大神殿のナイショ話

知恵神コンビ・初めてのケンカ




 またまたヘルメス君が遊びにやってきた。

 ヘルメス「なートト、お前、カノジョとかいるのかー?」

ギリシアの神様たちは、とっても恋愛に情熱的なのだ。

 トト「…いないよ、そんなの」
 ヘルメス「えっ、じゃあ好きな奴は?」
 トト「特に…。」
 ヘルメス「うっそ?! じゃぁお前、ふだん何やって遊んでんの?!」

 どうやら、彼からすれば恋愛は日課のようなものらしかった。基本的に一途でお堅いエジプトの神様たちとはかなり違う。

 トト「女の人と遊ぶなんて…。それに、僕はまだ結婚なんて考えたことないよ。」
 ヘルメス「はぁ?! お前なに言ってんだ? 相手になったからって結婚なんかしなくていいんだよ、どうせ人間なんかさっさと死んじまうんだし。神なんだから恋愛は遊びでオッケーなんだよ。子供は多いほうがいいに決まってるだろー? 何だったらそこらへんの美人に手ェつけちまえよ。この国にだって美人はいるんだろ?」
 トト「に、…人間相手に恋愛しろっていうのか?! ダメだよそんなの! 神は人の世界に直接干渉しちゃダメなんだよ!」

 人間との間にガンガン子供をつくるギリシアの神様たちと違い、エジプトの神様たちは人間にあまり深く関わろうとしない。人間とは基本的に種族が違うから、交配出来なかったのかもしれないが…?

 ヘルメス君は面白くなかった。
 友達なので、やっぱトトにも恋愛ネタの話を振ってもらいたかったのだ。

 ヘルメス「よーし。それだったら、オレが適当にみつくろってきてやるよ。人間じゃなきゃいいんだろ、人間じゃなきゃ。どんな女が好みなんだ。」
 トト「こ、この…好み? ちょ、ちょっと待っ…」
 ヘルメス「分かんねーのか。よっしゃ、ならオレの趣味でいいな。うん、キマリ。じゃちょっくら探してくるわー♪」
 トト「ああ! って、ヘルメス君!!」

トトの制止も聞かずに、身軽なヘルメスは魔法のサンダルでたったか駆けて行ってしまった。

 トト「…僕、恋愛ネタは苦手なのに…。」

そして、それから数日経ったある日のこと。

 ヘルメス「たっだいまぁ♪ 見つけて来たぜ〜。」

 お仕事中のトト神のもとに、ヘルメス君は、いきなりお香の臭いプンプンさしながら戻って来た。本当に誰か女の人を連れてきてしまったらしい。

 ヘルメス「ホイ、こんなんどうだ」
 トト「わっ、わぁ?!」

 床に下ろされたのは、何だかずいぶん異国風な、見たこともない黒髪の女性だった。ムリヤリ掻っ攫ってきたこと一目瞭然。さすがギリシアの神様、人攫いなんてお得意なものだ。

 トト「ど…どこから連れてきたの…この人。」
 ヘルメス「インド。(と、さらりと言うヘルメス)名前はシーターっていうらしい。」
 トト「し、…シーター?!」
 ヘルメス「人間に見えっけど、いちおー神様とか転生したカンジらしいぜ。どうよ、ちょっとエキゾチックで美人だろ?」

 ここで説明しよう。
 シーターというのはインド伝承に出てくる美女の一人で、彼女のためにダンナと横恋慕した男との間であれやらこれやらの争いが起こる、災いを呼ぶ姫君なのだ。

 トト、真っ青

 トト「かっ…かか、か」
 ヘルメス「かわいい?」
 トト「返して来なさい!!!」

 色恋沙汰の争いごとに巻き込まれちゃーかなわない。しかも、相手はインド人だ。インドからエジプトなんて追っかけてこられそうもないが、気合いと徳パワーで戦車も浮かすようなヤツらが、何しでかすか分かったもんじゃない。

 ヘルメス「なんだよー、せっかく攫って来たのにさぁ。好みじゃないのか?」
 トト「僕はひとづまになんか手ェ出さないよ!!」
 ヘルメス「ちぇー。じゃ、しょうがない。返してくるわー。」

 と、そう言って、ヘルメス君はシーターを担いで元来た方角へと去っていった。トトはぐったり疲れて大きくため息。
 だが。
 彼の災難は、まだ終わってはいなかったのである。

