大神殿のナイショ話

2号館出張版-北の国から’2002-

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 ウプウアウト「…と、いうわけで、どうやら何処か遠い国の神らしいんですが」

 さきに戻ってきたウプウアウトは、上エジプトの守護者ネクベト様の邸宅(大神殿)のある、ネケブの町へ報告に行きました。トトさんもここでミーティング中。
 なんせ人の移動範囲が限られている時代ですから、イレギュラーな神様というのは滅多に出現しないものです。まして遥か遠方の神様なんぞ、異世界人にも匹敵します。どっか次元の壁でもブチ破ってつっこんで来たんだろうか。

 ネクベト「ふうむ。一体どこの神だろうな? あすがるど、とは…。ギリシアではなさそうだが…トト、何か知っているか」
 トト「いえ、しかし、ある程度の予想はつきます。」

さすが知恵の神。トトさん、何か知っているようです。

 トト「ミケーネ(ギリシア近辺のこと)より、はるか北の白い国でしょう。この寒気も、はるか北の神々が国境を越えて入り込んで来たせいと考えれば納得できます。」
 ネクベト「くだんの者たちが気候不順の原因だというのか。では早々にお帰りいただくのが一番だな」
 トト「ええ。しかし、不要な戦いは避けるにこしたことはありません。単に道に迷っているだけなら、ここは平和的に、方角を教えればいいだけではないかと。」
 ウプウアウト「…まあ、そんなところでしょうねえ。それにしても、何だってこんな遠いところまで来たんでしょうか。」

 まったくです。
 北欧からエジプトまで、どんだけあるんでしょうか。いくら、飛行アイテム「鷹の羽衣」装着とはいえ、ぶっ飛びすぎですロキさん。

 トト「じゃあ、ひとまず、その…河に流れていったヘビ? を、皆で探そう。」
 ネクベト「私も手伝おう。この季節なら水位も下がっているし、特に苦労することもあるまい。」

と、いうわけで、上エジプトの神々は、総出でヘビ探しに出かけました。
 大体の町は川沿いに位置してるんで、それぞれの町の守護神たちが皆して川べりを見張っている状態。
 その頃、コンスはというと、ロキさんの見張りがてら、一緒にナイル河を下流方向へ下っていました。

 ロキ「おーーい。息子ーー。どこだーー」
 コンス「いねーなぁ、だいぶ流されてったんじゃねーのか? それか流れに飲まれたか」

 ちなみにナイル河には何箇所か、かなり流れの急な渓谷があるのでした。

 ロキ「自慢じゃないが、うちの息子は泳ぎは得意だ!」
 コンス「…そうか。なら別にいいけどさあ…。」

蛇を息子だと言い張るロキさんを疑わないのは、なぜなのか。
 それはね。エジプトの神様ってのは、色んな姿をしてるもんで、カエルひつじとか、ライオン人間とか、イルカとか、見た目が違ってても結婚できるから。それでフツーに子供が生まれてくるので不思議なモンです。や、見た目は関係ないんでしょうね。要は心(?)と、いうことで。

 ロキ「それにしても、この河デカいなー。これが噂のエーリヴァーガル河?」
 コンス「違ぇーよ、ナイル河だっつの。ったく、なんも知らねーんだなぁ」
 ロキ「しょうがねーだろー? こんな辺境のことなんか知るかっつの」
 コンス「だから、ここは辺境じゃねっつってんだろ!」

なんかノリの似ている二人。お国自慢で喧嘩してどうするのか。
 と、空中で言い争っていた、その時のこと。

 トト「おーい」

やっと、トトさんが迎えに来てました。

 ロキ「何だ、また鳥が来る。」
 コンス「鳥って言うなよ! っていうか、遅ぇよ、トト」
 トト「ごめんごめん。皆に蛇くんを探すように指示してたら遅れちゃって。…あ、でも、とりあえず一通り知らせを出したから、すぐに見つかるはずだよ。メンフィスより上流なら、河の流れは基本的に一本だし。」
 ロキ「…指示?」

