大神殿のナイショ話

知恵神コンビ・初めての決闘




 こうして始まってしまった仲たがい。
 何だか、やたらプンプンしてギリシアへ帰っていくヘルメスを見たアヌビスは、不思議に思ってトトの部屋を訪ねてみた。

 アヌビス「おいトト、一体何が――――うわっ?!」
 トト「……。」(ゴゴゴゴゴゴゴ)
 アヌビス「(怖い?! そんな、まさかこのオレが恐怖するとはッ…)」←違う話になっとる
 トト「ふ…。」

部屋にほのかに残るおしろいの臭いもさることながら、いつになく闘気丸出しのトトが恐ろしかった。アヌビスは、ただ呆然としたまま、その場に立ち尽くしている。

 アヌビス「な、何があったトト。一体…これは…。」
 トト「ふふ。別に…別に何もないさ。ただ、どこかの口の軽い男が余計なことを言っただけだ・か・ら♪ ふふふ。」
 アヌビス「余計…?」(汗)
 トト「別に大したことじゃないから、ホント。気にしないで…(ゆら〜り)」

 オーラ発散しながら部屋を出て行くトトに、アヌビスは、冷や汗を浮かべたまま、同僚の後姿を見送っているしかできなかった。いつもわりと周りに流されてるカンジの、お人よしなトト神をここまで本気で怒らせるとは一体? それって、ある意味ものすごい才能じゃないのか、と彼は思った。ヘルメス、さすがは弁論の知恵を持つ神。
 一方そのころ、ヘルメス神のほうも。

 マイア(ヘルメス母)「一体、どうしちゃったの? エジプトから戻って来てずっとこの不機嫌そうよ」
 ヘルメス「…別に。」
 マイア「別に、じゃ分からないでしょう。お母さんにもいえないことなの?」
 ヘルメス「うっさいなー! 黙ってろよ、おふくろはっ! おふくろがそーやって構うから、オレがマザコンとか言われるんだろー!」
 マイア「…マザ…コン? 誰に言われたの、そんなこと。」
 ヘルメス「誰だっていいだろう別に! ほっといてくれよっ、もう!」

 とか言いつつ乱暴にドアを開けて外ヘ出て行くヘルメス君。

 マイア「反抗期なのかしら…? あの子も難しい年頃なのね。(溜息)」

違うって。それにしても動じない人だなこの人…。さすがアトラスの娘か…。

 しかし、この調子で彼が回りの神々に当り散らすのにはさすがに最高神(社長)ゼウスも困ってしまいました。色んな意味で知恵の働くヘルメスは、神々の調停役もつとめます。その彼が不機嫌では、お使いを頼もうにも頼めないからです。

 ゼウス「うーむむ…困った…。」
 ヘラ「いいじゃないの。男同士の仲たがいでしょ? 放っておけば仲直りもしますよ。女関係ばかりでトラブルを起こすどこかの神よりはましではないの。」
 ゼウス「……。(汗)」

 しかし、コトはそう簡単ではないのでした。
 他の神々ならイザ知らず、トトとヘルメスはともにかなりの実力派。そしてまた、伝令役のヘルメス神と、外交官もつとめるトト神とは、必然的に出会う確率も高かったわけで。

 トト「……。」
 ヘルメス「……。」

シリアでばったり出会ってしまった二人。嗚呼、これぞまさに神のお導き。っつーか、争いの女神エリスあたりに仕組まれたことだったのか。

 ヘルメス「よぉ、シスコン。こないだのこと謝る気にはなったのかよ。」
 トト「ふん。親離れできてない上に倫理観も欠落してる人に謝ることなんてないね。」

 出会うや否や売り言葉に買い言葉。おいおい君たち、曲がりなりにも調停の神なんじゃなかったのか。
 お互いの間に、瞬時にしてビシビシと殺気がみなぎります。

 ヘルメス「この…ガリ勉虚弱体質! 理屈ばっかこねやがって、だからお前はカノジョの一人も出来ねーんだよ!」
 トト「何だよ! 脳みそ筋肉! 考えるより先に手ェ出しちゃって、ちっとも理性的じゃないじゃないか、君は!」
 ヘルメス「何だと? だったら勝負だ!」
 トト「望むところだ!」
 周りで見ている神々「う、うわぁ…。」

