大神殿のナイショ話

2号館出張版-北の国から’2002-

[5]


 帰って来て見ると、ヘルモポリスは局地的な寒気に襲われて、何やら白っぽくなっていました。

 トト「うわぁっ、ヘプリが死んでる!」
 ヘプリ「…冬眠です…。」

 霜の降りたヘプリ神、フン転がしなので冬眠モード。この異常寒波は、哺乳類じゃない神々にとっては大変です。虫とか。蛇とか。蛙とか。
 神様だって、冬は眠るさ。本当なら、エジプトには冬なんて来ないけど。^^;

 コンス「どうしてくれんだよっ、これっ。」

睨んだコンスの視線の先で、ロキさん、のほほんとしています。

 ロキ「だーってしょーがねーじゃん。このくらいだったら、まだ涼しいくらいだぜ? 寒いのは、あんたらが薄着だからだろ? 服着ろよ」
 コンス「大きなお世話だ。」
 セシャト「あ…あのう…。とりあえず、迷子さんを…」
 ロキ「おお、そうだ。そうだったな」

ロキさんはセシャトについて、いそいそと神殿の奥へ。それを見て、ちょっとムッとするトトさん。

 トト「まさか、セシャトにまで手は出さないだろうな…。」
 コンス「いや〜、わっかんないぜぇ? アイツ、ストライクゾーン広そうだし。」※古代エジプトに野球はありません。

奥の部屋に行くと、ちょうど、奥から駆け出してきた女の子を、ロキさんががっちり抱きしめるシーンでした。

 ヘル「お父様!」
 ロキ「おお、へル」

ひしと寄り添う親子の図。

 ロキ「…しかし、何だ、なんだって、こんな遠くまで?」
 ヘル「ごめんなさい、お兄様が家出をしたのはわたしのせいなんじゃないかと思って…」

瞳をうるませるヘル嬢。

 ロキ「ばっかだなぁ、どうしてお前のせいでアイツが家出するんだ」
 ヘル「だって…お兄様はいつもわたしを避けるし、口も利いてくれないし…。何か悪いことをしたんじゃないかって、わたし、わたし」

 アヌビス「ワケあり兄弟、というやつだな。」
 コンス「おおかた、妹に嫉妬したんじゃねーの? 良くある愛情の不釣合いってヤツだよ。」
 ホルス「何しろ、名前もつけていないようだし。」
 トト「だからー…なんで皆、ここにいるんですか?」

ついてきた神々は、ちゃっかりちゃぶ台と湯のみもスタンバイ。一体どこから出したんだ。

 コンス「何でもいいけどサ、この冷気、どうにかしてくれよな。あんたらのせいでオレたちの国が迷惑してんだぜ? さっさと帰れよ」

単刀直入なコンス神。

 ロキ「ンなことを言われてもなあ。ここは熱すぎるし、息子のやつを見つけたらとっとと帰るつもりだけど、まず道がわっかんねーし」
 コンス「ああん? だったらどっちでもいいから早く出ろ。つーか、もとはといえば、あんたが息子をしっかり捕まえとかないから…」
 ヘル「ご、ごめんなさい。わたしの…わたしのせいで」
 トト「ああっ、泣かないで、なんか寒さがどんどん厳しくなるし〜」

 クヌム「あの蛇、かなり暴れてたけど、よほど家に帰りたくなかったんだなぁ…。」
 アヌビス「あの娘か、父親か、いずれにせよバツイチで子沢山なら、家庭内にも色々と問題があろう」
 ホルス「単に反抗期じゃないのか?」
 トト「だからー! 見てないで、何とかしてくださいよー」

と。話がこじれてきた、その時でした。
 神殿の外に、何やら不穏な気配が。…
 はっとして振り返ったトトが見たのは、神殿の入り口に立っている、赤毛の巨漢の男でした。

 ??「たのもぉー!」
 ロキ「げっ! あ、あの声はっ」
 コンス「知り合いか?」
 ロキ「ああ…知り合いだよ…。今いっちゃん会いたくない奴だ。」

ロキさん真っ青。
 そう。それはロキさんの旅の友にして天敵。伸縮自在のハンマー片手に、巨人退治は地の果てまでも。
 の、トールさんでした。

 トール「くぉおらぁぁ、ロキぃ! まぁた無断で鷹の羽衣持ち出しやがったな? 巨人どもとつるんで、コソコソと何をたくらんでやがるっ!」

 トールの大声で神殿が鳴動。すさまじい音波です。耳を塞いでうずくまるヘルの周囲から、一気に寒波が放出されます。

 トト「わあっ、ますます寒さが厳しくッ」
 コンス「あ゛ーっ、ヘプリ!」

 部屋の隅でヘプリは、地味に丸まって倒れていました。慌てて駆け寄り、抱き起こしてみるコンス神。

 ヘプリ「…うふふ…母さん…。おほしさまが見えるよ、母さん…。」
 コンス「ばか、寝るな、寝ちゃダメだ! お前、神だろ?! 気合い入れろよ!」
 ヘプリ「僕ぁ、ただの虫でーーす…。」

