大神殿のナイショ話

神々の憂鬱−女主イシスの激怒



エジプト神話には、対をなす神が多く存在する。<クク>と<カウケト>、<ニアウ>と<ニアウト>…
世界の創造にさえ、男女一対の神々の力が現れる。
古代人は知っていたのかもしれない。人が一人では生きられないように、
神々もまた、一柱では完全にはなれず、互いに協力し、対抗しあうことによって、世界を生み出していくのだということを。



 最初はただ、仲が悪いだけだと思っていた。
 夫婦ゲンカを止めたいと思っていた。ケンカさえしなくなれば、少しは平和になるかと思っていた。でも現実は違う。今は彼も知っている、争いを生み出すために生まれて来た一対の夫婦神は、破壊を生み出し、秩序を乱すことで世界を再生させる――――永遠にぶつかり合う元素なのだと。


 嵐を避けて、神々は河岸神殿の中に避難していた。とりあえず、屋根はある。しかし、壁が無いので結局のところ、濡れるのは同じ事です。

 イシス「戦力は、これだけなのね?」

厳しい厳しい顔をして見渡した女神の前には、コンス、タテネン、クヌムの3人が待機しています。他の戦える神々が人間たちの世界へ下ってしまって、たまたま残っていた…というべきでしょうか。

 タテネン「だいたいコンス、何でお前がここにいるんだよ。テーベの守りはどうした? 親父ンとこ行かなくていいのかよ」
 コンス「いいんだよ。あそこはモントゥが守ってっから。それよか、こっちのほうが戦力足んねーんだろ? 適材適所じゃん。」
 クヌム「…タテネン、あんたこそいいのか、地下世界のほうは。」
 タテネン「全然オッケー。ちなみに、今、地面の下からオレ様のしもべどもを侵入させて内部を探らせてるぜ。敵が誰だろうと、フン転がしやミミズってのはノーマークなはずだからな。」

 イシス「……。(はあ)」

かなり心もとない戦力、と、いうか、偏りすぎているような気がしなくもない3人組。せめてもう少しマシな…とは、なかなか言えないのが現状です。

 イシス「…とにかく、トトが敵の手中にあることはほぼ確実なんだから、迂闊な真似はしないで頂戴。いいわね。とにかく出方を見るのよ、出方を」
 タテネン「もう見てるよ〜ん」
 コンス「とか何とか言ってるうちに、もう来てるぜオイ?!」

そのとおり。
 来てます、バアル。嵐吹きすさぶ河岸神殿の上空に、燃え立つような赤い髪をした異邦神が。

 イシス「! クヌム、あなたは戦えない者たちを守って。コンス! 撃退なさい」
 コンス「了解! まかしとけっ」

 コンス神は、かなり好戦的な神様です。生命の守り手にして魂の癒し手でもありますが、何せ生きることは戦い。生存競争に勝てなければ生きていくことは出来ないのですから、生命力の象徴でもある彼は、とにかくいつも戦う気満々。
 ―――言い訳ではないですよ。これ。

 コンス「うおりゃア!」

 いきなり大魔法などブチかますコンス。「月の光は愛のメッセージ」ではないです。命の波動です。しかも、攻撃したあとビシっ、と砂煙の向こうに指をさして。

 コンス「名を名乗れ!」
 イシス「って、普通は攻撃する前に聞くでしょう!(ツッコミ) そいつはバアルよ、ヒクソス人が連れて来たんだわ。気をつけて! 今の攻撃は、効いてないわよ!」
 コンス「何ィ?」

 振り返ると、攻撃の煙の向こうに、まったく無傷のバアルが浮かんでいました。ちょっとフリーザ様ってカンジです。(古い)

 コンス「げー…。けっこう強いんじゃん、コイツ。」
 バアル「ふっ。お前が弱いだけだろ」
 コンス(ムカ)

 ちょっとキレたコンス。誰にも増して、切れやすい若者である彼に、静かなる怒りで目覚めるスー○ーサイヤ人は無理というもの。(古いってば)

 バアル「…それにしても、何だお前? あのトリとやけに似てるじゃないか。」
 イシス「トリ…って…(そういうバアルは半魚人の息子だろう、とか思ったが、さすがに低俗なことは口にしないイシス女神。)」
 コンス「トトのことか?! テメエ! オレの従兄弟をどこへやった! 照り焼きとか、煮込みシチューとかにしてないだろうな!」

 無茶なことを言うコンス。

 バアル「いや、食わんってそんなん(素で返す)」
 コンス「そんなんとか言うなー!」
 イシス「……。(もしかして、同じレベルなのかしら、このコたち)」

 などと、イシスが内心呆れたのもつかの間。

 コンス「とにかく、お前を倒せばいいんだな! うおお、覚悟しやがれ!」
 バアル「はっはっは! いいぞォ、かかって来やがれ、トリ2号!」
 コンス「オレはトリじゃねェ〜〜!」