 他人さまの国で神様対決。なんて迷惑な、と思いますが、神様なんてそんなモン。天災みたいなものなので、バトルフィールドにされた国のみなさんは、運が悪いと思って諦めましょう。

 ヘルメス「いくぜ!(と、言いつつカリュケイオンの杖を構える)」
 トト「手加減しないからな!(こっちはヘカ杖)」

 えー、…ところで、ギリシアには基本的に魔法があまりありません。魔法的アイテムは数多いのですが、魔法のバリエーションとしては、変身、飛行などといったものくらいです。対して、エジプトは召喚、ステータス異常、攻撃、防御など種類豊富。
 ギリシアの場合、魔法より肉体で戦うことが多かったようです。

 ヘルメス「おりゃー!!!」

 いきなり杖で殴りかかるヘルメス。杖に宿る唯一の魔法、眠りの力はトトに通じないと見ての戦略か。

 トト「そういうのが野蛮だって言うんだよ!」

 トトは素早く防御の呪文を唱えつつ空中へ回避。さすがはトキを化身とする神様、飛行はお手の物。いきなり最強呪文などブチかまして大惨事を起こさないあたり、まだまだ紳士的な戦い方です。
 「バシッ」「バシバシッ」「ドシュッ」「…ハアッッ!」「ふう〜…準備運動はこれくらいにしておこうか」
 そう、これが男の正しい戦い方なのだ。〜小説ドラゴンボールより〜(※管理人がその昔ギャグで書いた作品。現存しない)

 一方、激しく戦う二人のうわさは、アッというまにギリシア、エジプト双方に伝わっていました。戦場にされた国の神様が、同盟国にヘルプを求めたのでした。
 こちらはエジプト国内。

 アヌビス「――――何? トトが他国の神とケンカしているだと?!」
 下級神のみなさん「ええーー?! あのトト様がッ?!」「信じられない…あの人ケンカなんかするんだ?」「よせよ、言うなよ。きっとストレス溜まってるんだよ。」「…そうかもな。(ほろり)」

 えらい言われようなトト。しかも、何か納得されているし。

 アヌビス「…。そういえば、この間から何か様子が妙だったが…。場所はどこだ、兎に角収集をつけに行くぞ。」

 国外まで出て戦闘できる神様というのは、そうそう多くはないのでした。エジプトの軍が外国へ戦争しかけるときに加護を与えられるのは、アヌビス、ホルス、ラー、プタハなど高位の神々だけですから。

 セシャト「わっ、私も行く!」
 アヌビス「うむ…そうだな。イザとなったら、お前に止めてもらうしかない。行くぞ」
 セシャト「はいっ!」

 二人は大急ぎで現場へと向かった。その頃―――
 現場はというと。

 ヘルメス「うおりゃあああ! ジッちゃん直伝! 秘術・岩おとし!」←魔法より肉体派
 トト「霊獣召喚! 出でよスフィンクス!!」←素手はあまり強くないので大魔法

 …荒れに荒れていた。

 ヘルメス「はー、はー…(汗を拭いつつ)や、やるじゃねぇか、トト。ひ弱なガリ勉クンかと思ったら、意外と体力あるな?!」
 トト「そっちこそ…。(息がきれかけ)体力バカなわけじゃなくて、いちおう戦略もあるんだね。」
 ヘルメス「フッ。言うじゃねぇか。その減らず口具合だと、まだまだいけるな。」
 トト「ああ、モチロンさ。そっちこそ、そろそろ余裕なくなってきてるんじゃないのか?」
 ヘルメス「どーかな。試してみるか?」

