
 ネフティス「ええー、そうかしらー。でも、そうしたら老けて見えちゃうじゃない? このくらいのほうがいいのよ。」
 イシス「それはそうだけど、今さら若い娘みたいな格好してもねぇ…(苦笑)。誰に見せるわけでもないし(遠い目)」
 ネフティス「あらやだ、姉さんってば、オバサンみたいなこと言っちゃってーv」
 イシス(ぴきっ)
 ネフティス「せっかく元地が良くったって、気持ちが老けてちゃダメよねぇー。」
 イシス(ぴきぴきっ)
 ネフティス「自分はもうダメだと思ったら、ただの年増になっちゃうのよぉ。私はまだまだだもーん」
 イシス(ぴきぴきぴき)「…なぁんですってえ?」

 がたん、と席を立ち上がったイシス。その額には、薄っすらと怒りの四つ角♪ が浮かんでいます。しかしネフティスは意に介せず。

 ネフティス「だって本当のことじゃない。」
 イシス「私が年増だって言うの?! あんたと私は双子なのよ! 年は一緒じゃないの!」
 ネフティス「やだ、そんな本気にならなくっても。年は同じでも、用は気持ちよ、き・も・ち。美しく装うことを忘れたら、女って急激に老けていくものだから。」
 イシス「私はまだ老けてないわよ! あんたはね、幾つになってもチャラチャラした格好してるからガキっぽいのよ!」
 ネフティス(ぴく…。)

 この時点で誰か止めろよ、とか思うのですが、残念ながら、その場に居たのは死者の守護女神の残る2人、ズバズバした物言いでサソリのごとく刺す一撃必殺のセルケト女神、そして、クールに現実を分析する弓の名手ネイト女神だけ。

 ヤバイかな、と思ったセルケト、とりあえず仲裁に乗り出します。
 セルケト「ま…まあまあ、2人とも、そんなことでケンカしなくてもいいじゃない。神に生きた年数なんて関係ないんだから。それに――――」
ここで止めておけば良かったものを。
 セルケト「神の年齢は精神年齢で決まるんだから。

 ヤバ! イシス真っ青!!

 神様は人間と違ってフツーに年をとっていかないので、大人びた性格の神は大人の格好、ガキっぽい性格の神は子供の格好をしてるんですね! つまり、性格老けてる神様は、たとえ同じ時に生まれた双子と言えども、より老けていることになるのです!

 セルケト…、一撃必殺。任務失敗。

 代わりに、今度はネイトが口を開きます。
 ネイト「年齢なんぞ大した意味はない。若ければ魅力的だ、などと、それこそ人間の論理だろう。」

 イシスは、少しホッとします。が――――
 ネイト「いつまで経っても若いまま、などというのは、成長していないということで、あまり好ましくないと思うがな。」

 ネフティス「!!!」

 さすがです、ネイト様。背を向けていると見せかけて、背面に向かって矢を放つとは。しかもその矢、みごと相手の急所に命中してるし。

 イシス(勝ち誇ったように)「ほほほ! そうよね、年なんて関係ないわよね。どこかのガキっぽい女神とは格が違うのよ、私は」
 ネフティス「〜〜〜な、何よ、姉さんなんか…姉さんなんか、こないだドモホル○リンクルの通販頼んでたくせに!! この、年増女!」
 イシス「…何、ですって?」

 うわ、マジやば。セルケトはオロオロ、ネイトは冷静に状況を分析中。

 セルケト「ど、どうする?」
 ネイト(あくまで冷静に)「…無理だな、私たちで収めるのは。逃げるか。

と、いうわけで、そそくさと逃げ出してしまった2人、敵わぬものには手を出さない。さすが、百戦錬磨の女神さまたちです。
 一方…トト神はというと。

 トト「ど、どうしよう…。こ、これってやっぱり僕が仲裁するべきなの?」

 振り返ると、恐怖に打ち震え、顔を強張らせながらコクコクと頷くドゥアト産業社員たちの姿が。
 ヤツらを倒せるのは、君しかいない。君が立たなければ我々は皆滅びる。
 戦え、トト! 君は勇者だ。人類の希望だ! この世界を救ってくれ!!

 トト「うう…(泣)」

 大げさじゃありませんよ。イシスとネフティスが仲たがいして仕事しなくなったら、世界は大変なことになってしまいます。
 まず太陽の船を守護するイシスがいなくては、戦力は大幅ダウンです。しかも、太陽の船が地上世界に出るときに通る冥界と地上とをつなぐ門は、ネフティスの力によって守られています。ここが開かないと、船は地上に戻ってこられません。
 さらに、魔力の高い2人がマトモに戦うと天変地異が発生。
 セト&ホルスの戦いをさらに上回る、恐るべき光と闇の戦争が始まってしまいます。女の執念は怖いからなあ…。しかも彼女たちの属性って正反対だし…。

 トト神、これは本気で仲裁しなければなりません。世界の命運がかかっているのですから。
 そこで彼は考えた!

 トト「イシス様! ネフティス様!」
意を決してバトルフィールドに飛び込んだ彼は、かなりマジメに気合を込めて、こう叫んだ!

 トト「魅力的な女性は一種類とは限りませんよ。熟女の未亡人幼な妻系も、同じくらい人気なんです! ネコ耳や眼鏡っ子より、むしろ奥様系のほうが男性にとっては良いかもしれない?!」

 男性下級神一同「いえーい!♪ ビバ、奥様系!☆」


 …こうして、トト神の勇気と機転により、姉妹は機嫌を直してケンカをおさめ、世界には平和が戻ったという…。めでたし、めでたし。

 トト「めでたくないー!(泣) どうしていつも僕ばっかりこんなメに!!」

 すまん、トト。許せ。ネタにしやすいんだ…君は。



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