ロキさんの表情がぴくりと動きました。

 ロキ「あんた、もしかして、ここらじゃ偉いほうなのか。」
 トト「偉い…うーん…、多少は…。」
 コンス「今さら何言ってんだよ。オレも偉いんだよこう見えても。ちなみにコイツはトトって言って、知恵の神やってんだ。」
 ロキ「…!!」

 何か、ものすごくイヤそうな顔をして身を引くロキさん。

 トト「あのー、どうかしました?」
 ロキ「え、いや。その、知恵の神っつーと、どうもウチのワガママで嫌味なジイさん(※オーディン)、思い出しちまってさ。…まあ、その、あんた若いし、あーいうんじゃないと思うけど」

 あれやこれや思い出し、少々遠い目をするロキ。そんなこととも知らないコンスは、言います。

 コンス「ジジイな知恵の神も、いちお、いることはいるんだぜ?(ヘジュ・ウルのこと) 酒飲みでバクチ好きだけどさー」
 ロキ「ウチのもなんだよ。メシも食わねーで、ぶどう酒だけで生きてる不思議な奴でさ。せっかく旨いメシ出されても、みーんな、趣味で飼ってる狼にくれちまうんだよな。そのくせ趣味が逆さづり修行ときたモンだ。ったく、何が楽しみなんだかよく分かんねーよ。」
 コンス「あー、わかるわかる。そういうの、たまに居るんだよな。やっぱメシくらいはきちんと食うべきだよ。なあトト。お前もそう思うっしょ?」
 トト「うーん、そうだね。個人的には、その知恵の神[同業者]っていう人のことが知りたいなあ」
 ロキ「おお? 聞いてくれるのか? いいヤツだな! それがさー、そいつオーディンっつって、自分じゃ万物の父のフリしてっけどさ、実はきにいらねーもんは全部ぶっ壊してきただけのワガママじいさんで…」

 重要事をスッカリ忘れて盛り上がっている、神様トーク。
 そうでした、実はロキさんも、どっちかというと苦労性なヒトでした。トトさんと違うのは、自分からトラブルを背負い込みたがるいうところで(笑)

+++
 さて、その頃。
 下エジプトは、いまだかつてない、原因不明の強ッ烈な寒気に襲われていました。
 川べりには、顔を半分隠したお嬢さん。

 通りかかった神・ネレス「おや? どうしました」
 ヘル「…。」
 ネレス「どこか調子でも悪いのですか?」
 ヘル(ふりむきながら)「わたし…キレイ…?」

その顔の半分は、嗚呼、なんと青ざめた死者の色だった!

 ネレス「ぎゃーーーー!」

 ホラーです。

 ヘル「そう…やっぱり怖いのですね…。ああ、お父様、お兄様。どこにいるのでしょうか…」

 らーら〜らららら〜♪ るるるーるるるるるー♪←「北の国から」テーマ曲
 はるか北の国から、家を出たきり戻ってこない父と兄を探してやって来た極寒の少女!
 彼女は冥界の女王様なわけで。
 冥界は北海道で言うと網走くらい寒い場所なわけで。

 気絶して流れていく魚の神・ネレスの後ろから、すいすいと泳いでくる細長いもの…

 ヘル「あら? お兄様…?」
 蛇「え、わたし、女ですけど」

人間違いです。それは蛇の女神、ウアジェトさん家のお付き女神。しかも聖なる蛇はコブラなので、北の国の蛇とは形が違う。

 ヘル「わたしの兄を知りませんか。ちょっとスリムな蛇なのですけれど」
 蛇の女神「男の蛇は、あんまり見かけませんねぇ…。っくしゅん! …あー、なんだか寒いわ。眠たくなってきてしまう」
 ヘル「そうでしょうか。わたしには、まだ少し暑いくらいなんですが」
 蛇の女神「あなた変わってるわねえ。そうねえ、迷子だったら迷子センター(※ヘルモポリス)へ行くといいわ。このまま河をまっすぐ北へ行って、途中の分岐点を右よ」
 ヘル「まあ、ご親切にどうも…。」

蛇は寒いのではやくおうちへ帰ろうと、すーっと泳いでいってしまいました。
ひとり残されたヘル(蛍)。トボトボと歩き出す彼女の行く手には、白い雪が積もりはじめておりました…。

つ  づ  く


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