大神殿のナイショ話

にぎやかヘルモポリス〜トトさんは大変だ(2)



 前述したように、トトの住む町、ヘルモポリスには、トトだけでなく、タテネン、アテンといった神々も居候している。
 私が思うに、古代エジプトでいっちゃん濃ゆい宗教都市だと思う。
 とにかくメンツがスゴイ。兎に角スゴイ。日本で喩えるなら、奈良公園に祇園と三十三間堂と伏見稲荷をくっつけ、さらに通りの向こうには春日大社と平等院鳳凰堂が立っているくらいの勢いだ。
 …濃ゆいですねえ…。 ※本気で信じないように。

 そんな濃ゆい町の統率を任されていたのが、我らが知恵の神、トトである。

 トト「……。」

 彼の後ろには一族郎党・眷属・配下および家族の神々が存在する。何しろエジプトの神は、数が多い。知恵や知識に関係する神だけでも相当な数がいたんじゃないだろうか。特にコノ人とか。

 ヘジュ・ウル「よぉ! 調子はどうじゃ?」

 太古の知恵の神、トト神の前身になったことから、「じゃー祖父ってことにしとこう」と、このサイトでは祖父扱いされているヘジュ・ウルだ。
 普段は下エジプトの大都会でのんびり隠遁生活をしているが、ヘルモポリスの守護神に名前が入っている以上、このジッチャンも、たまには出身地に近いヘルモポリスを訪ねて来ていたはずだ。もちろん、土産は3度のメシと同じくらい好きな酒。ジッちゃんは酒好き・おおめしぐらいなのだ。(本当にそう書かれてるのよ伝承では。)

 セシャト(トトの妹)「あっ、いらっしゃーい、おじいちゃんv」
 ヘジュ・ウル「がっはっはっは。セシャトか、久しぶりじゃの。兄キはどうした?」
 セシャト「お兄ちゃんなら、奥でお仕事してるわよ。」
 ヘジュ・ウル「なに〜、仕事〜? ったくアイツは、父親に似て生真面目じゃのぉ。どれ、たまにはワシが代わってやるとするか。」

 と、のっしのっし神殿の奥へ侵入したジッちゃん。書類を前に部下とあれこれ相談していた会議室に(ドアは無いので)容赦なく踏み込みます。

 ヘジュ・ウル「トト! おるか。」
 トト(びっくり)「え?! あ…ジイちゃん…?!」
 ヘジュ・ウル「元気にしとったか?」
 トト「そりゃ元気だけど…今、仕事中なんだよ。」
 ヘジュ・ウル「ああ、構わん構わん。わしが代わってやるわい。お前もたまには羽根伸ばして来い。(←シャレにならん。トトはトキの姿した神様だ)」

 けれど、それには問題があった。ヘジュ・ウルは知恵の神だけど字は書けないのだ。
 何でかって言うと、文字が発明されたのはかなり後の時代になってからで、彼が現役だった時代は、まだ「文字」が発明されていなかったからなのである。
 つまり、ジッちゃんの時代には、文字=絵記号。知恵=口伝。…これがヘジュ・ウルの時代の常識なのだ。現代で言うと、パソコン・電卓が無い時代の会計士(そろばん使い)みたいなものじゃーなかろうか。

 トト「い…いいよ、ジイちゃんにはムリだから。」
 ヘジュ・ウル「何、ムリ? けしからんな、わしはまだ現役じゃぞ?! 巻物の一つや二つ、さばいてみせるわい!」
 トト「わーー、駄目だったら! 書類散らかさないでよ!」

 このやうな2人のやりとりを、果たして部下の下級神たちはどのように見守っていたのやら…。双方とも、かなり高位の神なので手出しは出来なかったにせよ、おそらく、微笑ましく見つめていたことであろう。

 トト「ったく。ジイちゃんと来たら…ん?」

ふと見ると、そこには、カサコソとアテン神が。

 ヘジュ・ウル「おお、なんじゃコレは? また面白いモンがおるのう。」
 トト「あ、駄目だよ、苛めないでよ」
 ヘジュ・ウル「わっはは、苛めたりなんかするもんかい。どーれ」

がしっ→掴む  ブシュッ。→潰れた

 トト「あ……、」
 下級神一同「……あああ…。」

 何ということでしょう! ヘジュ・ウルのバカ力で掴まれたアテン神が握りつぶされてしまいまったではないか。
 呆然と立ち尽くす神々をぎこちなく振り返ったヘジュ・ウル。どうやら本人が、いちばんショックを受けているようだ。
 手についたべとべとしたもの(何?)に、しばし目を落としていたあと、ジイさんぽつりと一言。

 ヘジュ・ウル「…じゃ、わし、帰るわ。」

 かなりショックだったらしい。

 トト(大慌て)「あ、あのさ、折角だし久しぶりにセネト―――とか、していかない? 仕事は部下に任せるし。ねっ?→振り返る」
 部下一同(力いっぱい頷く)
 ヘジュ・ウル「セネトか…。」
 トト(一生懸命)「そ、そ。ジイちゃん好きでしょ? ねっ?」
 ヘジュ・ウル「うーん…。いいかもしれんのう…。」
 トト「よし決まり! じゃ仕事は任せたからね。よろしくね」
 部下一同(声をあわせて)「わっかりましたあ!」

 落ち込んだジイさんを元気づけるためトト神は自らを呈してジイさんの大好きな、エジプトすごろく(それがセネトという遊び)に打ち興じることになった。まぁいっちゃうと、それはバクチなわけです。例のカエムワセトなんか、賭けてましたし。HAHA。
 バクチはジイさんにとって3度のメシより好きなもの。いっぺん始めてしまうと、3日くらい終わらないんだコレが。しかも、トトもどっちも知恵の神だし。

 さらに。
 タテネン「おっ、何々? 面白そうなことしてんじゃん。オレも交ぜて〜」
と、乱入。ますます勝負は終わらなくなっていったりして。

 そのころ、アテン神にハマってヘルモポリスに遊びに来ていたヘプリ神は、潰れてしまったアテンを発見して絶叫していた。
 ヘプリ「っあああ?! 僕の…僕のアテン第弐拾四号が!!」
 下級神A「いいじゃないですか。まだ一杯いるんだし
 ヘプリ「良くないっ! コイツは僕の一番のお気に入りだったんだあ! うわーん!」
 下級神A「……。(区別、つくんだ。この人)」

 潰れたアテンを抱いて泣くヘプリ神に、周囲の反応は多種多様だったとか。
 ヘルモポリス。相変わらず、色々とにぎやかな出来事の絶えない町なのであった…。

+++
 なお、ときどき、狒々の姿をした知恵の神が、書記官を見守るオブジェが発掘されることがある。
 この像は、トトとは呼ばれているものの、実際は、ヘジュ・ウル信仰の名残を残していると思われる。
 「え、ジイさん書記の仕事手伝ってんの? じゃあ字がかけるんじゃない?」…甘い甘い。狒々の姿をした知恵の神がよく出てくる壁画ってのは、「死者の魂の審判」のとき。心臓とマアトの羽根を秤に乗っけて、重さを量ってる時ですよ。
 そん時、秤の上に乗ってる狒々の姿は、どう見たって威圧しているようにしか見えない。
 知恵の神なのにオドシかけちゃって。
 トキの姿の知恵の神は、計量の結果をメモってるのに、狒々の姿をした知恵の神は死人にガンたれているのだ…。
 いや、そう見えるだけなんですけどね。
 見えるってば。多分。



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