 再び戦いが始まろうとしていた、その時でした。天上から燦然と輝く雲が降りて来たかと思うと、なにやら神々しい声が降って来て、二人の間を別ったのは。

 アテナ「お待ちなさい!」
 ヘルメス「えっ?」
 トト「あ、あなたは…。」

 それは、ギリシアの戦と知恵の女神、アテナ様でした。

 アテナ「戦いには理由が必要。この戦いに、一体あなたたちの争う如何なる理由があるというのです。」
 ヘルメス「そ、それは…。」
 トト「……。」

 まさか口ゲンカが原因だとか、なかなか素直に言えないし。
 そこへエジプト側からもアヌビスたちが到着。

 セシャト「お兄ちゃん!」
 トト「セ、セシャト。それに…アヌビス…。」
 ヘルメス「…けっ。やっぱシスコンじゃねーか。」
 トト「(ぴきっ)」

 このままいけば巧くまとまりそーだったところを、ツイ口が滑ってヘルメス君が余計なことを言ってしまいました。

 トト「何だよイチイチ、シスコンシスコンって! いいだろ?! 僕に恋人がいようがいまいがさ、だからって押し付けないでくれよな! セシャトは関係ないだろ?!」
 アヌビス「……(そういうことか)。」
 アテナ「……(なるほどな)。」
 セシャト「……。(シスコンって、なんだろ?)」

 一人除き(笑)、調停者たちにも、このケンカの原因と成り行きとが理解出来ました。なるほど、ありそうなコトというか、実に在り来たりというか。

 ヘルメス「けーっ。そーやって正当化しちゃぁオレのことマザコン呼ばわりするわけだ?! だいたいお前、仕事ばっかしで女の一人も作れないなんてハデスみてーなヤツだよな。ネクラ? っつーか、さては…」
 アテナ「ヘルメス。」(←語気を強めて)
 ヘルメス「(びくっ)…な、なんだよ。」
 アヌビス「トト、お前もだ。言われたことに対しカッとなって言い返したな?」
 トト「……。」
 アテナ「ガシッ(←ヘルメスの首根っこを掴まえつつ)ほほほ、どうやらそれぞれにお説教をしたほうが良さそうですわね。」
 アヌビス「ああ。お詫びは、後日落ち着いたらさせていただく。行くぞ、トト。」
 トト「………。」

 双方それぞれ、強制的に引き離されて本国へ戻されたのでした。
 ヘルメス君が、アテナやらヘラ様やら怖いおねえ様方にコッテリ絞られたのは言うまでもなく。

 アヌビス「で? お前、何だってまたこんな派手なことをやらかしたんだ。」
 トト「…。」

 アヌビスの取調室(ウソ)・地下墳墓にて、トトはいまだに黙秘を続けていました。面会に来た妹にも会わず、薄暗い部屋の隅っこでふてくされているばかり。

 セシャト「お兄ちゃん…。」
 アヌビス「今は、お前がいないほうがいい。ことによったらお前のことが原因かもしれんからな。」
 セシャト「私が…原因…?」
 アヌビス「まぁ何だ、大人には、いろいろ事情があるもんなのさ。」

 うなだれたセシャトが部屋を出て行くのを見計らってから、アヌビスは、ひとつ溜息をついてトトを振り返りました。いつになく頑固で口を利こうともしない彼に、同僚のアヌビスでも簡単には話しが出来そうにありませんでした。
 と、いうことは、たぶん他のどの神が説得にあたっても効果は無いでしょう。

 アヌビス「どうやら、これはオレにはムリなようだ。仕方がない。あの方に頼むとするか…。」

 ひとりごちたアヌビスが部屋を出て行ったあと。

 トト(何でこんなことになっちゃったんだろ。ケンカなんて、するつもり無かったのに…)
 ???「…トト」
 トト(僕としたことが、カッとなったくらいであんな…。はー、始末書だけじゃ済まないかなあ、コレ…)
 ???「トト、聞こえていますか?」
 トト「え? あ…」

