大神殿のナイショ話

居候・タテネン君の実力



 知名度は低いけど、タテネン君は上位神の1人です。

 ギリシア人は彼をクロノスと同一視しているけれど、どうもクロノスってというよりクロノスとハデスを半々にした感じっぽい。と、いうのも、原初の神・時の主人としての属性がクロノスで、冥界神としての属性がハデスっぽいからだ。
 …神様相手に「っぽい」を連発して申し訳ないけれども(笑)。

 何しろタテネン君はスゴイ。地下世界に属するもの全てを統べる力を持っている。地面から産出されるもの、たとえば鉱物や地下水なんかも彼の支配下。地下に住むムカデだのヘビだのダンゴ虫だのミミズだのは彼の下僕。地面から芽生える草木や穀物も、彼の力によって目覚める。
 そう、世界は、彼の働き無くしては豊かになれない。
 地面の上の世界のことは、あんまし意に介さないタイプの神のようだが、結果的に地上にめぐみもたらしているんなら、人間からすればいいコトなんじゃなかろうか。。

 そんな、見かけによらず(?)偉いタテネン君だが、実は、居候なのである。
 自分の町も、自分専用の祭りも持たない。
 高位神なんだから守護する町くらい持てよ、とか思うんだが、…どういうワケか、トト神の町、ヘルモポリスに居候。なにゆえにトトの町? と思いたくなるが、タテネン君が属する神話は、ヘルモポリス系神話だから、というのがひとつの理由らしい。

 オン系神話は太陽神がトップなもんで、地下世界の神には居心地が悪いらしい。それで、「なぁトト、オレ、こっちの仲間に入れてくんない?」とか頼んだのかもしれない。こんなふうに。

 トト「えー…いいけど、ちゃんと働いてよ?」
 タテネン「分かってるって! んじゃ、お前ん家、貸して。」
 トト「…虫(タテネンのしもべ)は連れ込まないでよ。家が汚れるから」
 タテネン「ああ! 分かってる、分かってる!」

 とか言いつつ、絶対連れ込んでるな、あの人は(笑)。
 んでもって、トトが溜息つきながら魔法で掃除するのだ。(トキはきれい好き)
 神様の同居生活って、何だか学生寮みたいなかんじを想像してしまうなぁ。はっはっは。


 それでも追い出されないのは、タテネン君が、とっても頼りがいのある戦力だからではなかろうか。
 「時の主人」の名を持つのは、トトとタテネンの二人だけだ。
 タテネン君は、時の主人と言っても「時の始まりより存在するもの」で、時そのものを生み出す存在でもある。太陽神ラーが太陽暦、知恵の神トトが太陰暦と、それぞれ地上世界の2つの暦を支配するのに対し、タテネン君は地下世界の時間を刻む。
 地上と地下では時間の流れが違う…と、いうのは、何となく想像がつくかと思うが、タテネン君の場合、地下世界の有機物はほとんど自分で作り出したものなので、それらの成長・崩壊スピードも調節出来るんだと思う。その意味で、「時の支配者」。

 何たって、地面の下って広い…。
 ギリシア神話に倣えば、冥界の主=世界の3分の1の支配者、ということになる。タテネン君は、かなりエライ神様に違いない。


 ところで、冥界といえばオシリス神だが、タテネン君とオシリスの関係はどうだったのだろう?

 タテネン「…オシリス? あー、オレ、あいつとあんまし話合わないんだ。プタハとなら、しょっちゅう話するけどな。」

 えっ? オシリス様よりプタハ神?! あの、気難しい職人肌のオッチャン(失礼)ですか!!

