大神殿のナイショ話

知恵神コンビ・初めての語らい



 イオ事件があってのち、さらに時を経てある日のこと。

 同盟企業(エジプトと関係の深い国)からしか通じない、ドゥアト産業本社最上階・直通回線に、緊急入電が入った。
 「何? ギリシア万神社に異変発生? どういうことだ。」
ただならぬ気配に、社長のホルスも腰を上げた。SOS発信直後、すべての連絡が不通になったというのだ。クーデターか。はたまた大規模な天災か。少なくとも、従業員による単純なストライキなどではないことは確かである。

 もしかすると、エジプトにも類の及ぶことかもしれない。
 早速、ギリシアに近い下エジプト全域に緊急配備が敷かれた。主要な神々は本社に召集され、もしもの時のために待機。
 なんせギリシアとエジプトとは、狭い海を挟んで向かい合わせ。ギリシアで内乱が起これば巻き添え食らうし、ギリシアで火山が噴火したらエジプトも大打撃。ギリシアが他国に征服されたら、次はエジプトが狙われるかもしれないのである。

 そこへ、まず第一報が入った!
 「テュポンなる怪物が暴れて、オリュンポス山本社が乗っ取られたようです。社員は全員、エジプトへ亡命してくる模様です。」
淡々と報告するだけして去って行ったのは、下エジプトの守護者・ウアジェト女神(分身)。これには、エジプトの神々もちょっとビックリした。

 クヌム「テュポン? テュポンって何だ、トトお前知らないか。」
 トト「知らないなあ…。新しい神じゃない?」
 クヌム「新しいって、だったら赤ん坊じゃん。何で赤ん坊が強いんだよ。だいたい、お前が知らないってのはどういうことだ。向こうと色々つきあいあるんだろう。」
 トト「まぁ、そうだけどさ。ギリシア万神社は人数多いし、次々生まれて、次々大人になるんだよ…。覚えるのもタイヘンなんだよ?」

 そう、ギリシアの神様は、エジプトの神様と違って、サイクルが早い。女性はポンポン子供産んで、子供はガンガン大きくなり、ビシバシ戦ったり、さらに次の世代を生みまくったりする。
 お陰で、系図はおろか、単純な社員名簿さえものすごく長いリストになってしまうのだ。(それを全部覚えているらしいトトは、さすが知恵の神である。)

 アヌビス「それにしたって、尻尾巻いて逃げてくるとは、よほどの相手なのか?」
 ネイト「ふん…。腰抜けどもめ。」
 アヌビス「我々と違って死なないのだから、バラバラになるまで戦うがいいだろうに。」

 そう、ギリシアの神々は、エジプトの神々と違って不死の肉体をお持ちなのだ。エジプトの神々は暗殺されればマトモに死んでしまうが(オシリス神のように)、ギリシアの神さまは簡単には暗殺できない。ま、そのわりに、死ぬのは怖いみたいだけど。

 イシス「ともかく、亡命者が来るのですから準備しなければね。当面はお客様扱いですよ。」
 ホルス「一体何人来るんだろう。社員宿舎じゃ足りないな…。ディル・エル・バハリ(王家の谷)に、仮設住宅でも造ったほうがいいかな。」

 けっこう実務的。

 ―――そんなわけで、夕刻にはギリシアから大量の避難民が押し寄せ、エジプトの仮設住宅で一夜の宿を借りることにしたのだが、…
 そこに、社長・ゼウスの姿は無かった。
 どうやら、ひとりでも残って戦う、とか、どっかの船長みたいなことを言って、結局テュポンに捕らえられてしまったらしい。

 副社長・影の実力者/ヘラ「当然助けに行くわよねッッ!」
 守護隊隊長/アテナ「勿論です。けれど、正面から行っては敵いませんわ。」
 森林守護・遠距離支援/アルテミス「だったら、どうすればいいのかしら…?」

 敵の勢力圏外でわいわいと神々が作戦会議をしている最中、ヘルメス君だけはコッソリ抜け出して、トトのところにやって来た。

 ヘルメス「よぉ」
 トト「あ、ヘルメス君。どうしたの? 作戦会議、出なくていいの? 知恵の神なのに」
 ヘルメス「いいんだよ。ウチはお前んとこと違って、知恵の神たくさんいるからさ。それに、戦いのことはアテナ姐さんかアレスにでも任せときゃーいいって。はー疲れた。」
 トト「そっか。…」

