大神殿のナイショ話

プタハ様とそのしもべ(3)



→つづき
 と、まぁ、人間には人望厚く、固定ファン(信者)をお持ちでゆるぎない地位を維持していたプタハ様ですが、神々の間では、カタブツ、人付き合いが悪い、なんか近寄れない、等の評判でした。
 なんせ芸術家は気難し屋。
 どうしたってお世話にならなきゃいけない神様なのに、ご機嫌損ねると大変なことに。喩えるなら、コワモテの体育教師みたいなモンです。(遅刻すると怖いでしょー。なんちゃって)
 ――で、そんなプタハ様のお側近くに仕える下級神も、楽では無かったのだそうな。

 彼の名は、アピス。
 聖牛アピスとして知られる、あのアピスです。単独の神として地位を獲得する以前は、アピスは「プタハの先ぶれ」と呼ばれ、メンフィスの町に間借りする神でした。

 彼ほど、しもべに相応しい神が他にいるでしょうか。
 どやされ、パシらされ、しまいには食われてしまうのです。神々の血肉になる犠牲の牛、それがアピス。トホホなカンジで使われまくっていましたが…
 
 そんな彼にも、いちおー自我はあったようです。

 アピス「もぉイヤだあああ!!(泣)」

泣きながらメンフィスを逃げ出したアピスは、行く当ても無くナイル川のほとりをさすらっていました。ま、牛なんで。

 アピス「うっうっ。ご、ごめんよ、父ちゃん、かあちゃん。オイラ…もうダメだよ。都会に出て立派になるとか大見得切ったけど、やっぱダメダヨ…。」

 並み居る牛たちの中から、聖なる牛として選び出されることは大変な名誉でありましたが、同時に、大きなリスクを背負うものだったのです。「栄光ある死か、平凡な一生か?! 貴様は死んで名を残したくは無いのか! 謹んで我らが神の犠牲となるが良い!」とかいう状況でしょーか。岡沢ダイスキです、そーゆーノリ。(でも自分が犠牲となるのはイヤ)

 そんなこんなで、川のほとりをウロウロしていたアピス。

 子供A「あっ、牛だー!」
 アピス「…?!」
 村人A「おお、本当だ牛だ」
 村人B「誰のだろう。おいしそーだな」
 子供B「誰のでもないみたいだよぉ、捕まえちゃえーv」
 アピス「……!!!」

 聖なる牛も、神殿出てウロウロしてればただの牛。
 捕まえられて、…食べられてしまいました…。

 アピス「はっ、こ、ココは?!」

 気が付くと、そこは冥界♪ どうやら、人間たちに食べられてしまったようです。

 アピス「ひっ、ひどいや! 何で…何でオイラを食べちゃうんだよぅ! うわあああん!」

 泣き叫ぶアピスの声は地下世界にこだまし、MYカー・ヘヌの船に乗って巡回中のソカリス神に届きました。

 ソカリス「お前は…プタハのところの下っ端か。ここは一般死人客向けエリアだ。こんなところで、何をしている。」
 アピス「うっうっ。オイラ、人間に食われて死んじゃったんです〜。」
 ソカリス「(素のまま)そうか。なら、仕方がないな。」

かなりクールに行き過ぎようとします。

 アピス「あああッ! ま、待って下さいよぅ〜」
 ソカリス「…何だ?」
 アピス「せ、せめてプタハ様のところに連れてってください〜」
 ソカリス「それはムリだ」
 アピス「どうしてですかあ!」
 ソカリス「お前は普通の牛として、普通の人間に食われて死んだからだ。よって普通の死人エリアの外には出られない。神の領域に入れるのは、神として死んだ者だけだ。」
 アピス「……!」

 アピス、大ショック。今や彼はただの牛。死者に備えられたお供物扱いです。
 このまま…このまま名も無い牛たちに紛れて、死者の園イダルで農耕生活しながら余生(死んだあとの生)を永遠に過ごすのかなぁ…なんて思いつつ、落ち込むアピス。
 それを哀れに思ったのは、迷える魂の導き手・トト神でした。

 とりあえず、一般死人エリアの管理人はオシリス神なので、アピスを魂の審判へ連れて行きます。

 トト「…と、いうわけで、彼、フツーの牛扱いで入ってきちゃったんですけど。」
 オシリス「うーん。なるほど…。しかし、規則は規則だからね。秩序のためにも、人間に食べられて冥界に入って来た者を神扱いするわけには。」
 トト「だから、転生させてやってくれません?」
 オシリス「転生?」
 トト「そうです。このままじゃ、死んでも死にきれないでしょう。魂の浄化はココ(冥界)の最優先業務のはずですよ。転生させて、もう一度やり直させては」

えっ、エジプト神話って転生できるの? と、思ったアナタ。

 1)どうしてもやらなくてはならないこと、やりのこしたことがある
 2)それなりの魔力を持っている
 3)神様の許可を持っている

…と、だいたい、このくらいの条件を満たしていれば、転生も可能だったようです。
 過去、この条件を満たし転生した方々も何人かいらっしゃいます。ときどき、神様自身も一部を人間に転生させて特殊任務に当たることがありますネ。やはし、転生にはフェニックスならぬベヌウの力を借りたのでしょうか…(笑)

 オシリス「それでは、転生の許可を与えよう。アピス、行ってもう一度、プタハ神に仕えなおして来なさい。今度は逃げ出したりせずに。」
 アピス「はい…。」
 オシリス「牛は食われるものだ。だがキミは、聖牛の地位のお陰で敬われながら神の血肉になれる。他の牛たちに比べればずっと幸せなんだよ。それを忘れないで」

 オシリスが転生の魔法をかけて、ソカリスが冥界から魂を送り出し、トトが転生手続き書類を各部署に送って、アピスは無事に転生完了。
 かくして、生まれ変わったNewアピス君は、再び、プタハ神のもとで、しもべとして修行することになったのでした。

 ちなみに、この時のことが縁で、アピスはオシリスやソカリスとも知り合いになり、冥界神のパシリ役として、冥界3柱神の間をせっせと行き来することになったのです。
 いわば大神柱共有しもべ。チョット羨ましいね。いい面子に使われてるよアピス。こいつァ、パシリ冥利に尽きるんじゃない?

 アピス「オイラ…オイラがんばって、べこ買って田舎さ帰るだよ〜〜!!」

 はっははは。ガンバれ、若人よ。



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