 そうなんだね、タテネン君って、人の良いオシリスより堅物プタハと仲が良いらしい。
 ちなみに、オシリスの治める冥界「アムドゥアト」も、プタハ神が仕事をする「プタハの工房」も、ともにタテネン君の支配する地下世界「クトニアン」の一部。ドゥアトは、クトニアンの一地方でしか無いんだよ。ビックリだね。
 だから、地下世界全体を支配するタテネン君は当然、冥界の王でもある。オシリスとは同列、あるいは少し上くらいの立場なんだ。

 しかもプタハ神は、タテネン君の領地の一部に工房を借りて(借用地!)、さらにタテネン君が造る地下世界の鉱物を使って(仕入先!)鍛冶屋の仕事をしているので、すごく恩があるんだってさ。

 プタハ「お主の鉱物は、質がいい。お陰で仕事も大助かりだ。」
 タテネン「なーに、気にすんなって♪ 上(地上)じゃいつも世話んなってるしなっ!」

…ええ、事実、タテネン君はちゃっかりプタハの祭りに参加したり、プタハん家に泊まったり、プタハん家でご馳走になったりしていたようです…。
 トトさん家とプタハさん家で居候。まるで半ノラのネコのよう^^;
 奥さんがセクメト(獅子は大味)だから、しもべの虫を連れ込んでも怒られそうにないし。

 タテネン「やぁっぱ、メンフィス(プタハの家がある町)は、住み心地いいわ! トトもこのくらい大雑把ならいいってのに。」
 トト「だったら戻って来んなぁ〜!!」

 でも、やっぱ戻って来るタテネン君。何だかんだ言って、ヘルモポリスの町とトトがお気に入りのようだ。

 タテネン「だってさ、あいつ、からかうと面白いんだ〜♪ クソ真面目だし。」

 遊ばれてますねトト神…。何でいつもトトはこういう役回りなのだろう…。(それは私のせいなのか)


 って、そんな軽い関係はともかく、ヘルモポリス系神話の時の支配者たちとして、彼ら2人には、ある重要な役割がある。
 それは、この世の終わりと始まりに、「大地のはらわた」に封印された創世の神、ヘルモポリス8柱神を目覚めさせ、新たな世界を生み出させる…というもの。

 「大地のはらわた」という名前からして、その永遠の牢獄(いや、寝室かも)を創ったのは、タテネン君のはずだ。そして、その檻を開く力を持つ唯一の神が、トト神。2人の上位神の力なくして、創世の神は封印出来ない。
 え? 何で封印しとかなきゃならないんだって?
 それは…危険だから。だってバカなんだもん。

 むっちゃスゴい力を持ってる8人なんだけど、…その、老人ボケなんだわ。喩えるなら。
 原初の存在っていうか、むしろそれは原始存在だろう。
 神というよりハ虫類。カエルとヘビ。おまけに、8位一体神なので、8人いてもひとりぶん。

 いくら特別な力持ってても、放し飼いに出来ないレベルではなかろうか。むしろ、そんな連中が創世の力なんか持ってること自体、危険なんだってば。
 なんせ、赤ん坊に核弾頭のスイッチ握らせとくようなモンなんで。

 タテネン「なあ、アレ、捨てちゃわない? それか始末するとか。」
 トト「ダメなんだよ。そうしたいのは、山々なんだけどね…。」

やっぱし、世界を創れる神様は、何かあったときのために取っとかなきゃいけないみたいだ。

 世界の創造は、この、危険な8柱神をトトが解放し、タテネン君が統率することによって行われると言う。タテネン君が「ほらソコ! サボらない! 寝ない! なに、メシ? さっき食っただろ、お前!」とか、渇を入れつつ尻を叩いてはじめて、8柱神のみなさんは、よーやく働いてくれるというわけだ。
 だからトトとタテネン君は、切っても切れない関係。2人いないと仕事が出来ない。それでもやっぱり、トトはタテネン君のことがあまり好きにはなれないようだ…。

 トト「…何かセシャト(トトの妹)が危ない気がする。」

 神話に曰く、居候のタテネン君が、セシャトにちょっかい出すのが気に食わないのだそうだ。
 兄は、妹がとっても心配らしい。

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