 また数日後。

 ヘルメス「うぃーっす。今度はどうよ、どうよコレ」
 トト「ハァ――――?!」

金髪美女。パツキン。青い目の女性であった。

 トト「こ、今度はどっから…」
 ヘルメス「あぁ、北のほう。確かラップランドとか言ったっけな、あのへん」

 ということはフィンランドの北方? もしや、老賢者と鍛冶の匠が求婚競争して必死で取り合ってるポホヨラの美女ではなかろうか。
 ヤバし。
 ジジイ、オッサンもさることながら、雪国の一団がムッチリとエジプトに攻めて来たりした日には、砂漠は異常気象に陥ってしまう。降水に弱いミイラが傷んだりしたら、お客さん(人間)に叱られてしまう。

 トト「ダメだよ! 絶対ダメ! 返して来てよ!」
 ヘルメス「なんで。魔法も使えるしお前好みっぽいじゃん」
 トト「いや、だって…だから…その、彼女のお母さんが怒鳴り込んで来たりしたら、イヤじゃない…。(本気で)」
 ヘルメス「あー? コブつきはイヤなのか? ったく、お前ってほんと、ワガママな奴だよなぁ。」
 トト「(どっちがだよ!)」
 ヘルメス「しょーがない。返してくるかぁ。」

 ヘルメス君は、ぶつぶつ言いながら彼女をかついで、また去って行きました。
 そして…次の日。

 ヘルメス「うす。これでどう?」
 トト「うわぁあぁ!!(泣)」

 連れて来たのは、身近なところで、なんとアルテミス女神だった!!

 アルテミス「…何なの一体? なんで私がここに来なくちゃならないの?」
 ヘルメス「いいじゃん、たまにはさー。まーお前のような性格には、多少お堅いタイプがしっくりくるかと思ってさー。」
 トト「ま、まさかヘルメス君…?(わなわな)」
 ヘルメス「どうかなコレ?」
 トト「どうかなって。駄目に決まってるじゃん!!!

 アポロン(アルテミスの兄)が怖いとか、異国の女神はマズいだろう、とか、そういう話ではなくて、身内まで口八丁で騙して連れて来るヘルメス神が信じられなかった!(でも詭弁の神なので、それもアリ。)

 つれないトト神に、ヘルメスも今回ばかりはちょっとムッとしていた。

 ヘルメス「お前な! ガングロも駄目、美白もダメって一体どっち派なんだよ?! 人妻もダメだしギャル系も駄目とか! 条件キビしすぎるぞ!」
 トト「…(そういう基準だったのか…)だってキミが連れて来る人たちって、何かと争いのタネになりそうな相手ばっかりじゃないか。」
 ヘルメス「だってそのほーが見てて楽しいじゃん。(アッサリ)」
 トト「僕が厄介ごとに巻き込まれるのがそんなに楽しいのか…?」
 ヘルメス「楽しいに決まってるじゃん。なーに、お前ならどうにか切り抜けられるさ。人生にはスリルがつきものだろ? な? 恋はパッションだぜー♪」
 トト「色ボケしてわざわざ危険なことに足突っ込みたくないよ! 第一、なんで僕が強制的にお見合いさせられなきゃならないんだ?!」
 
いきなりケンカをはじめた二人の神に、アルテミス女神もちょっとオロオロ。

 アルテミス「ちょ、ちょっと何なの? あなたたち。人をこんな遠くまで連れてきておいて、何をケンカなんてしてるのよ。」
 トト「だから、それはヘルメス君が…」
 ヘルメス「オレはお前のためを思ってだな!」
 トト「最初から言ってるじゃないか。僕は恋愛なんてあんまり興味ないんだって!」

カチン。

 ヘルメス「なんだよ。そんなだからお前、シスコンって言われるんだよ!」
 トト「シス…」

プチ。

 トト「そういうキミはマザコンだって話じゃないか! しかも表面上はお父さんを悪く言いながら結構一緒に行動してたりするのは、愛情の裏返しってやつで、本当はファザコンの気があるんじゃないのか?!」
 ヘルメス「なん…だとぉ…?」

ゴゴゴゴゴゴ。

 お互い、なまじ知恵の神だけに、突いてはならぬところを突いてしまったようだ。地中海を挟んで、ギリシアの知恵神・ヘルメスとエジプトの知恵神・トトの戦いが今ここに。
 なにがなんだか分かってないアルテミスは、ただボーゼンとしているしかなかった。

 アルテミス「な、何? 何なの、これって…。一体…。」

 果たして二人のケンカの結末やいかに?!   ――――次回へ続く!



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