大神殿のナイショ話

2号館出張版-北の国から’2002-

[6]


 トト「帰ってください。」

 トトは単刀直入に切り出しました。
 戦い専門の神じゃないとはいえ、相手は異国の神様。異国の神様の対応は、知恵神である彼の役目でもあります。図体デカくて怖そうだからってビビっちゃ神の名折れだと!

 トール「(ぎろりとにらみつつ)何だと?」
 トト「ここは僕らの国ですから。僕ら平和にやっていきたいんです。争うつもりないですから、早く帰ってくださいッ!」

 たとえ相手が、結さんのお父さんみたいな人だったとしても(「北の国から」ネタ)、怯えちゃダメだ! 頑張れ、トト!
 トト(…なんで僕ってこんな役回りばっかりなんだろう。)

 トール「わしとて、出来ることなら早々に帰りたいわい、こんな、鳥やら犬やら面妖な人間ばかりいる国、楽しくも何とも無いわ!」
 コンス(ぷち)「まてやコラ」
 ホルス「まあまあ。落ち着きたまえ。」
 トト「…じゃ帰ってください。」
 トール「しかーーーし!」

トールさんは、思いっきり胸を張りました。

 トール「ロキを追いかけて来たのはいいもんの、帰り道がわからん!」
 トト「はァ?」
 ホルス「……やっぱりか。」

 ロキ「待て待て待て」

様子を見ていたロキさんが、ずずいっと前に出ます。

 ロキ「…じゃあどうやって来たんだここまで」
 トール「適当にきまっとる。(キッパリ)」
 ロキ「適当にどうやって旅してるんだよ、いつも」
 トール「馬鹿者。適当に歩いてりゃ家につくだろう。」

そういやトールさんは、しょっちゅう旅に出てるうえ、いっぺん旅に出たらなかなか帰ってこない人でした。
 地図持ってなかったんですねえ。
 帰巣本能で地の果てから帰れるのか。さすが大地の息子。

 トト「じゃ……じゃあ、国境まで送るから、その人(と、ロキを指す)つれて早く帰ってください…。」
 トール「うむ。コイツ(と、ロキを指す)さえ見つかれば、こんなところに用は無い。」
 ロキ「だぁ! 待て待て、オレはここに息子を追っかけて来たんだよッ、息子! あいつを見つけなきゃ話がはじまらねェ」
 トール「息子? あの、蛇のほうか?」
 ロキ「そうだよ。家出したんだよ。お前ンとこだって息子いるだろー? いろいろあんだよウチも」

トールがじろりとヘルを睨むと、ヘルは怯えて柱の陰に隠れてしまいます。

 トール「…お前んとこの娘もいるようだが。」
 ロキ「おっかけてきたんだよ。甘えん坊だからナ★」
 トール「怪しすぎるぞ、お前。まさか一家そろって亡命しようなんてことは考えて無ェだろうなぁ…?(ぎろり)」
 ロキ「ンなこと考えっかよ、馬鹿! オレの可愛いもう一人の息子は、テメーらん家とこに人質に取られてんだぞー! あいつを置いていけるかよー!」

 トト「……。」
 コンス「…なんだか知らんが、複雑な家庭事情だな、あいつン家」
 アヌビス「子供が親の尻拭いさせられてるんじゃないのか?」
 ホルス「私もそれに一票だ。」

 ヘル「お父様が悪いわけではないの、私が……。」

 と、その時、神殿入り口に掲げられた旗がばさっと大きく揺れました。

 トト「あれ、誰か来た。」
 ロキ「ん?」
 トール「何だ?」
 ハピ「やあやあ皆さん。お集まりで、どうしました?」

ナイル河のさはやかな風とともに、颯爽と現れたのは、ナイル河の神・ハピ。頭の上にパピルスとか生やしてますが気にしてはいけません。体が緑ですが病気ではないです。河と一体化し、川べりに同化する神々随一のカムフラージュ・マスター、ゆえに近くを通りかかっても、だぁれも気がつかない。そんな影の薄い人。

 トト「ハピだ。珍しいなあ、ハピが河から上がるなんて」
 ハピ「いやあ、まいごさんがいましてね。まいごセンターにお連れしようと思いまして。」

にこにこ笑っているハピの後ろから、するするっと現れたのは、ロキの息子の、あの蛇でした。

 トト「…あ…」
 ロキ「あーー!」

 いたよ! いたいた!
 こんなところに!

