大神殿のナイショ話

神々の憂鬱−創造神クヌムの助言



 うららかな昼下がりのナイル河岸。

 クヌム「―――で? ネイト様の出した宿題が、イマイチよく分からない、と。」
 トト「うん、そうなんだ…。既婚者の君なら何か分かるかな、って思って。」

 トトは、友人のクヌム神とパピルス庭園でランチしていました。クヌム神はナイル川の上流出身の神で、地上における生命の創造を担当しています。
 奥さんのヘケトは、クヌムの創造した生命が母親の体から生まれ出るのを助ける、産屋の守護者。いわゆる職場恋愛というやつです。

 クヌム「そいつは難しい問題だよなー。んで? お前としちゃあ、知恵の神が問題を解けないことと、頭ナデナデされたことと、どっちがショックなんだ?」
 トト「どっちも…。(どんより)」
 クヌム「あっはっはっは! しっかし何だよな、なんでも知った顔してるお前にも分からないことがあったとはなぁ〜! 今度ザクセン(小アジア周辺の民族。エジプトに侵略を試みること数回)の奴等が攻めて来る時には、お前の弱点はオトナの問題だって教えといてやらないとな! 奴ら、きっと18禁ネタで責めて来るぜ〜! はっははは!☆」
 トト「クヌム!」
 クヌム「っと、悪ぃ悪ぃ。お前はこーいう軽いネタは嫌いだったな。」

 こほん、と一つ咳払いして、クヌム神はマジメな顔に戻ります。

 クヌム「マジメなお前のことだ、不毛なケンカは止めさせたいっていうんだろ。」
 トト「うん…。難しいけどね。」
 クヌム「そりゃ難しいだろうよ。オレなら逃げるね。触らぬ神にタタリなし、ってやつだ。」

 冗談めかして野菜サラダを頬張ったあと、彼は、ちょっと真面目な顔になって続けました。

 クヌム「―――そうだな、お前の迷ってんのは、セトとネフティスは仲悪いようにしか見えないのに、どうして夫婦になんかなったんだろう、ってことじゃないのか?」
 トト「うん…まぁ、遡ればすべての疑問点はそこなんだけどさ。」
 クヌム「オレが言うのも何なんだけどさ、最近思うんだよ。もしかしたら、結婚する相手ってのは、生まれた時から決まってるんじゃないかって。オレがヘケトと出会ったのも、もしかしたら、運命だったのかもしれない…ってさ。」
 トト「はぁ?!」
 クヌム「あ、いや、これはノロケじゃないんだぜ。えっと…何ていうか。つまりさ、オレたち神にも『運命』ってのがあって、そいつには逆らえないんじゃないかってコトだよ。」

 運命…。神々の中には、運命に関わる神も存在します。悪しき運命を司る男神シャウ。良き運命を司る女神レネネト。けれど、彼らの地位はそう高くはなく、人間たちに割り当てられた運命も、神々に祈ることで良き方向への取り替えは可能です。

 変えられない運命、避けられない災難などない…と、いうのが、これまでトトの知っていた常識でした。それなのに、運命を変えている神々自身が、運命に囚われている、と?
 たとえそれが、結婚相手、という、限られた運命であっても。

 トト「そんなの、おかしいよ。運命なんて無い。嫌だったら、嫌って言えばいいんじゃないか。」
 クヌム「けどさ、だいたいからして結婚相手ってのは限られてくるモンだろ? もしお前が結婚するとしたら、たぶん頭のいい女神を選ぶじゃないか。オレたち神が結婚する時ってのは単にホレたハレだだけじゃない、それによって世界のバランスが崩れないように考えることも大事なんだぜ。大抵が対になった相手を選ぶモンだ。それにさ能力が似たもん同士なら、自然と性格も合うんじゃないか。」
 トト「……。セト様とネフティス様は似てないじゃないか…。」
 クヌム「そうか?」
 トト「そうだよ。セト様は短気だし、何でもすぐ壊すし、自分がイチバンだと思ってて、一人でやりたがるし…。」

トトとしては、どうしても、あの二人が仲良い「かもしれない」ことが、信じられないのでした。

 クヌム「同じじゃん。ネフティスだって短気だからすぐ怒って魔法ぶちかまして飛び出すんだろ?」
 トト「……。」

 菜食主義のクヌム君(ヒツジ)は、トマトサラダをぱくつきながら、いともカンタンに言います。似たものどうし、それなりにうまく行っているんだ、と言いたいのでしょうか? だったら、はじめからトトが間に入る余地はありません。ネイトの言う、根本的な解決が無いとは、こういうことだったのでしょうか。
 トトが思案に耽っていた、その時。

 「あっ、いたぁ〜クーちゃぁ〜んv」

 どこからともなく可愛らしい声…と、思ったら、向こうから乙女走り(※)で駆けて来る女神サマが。クヌム神の奥さん、ヘケトちゃんです。

 ヘケト「もー、ゴハン食べに行くなら誘ってくれたらいいのに〜。vv」(すごくラヴリー)
 クヌム「あぁ、ゴメンゴメン。v 仕事の邪魔しちゃ悪いと思ってさ。もう終わったのか?」
 ヘケト「うんv あたしも一緒に食べるv」
 トト「…。(←忘れられているトト)」

 ヘケト「食べさせてあげるーv はい、あーんvv」
 クヌム「おいおい、よせよ。自分で食べるってv」
 ヘケト「やだ、今さらv もぅ、恥ずかしがりやさんなんだからっvv」
 トト「……。(←何だか見ているほうが恥ずかしくなってきた)」

 ヘケト「あのね〜、さっきね、マアト様に会ったのよー。」
 クヌム「マアト様が? あの人が地上に出てくるなんて珍しいな」
 ヘケト「そうねえ。何かねぇ、トトちゃんを探してたの。」
 トト「…って、え?(←帰りかけていた)」

 ヘケト「あら、いたの? トトちゃん」
 トト「……。いたよ…。」
 ヘケト「駄目じゃない、マアト様が探してるのよー。早く行ってあげなきゃ」
 トト「そうする…。」

 クヌム君とヘケトちゃんは、最後まで聞かずに再びラヴラヴモードに入ってしまいました。無視されている(と、いうか視野に入っていない)トトは、密かに「今回はクヌムのツケにしてやろう…」と、思ったのでした。

 仲が良すぎるのも、迷惑なことには違いない、しみじみとそんなことを思うトト。(恋愛ネタは範疇外)やはり夫婦仲の問題は難しい、と、しみじみと思ったのでした。^^;

                                                     >続く

※乙女走りとは…両腕の肘を曲げ、腰のあたりに上げ、掌をやや外側に向けつつ
その腕を不自然に大きく左右に振りながら内股で走るフォームのこと。かわいいヒロインがやると本当に可愛いが、
可愛くないヒロインや年増がやると、見ているだけでリミットゲージが溜まってしまう魔性の走り。適年齢は15〜25歳。


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