 似たものどうし、やはりこうなる運命なのでしょうか。二人は、あっという間に手加減なしで戦いはじめてしまいました。もはや味方のことなんかスッカリ忘れてしまっている様子のコンス神。河岸神殿が衝撃波でグラつくのに、守りに徹していたクヌム神もタジタジ。
 そもそもクヌム神はナイル上流の結界を定期的に破る役目持つ神なので、どちらかというと、守りはニガテ。

 クヌム「こっ、こら! コンス! お前味方まで巻き込むのかよ、って―――聞いてないだろ?!」
 タテネン「う〜ん…。」

 必死で神殿を支えるクヌム君の横で、タテネンはこめかみに人差し指を当てて、何やら神妙な面持ちでチャネリングしていました。

 クヌム「〜って、タテネン! あんたも手伝えよなっ、オレ、自慢じゃないが結界張んの苦手なんだよ!(いつもはデドゥンとか部下にやらしている)」
 タテネン「来てるな〜…。」
 クヌム「は? 何がだよ!」
 タテネン「来てますよ〜もう一人。たぶんありゃーバアルの配偶神アナト女神だな。それと−…セトがいるぞ。なぁるほどね」
 クヌム「って、虫から電波受けとってんじゃねーよ! 相変わらず気持ち悪い奴だなお前は! …はっ」

 何か、壮絶な気配に気がついてギコチなく振り返るクヌム。そこには―――鬼のような形相をしたイシスがゆらりと立っていました。

 クヌム「な、何、何だよ…」
 イシス「今…」
 クヌム「は、はい」
 イシス「いまなんて。セト? セトですって?」
 クヌム「……。」
 タテネン「んー、いますね。本社最上階、社長の間に。ふんぞりかえって高笑いしてます。トトは見当たりませんねぇー(手下の虫と同調中。)」

 ピキッ、と、イシスの額で何かが割れたような音がした。

 イシス「ふ、ふふふふ。そう。そういうこと。そういうことなの。成る程ね…タイミングが良すぎると思ったのよ。セト。そぉぉぉぉお」
 クヌム「あの…(汗)」
 イシス「よく分かったわ。今回の事件はすべて、あの裏切り者が仕組んだことだったのね。国を売ってまで、再び王座に挑戦しようとは、何て浅ましいこと。許せない…たとえナイルが許しても、この私が許さない! の女神ヌトに代わって、おしおきよ!!

 そのとき、クヌムはじめ多くの神々は、本気で怒ったイシス女神を初めて目の当たりにしました。それは、セトがホルスと王位を争ってホルスに×○○的行為をしようとした時以来のことでした。
 髪を振り乱し、凄まじい魔力を放ちながら歩き出す彼女に、嵐の風も避けて吹く。戦っていた二人も、ビクっとなって振り返ります。
 
 イシス「バアル…、セトのところまで案内しなさい。」
 バアル(びくっ)「…何のことだよ。」
 イシス「案内しなさいと言っているでしょう。答えなさい。あの馬鹿は、まさか本気で王位を奪えると思っているわけじゃないでしょうね。」
 バアル「…ふん。あんたら、この国の神々はここで終わりさ。じきに全ての神殿が取り壊され、この国の人間はオレの国の捕虜になる。人間たちが滅びて、誰もあんたらを信じなくなったら、今あるその力も消えうせて神はただの影になるんだぜ。」
 イシス「そうはさせないわ! 私たちの力を甘く見ないことね。一人や二人の神が紛れ込んだくらいで、どうにかできるほど、この国の人間は不信心じゃないのよ。それとも、何? お前がこの私に挑戦するというの。この、魔術の女王であるイシスに。

 イシスの権威は凄いものでした。迫力はさすが大女神というべきで、バアルもタジタジとなっています。
 そう、彼女は魔術の女王。言葉に力を乗せて、相手を圧倒するのも術のうちなのです。
 しかし、バアルは無理に笑うようにして、こう返しました。

 バアル「そりゃ、アンタが息巻くのは勝手だがな。ヘタな真似をするようなことがあれば、あの人質のトトって神がオレの連れに殺されちまうぜ。そりゃ、あんたらにとっても得策じゃねーと思うんだがなぁ。」
 イシス「くっ…。卑怯な。彼を使って何をしようというの!」
 バアル「さーねー。いろいろ便利らしいじゃん、アレ。秘書にでもするんじゃない?」
 コンス「このッ…」

 カッとなったコンスが掴みかかるより早く、バアルは笑い声とともに嵐の中に姿をくらましています。怒りと、やるせない思いとだけを残して、神々は、降りしきる雨の中、暗く聳え立つピラミッドを見つめていました。

                                                     >続く



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