 顔を上げたトトはびっくり。そこに立っていたのは、滅多に冥界から出て来ないマアト女神だったからです。

 トト「ま、マアト様?! どうして、ここに…」
 マアト「アヌビスから話を聞いたのです。まさか地上界でこんなことが起こっているとは思いませんでした。」

 マアト女神は真実と秩序を司る女神さまで、太陽神ラーの娘です。彼女がいなくては全ての秩序が成り立たない、言ってみれば、宇宙の法則を司っているような人なのでした。
 しかも、真実の知恵を司る、トトの直属の上司様。
 マアト様は、トトの横に腰を下ろしました。

 トト「…すいません。シスコンだなんて言われて、つい。」
 マアト「いかなる言葉を向けられても、相手の言葉が虚偽であったなら、それに対し怒りを感じることはないでしょう。トト、あなたが異国の神に対し怒りを感じたなら、それは、自分自身でその言葉が真実であることを知っていたからではないのですか?」
 トト「マ、マアト様、それって」
 マアト「同じように、彼が怒りを感じたのもあなたの向けた言葉が真実だったから。あなたは妹のことを常に考えていて、彼は両親のことを常に思っている。それをシスコン、マザコンなどという言葉で表してしまうから争いが起きるのでしょう?」
 トト「!」

 マアト「真実は真実。けれど、どんな真実も、表現する形を間違えれば悪しきものとなる。真実を言葉に変える力を持つあなたなら、分かっているはずでしょう?」

 マアト様にこう諭すように言われては、トトも、言い返すことが出来ませんでした。なんせ相手は真実の化身なんで。ヘタな誤魔化しは効きません。

 マアト「あなたは妹思い。彼は両親思い。それは良いことでしょう? 二人とも家族思いなのです、似たものどうしではありませんか。」
 トト「…そうですね。そう言えばよかったんだ。何やってたんだろ、僕。」(落ち込み)
 マアト「いいのですよ、素直に間違いを認めるのも大切なことです。あなたはまだ若い。たまには失敗することもあるでしょうから。」

 マアト様の微笑みで、ようやくトトの表情もほぐれ、これでメデタシメデタシ、となりそうなところ。――――
 だがしかし!!
 この成り行きを、ちょうどアテナ女神にこっぴどく絞られて渋々謝りに来ていたヘルメス君が目撃してしまったのです。

 ヘルメス「?! おっ、おいアヌビス、アヌビス」
 アヌビス「…なんだ。」
 ヘルメス「とっ、トトの隣にいるアノ美人…一体誰なんだ?! オレ、何度もエジプト来てるけど見たことねーぞ!」
 アヌビス「あぁ。マアト様か。あの人は普段、地下世界におられるからな。」
 ヘルメス「マアト様…。メチャ美人じゃん?! うあ、トトのヤツ、あんな仲良さそーに…。くっ(←ちょっと羨ましい)…なんだよ、カノジョいないとか言いながら、実はいるんじゃん〜。」
 アヌビス「……。」(それは違うだろう、と思っているが、ツッコむ勇気がない)
 ヘルメス「くっそ〜、だったらそーと最初っから言えばいいのに、アイツも照れ屋だなぁ畜生。余計なことしちまったじゃねーか、オレ。」
 アヌビス「……。」(照れ屋とか、そういう問題ではなさそうな気もするが、以下略)
 ヘルメス「んん?! 地下世界、っつーことは普段は滅多に会えないってことか? 逆ハデス! なーいすシチュエーションじゃん? よっし♪ このオレが恋を盛り立てて…」
 アヌビス「頼むからそれはやめてくれ。」

 新たなる騒動の予感。ヘルメス君は本当に余計な手出しをしないでいられるのか。そして怪しまれるトトとマアト様との関係は?!
 何はともあれ、トト(神様年齢;推定21歳)、ちょっぴり大人になった、とある日の出来事でありました。

 破壊された国の人々「うわああん! もうウチで決闘しないだくださぁぁい!!(泣)」
 …お気の毒に。



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