 ダメだこりゃ。
 神なので、雪山で眠っても死にませんが、暖かくなるまでは行動不能のようです。

 コンス「何とかしろよ! 寒波の原因はお前の娘だろ? 外に来てんのもお前の知り合いなんだろっ」
 ロキ「いやだッ(首をふるふる) トールの奴、マジでキレてんじゃん。オレの言うことなんか絶対聞かねー。殴られる〜」
 コンス「そんなこと言ってる場合かよッ。ほら、とっとと外に出ろよッ」
 トール「聞こえないのか、ロキッ! 出てこないなら、この門をブチ破ってこっちから入るぞ、いいんだなッ?!」
 トト「わああっ」

 ロキさんの言うとおり、トールさんは、かなりおかんむり。表のほうから凄まじい音が響いて、言った先からすでに門を破壊したようです。これは、冷静な話し合いは不可能か?
 そう思われた時。

 ホルス「やれやれ。しょうがない、私が行くか」
 トト「えっ?」

 いきなり、すっくと立ち上がったホルス神。ロキさんは、きょとんとして見ています。
 ちょうど、トールさんは、大槌ミョルニル担いで神殿の入り口までやって来たところでした。

 ロキ「な、何だ?」
 ホルス「今まで脇から見ていたわけだが、あらためて。私はここの責任者、ホルス。地上の神々の統括をやっている」
 ロキ「…え、もしかして、あんたがここで一番エライのか?」
 ホルス「エライ、というか、代表だ。…と、いうわけで!」

トールの前に、ずずいっと進み出ます。

 ホルス「他所から来た者に、この国で好き勝手させるわけにはいかん!」
 トール「…何だ? …はっ」

 その時、トールさんの目に映っていたものは。…鷲。(ホルス神)鷹だっていう説のほうが多いけど
 瞬間、蘇る、とっても苦い思い出…。

 そのむかし、主神オーディン、ヘーニル、ロキの三人が、楽しくキャンプファイヤーなどしていた時、あぶっていた晩ご飯の肉を掻っ攫っていった鷲がおりました。
 その鷲は巨人スィアチの変身で、肉をとられて怒って棒振り回したロキさんは、鷲にとっつかまって拉致・監禁され、自分の命おしさに、仲間のひとり・女神イドゥンを引き渡す、という裏切り行為をはたらいたのでした。
 〜スノリエッダ 「詩語法」より〜

 そんなこんなで、刑事<デカ>トールにとっては、とっても苦い思い出。更正すると誓ってム所を出たのに、ロキっさん! お前は、まだ過去の自分を引きずっているのかい…?
 これで何度目になるのだろう。裏切られた男の心に火がついた。トールはもはや止まらない…!

 トール「生きていたのか、スィアチ! ぅおのれぇ〜ロキぃ、また女神イドゥンの黄金のリンゴ狙ってやがるなッ?! 今日という今日はもう許さん、オーディンが何と言おうと、貴様の脳天カチ割ってくれるわぁ〜〜!」
 ロキ「はわわっ、ご、誤解だトール! 歌舞伎役者調じゃなくて、もっとこう、冷静になって、話を聞…」
 トール「るさい! 話は署でいくらでも聞いてやる。さあ、きりきりお縄を頂戴せんか!」

 ホルス「やれやれ…。少しはまともに話をしようじゃないか。だいたい、我々は巨人じゃないぞ。ここの神だ」
 トール「やかましい。アスガルドの外に住んでる奴は、神じゃ無ェ!

 それって、吉野川の向こうに住んでる人は徳島市民と認めないような了見の狭さだと思うよ、トールさん。(※ローカルネタ)
 北欧神話て、エジプトと違って、よその神様にすっげー厳しい。
 ホルスは溜息をつき、横にいたトトのほうを振り返りました。

 ホルス「しょうがないなあ。こういう相手は…トト、君、ちょっとお相手してやってくりないか。」
 トト「えええ、僕?!」

 アヌビス「ああいう熱血野郎は、体力馬鹿だから魔法が効くだろう。」←正解
 コンス「そうそう。ここはトトん家なんだし、トトが守るべきだよな。」←正論
 クヌム「…明日が在るどの外に住むって、どーいうことだ??」←マチガイ

波乱の予感を感じ取り、ちゃぶ台ごと、ちゃっかり物陰に避難している他の神々。丸まったヘプリが後ろのほうに転がってて、かなりシュール。
 (み…みんな、傍観者…?)
 助けてくれないようだ。

 トトは泣く泣く、トールさんの前に向かい合いました。

 トール「ほう。貴様が俺への挑戦者か。ずいぶん貧弱な鳥だが、それでいいのかな? 俺はかつて、巨大猫をも持ち上げた男だぞ(※in巨人の王ウトガルザ=ロキの城)」
 ロキ「嘘つくなー、本当はちょっとしかあがらなかったくせにー」
 トト「が、外野からアオらないでくださいよ…。(涙)」

 トールさんは自信たっぷりだ。どうするトトさん。北欧神一マッチョな怪力神が、目の前に仁王立ち。


+++
 ところで、すっかり忘れられてしまったロキさんの息子さんは、というと…。

 ハピ「いやあ、びっくりしたなあ。お前さんみたいなのが上流から流れてくるなんて」
 蛇「みゅー。」
 ハピ「久しぶりのお客さんだほれ、たーんとお食べ。」

 ナイル河の水のたまる場所、河ん中にあるハピ神の秘密のお宅に流れ着いて、おもてなしを受けていたそうな…。
 だんだん「北の国から」じゃなくなってる気がしますが、…実あんまり見たことないんだ(笑)

つ  づ  く


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