 蛇「みゅー…。」
 ハピ「叱らんといてやってください。息子さん、息子さんなりに色々あったんですよ…。」

いきなり「北の国から」語りに入るハピさん。そう、彼は、いちばん北海道な人だった! (なんせ大自然の化身だし)
ハピは、丸まって冬眠に入っているヘプリをちらりと見ました。

 ハピ「この国、蛇とか蛙とか、あ、もちろん虫もですけど、冬に弱い神、多いです。」
 トール「だからどうした。」
 ハピ「寒くなると、みんな眠っちゃいます。」
 トール「……。」
 ハピ「ア、わしら、そんなの関係ないもんはいいですけど。そりゃ、あんたがた北の人だから、寒いほうがいいだろうし、それを責めるつもりもないです。だけど、考えて欲しいんです。この子、蛇です。わしらの国の人と同じです。寒くなったら、動けない」
 ロキ「あぁ、まあ、北国生まれのわりに、冬は嫌いだな」
 ハピ「でしょう。だから家出した」
 ロキ「…? そんな単純な理由で?」
 ハピ「この子にとって、単純じゃなかったです。家の中がとても寒かったから」

 ヘル「……!」(音楽、衝撃)

 トト「あ…、もしかして、妹さんの出してる冷気が…。」
 蛇「みゅー…」
 ロキ「あー! なーるほどぉ!」
 ヘル「や、やっぱり私のせいだったのね。うう…」
 コンス「わ、わ、興奮するとまた寒さが急激に…!」

なあるほど、とか手を打ってる場合ではなく、もっと早くに気がつくべきでした、皆さん。(特にロキさん)
 家でお留守番の兄と妹。しかし兄妹ケンカになろうものなら、妹の冷気で兄が凍死させられるかもしれないというのは、どうだろう。かなりシビアな状況だが。

 トール「そうか…。そんな事情があったのか。兄妹とはいえ、一緒に暮らせない宿命だったのかー…。」
 ロキ「そんな簡単に言うなよ! うわー、どうしたらいいんだッ。」(頭かかえ中)
 トト「……。」

 このままでは、どっちかが家を出なくてはいけないぞ。さあどうする。

 トト「別居するしかないよ…。」
 ロキ「何?!」
 トト「どんなにお互いのことが好きでも、一緒に暮らせない人たちもいる。離れていても家族は家族さ…、そうだろう?」

 コンス「さすがトトだ。いいこと言うな。」
 ロキ「そんなぁ…。」
 ホルス「息子さんの家出の原因が判ってよかったじゃないか。」
 アヌビス「気がつかなかった親も結構間抜けだが。」

 トール「あきらめろ、ロキ。子供なんてのは、いつか成長すれば巣立っていくモンだ。それがちょっと早まっただけじゃねぇか、なぁ。」(ぽん、とロキの肩に手を置く)
 ロキ「くー…。」

 最初キレていたトールさんもいつの間にかロキさんに同情して収まっていました。
 トール兄貴は、本来、情に厚い人なのでした。

 ネクベト「話はまとまったようだな。」
 トト「ネクベト様!」

ころあいを見計らったかのように、女神ネクベトがやって来ました。そう、ロキさんたちは自分たちの国へ帰らなくてはなりませんが、その方法が分かってないのです。

 ネクベト「その者たちを送り返す手はずを整えてきた。」
 ロキ「おッ、マジで?」
 ネクベト「任せておけ。…おい」

すちゃっ。
 …と、鈍く白光りする大理石の棍棒を手に、ネクベト様の後から神殿に入ってきたのは、破壊の女神セクメト様。

 セクメト「私の相手はどいつだ?」
 トト「わ…、わぁ…。(思わずたじろぎ)」
 ホルス「ネクベト! 何故、彼女がここにいる!」
 ネクベト「あぁ、ラー様から借りてきた。いちばん力いっぱいやってくれそうだったからな。」
 コンス「力いっぱい、って…。」

 セクメト(きゅきゅっと床にホームを描く)「うむ。この角度だな。」
 ロキ「待て。これは何の冗談だ。」
 ネクベト「冗談ではない。送り返してやろうというのだ。」
 ロキ「…!」

 状況に気付いて、逃げようとするロキさん。とっさに後ろからコンスとアヌビスが飛び掛ります。

 ロキ「ぎゃーー! は、離せぇえ」
 コンス「暴れるんじゃ無ぇ! 一気に国まで帰れてベンリだろ?!」
 アヌビス「そうだ! 腕や肋骨の一本二本、折れるくらいどうだっていいだろう。蛇と娘はしっかり抱えとけ!」
 ロキ「いーやーだー、ぜってぇ背骨が折れる!」

暴れるロキさんを左右から確り押さえつけ、スタンバイOK。

 セクメト「ふんッ!」

 バキ。

 ロキ「ぅーーーーー・・・・・。」(⇒遠ざかっていく声と姿。そしてキラリと星になり、おそらのむこうへ。)

 ネクベト「セクメト。ナイスバッティング。」
 セクメト「うむ。」
 トール「…・・・。(ガタガタガタ)」

 セクメト(振り返り)「さて。残るはお前一人だが?」

++++


 と、いうわけで、セクメト様のホームランにより、北の神々は北の空へと強制送還された。
 のちに本国に帰ったトールさんは、「ウトガルザ=ロキの国でも、こんな恐ろしいメに遭ったことは無い」と、語ったという。
 ロキさん家の子供たちがその後、どのように別れ別れに住むようになったかは、神話に語られるとおりである。

 なお、古代エジプトで野球が流行ったかどうかは定かではないが、木が無いので、大理石の棍棒で人を殴ることは、あったそうだ。
 良い子は真似してはいけない。

 その後、北国の神々が再び地の果ての黒い国へやって来たかどうかは…
 定かではない。

E  N  D


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