 ちなみに、このシーン、ヘリオポリス太陽神殿の裏詰め所で窓から星空を見上げながら…だったりするが、なぜなのかは聞かないように。男同士の語りシーンには星空がつきものとは昔から決まっている。お約束なのだ。(言わなきゃ誰も聞かないだろうけどね。舌)

 トト「心配なんでしょ? お父さんのこと。」
 ヘルメス「(ちょっと焦る)はあ?! 何でオレがあんな色ボケの心配しなきゃなんねーんだよ!」
 トト「だってさ…。」
 ヘルメス「だ、だいたい、今回掴まったのだって、勝てないの分かってて自分から突っ込んでったようなモンだし! オレたちは逃げろっつったんだぜ? それにさ、その、アイツはオレのおふくろを弄んだヒデー男なんだぜ?」

事実、ヘルメスのおかん・マイアは、あまりイイ目を見せてもらっていない。半ば強引に手篭めにされたように気がする…。ひでぇ、ギリシアの最高神。

 トト「でもさ…。みんなの『お父さん』でしょ? たぶん、自分がオトリになってみんなを逃がすつもりだったんだよ…。」
 ヘルメス「あー、ンなわけ無い無い! ったく、お前はホント、お人よしだよなぁ〜。分かってないぜ。ギリシアの神ってのは、関係すげーんだから。痴情のもつれとか、裏切りとか、日常茶飯事なんだぜ。」
 トト「……。」

 けれど、何て言われようとも、エジプト神話は親子の情にとっても厚い。神様も家族をとても大切にしているのだ。ムリヤリ手篭めにするなんてことは、きっと考えつきもしないに違いない。
 トト神のちょっと切なく真っ直ぐな眼差しに、ヘルメス神はいつになくウロたえていた。

 トト「そんなこと言ったって、助けに行くんでしょ?」
 ヘルメス「う…。」
 トト「ヘルメス君だって、ゼウス様がいなくなったら悲しいよね?」
 ヘルメス「ううっ…。」

 ヘルメス君はトト神のお人よしモードに圧倒されて、何も言えなくなってしまった。
 詭弁の神のくせに。^^;

 ヘルメス「あ゛ー、もー! そうだよ、分かってるよ。オレだってなー、あの色ボケで浮気性でどーしよーもないクソ親父の息子だよ、浮気の賜物だよーチクショー! そんでもって、嫌でも面倒みなきゃなんねーんだよ腹立つなー!」
 トト「ヘルメス君…。」
 ヘルメス「ちぇっ。ったく、お前にかかるとカッコつけんのも出来ねーや。これだからヤなんだよ、真実の神ってのはっ。」
 トト「助けに行くんだね?」
 ヘルメス「ああ。ま、頑張ってみるさ。死なない程度に(笑)」

 こうして、語らいでちょっとだけ気の晴れたヘルメス君は作戦会議の輪に戻り、(「どこに行ってたのよ!」と、ヘラ様にドツかれながらも)翌日、再びギリシアに向けて旅立って行ったという…。

 なお、この時の避難生活の中でギリシアの面々は、それぞれエジプトの神々と親しくなり、自分に似た性格の相手を見つけたという。

 知恵の戦の女神アテナ様は、ネイト女神と友達になり、その後もシックでエレガンスな大人の付き合いを続けている。
 ヘパイストスは鍛冶屋どうしプタハと知り合いに、アヌビスは冥界神どうしハデス(いかにも友達いなさそう)と友達になり、文通を続けていると言うが、もちろんこんな話は公式神話には登場しない。

 また、ヘラ様は、何故か「自分の若い頃のようだ」と、アンケト女神と親しくなった、とか…。ナゾ。

 余談として、彼らの全員が、セト神を見て「エジプトにはテュポンのような性格の神がいる」と、噂したという。どうやら、短い滞在期間中に、偶然、セトとネフティスの夫婦ゲンカを目撃してしまったらしい。

 アルテミス「それはもう、すごかったわ。オベリスクはヒッコ抜けるしナイル川は逆流するし。やはり恋や愛なんておぞましいものね。私は一生、結婚なんてしない。」

 …だ、そうです。^^;


 何? テュポン反乱はイオ事件より前じゃないのかって?
 知らん知らん。そんな細かいことイチイチ気にしとれん。ここはエジプト神話サイトなんだから、多少ギリシア神話がムチャクチャでも構わん。あとは自分で調べてくれ。じゃ!(←逃げる語り部)



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