大神殿のナイショ話

知恵神コンビ・初めての共同作戦



 ヘルメス君がギリシアに帰ってから、しばらく経ったある日のこと。
 トト神は、いつものようにヘルモポリスの自宅で書類の整理などして過ごしていた。エジプトの神様はギリシアと違い7人(得意な人は9人)まで分身OKなので、自分が移動しなくっても活動できるのだ。
 ちなみに、この分身たち、個々が人格を持った全くの別存在。影分身を越えた! さっすが神様。^^;

 で、本日のトト神は、本体を自宅に置いて、分身くんにドゥアト産業の業務をこなして貰っていたわけだが…。

 ずどどどどどどどど

 トト「……?」

 ずがん!

 トト「わぁ〜〜?!」
何だか知らないけど、イキナリ目の前の壁ぶち破って、白い雌牛が猪突猛進! えっ、猪突ったってイノシシじゃないよ、牛だったよ…? な、何がどうなっているんだ…。

 ヘルメス「はー、はー…ま、待てコラ…」
 トト「ああっ?! ヘルメス君!」
 ヘルメス「はー…はー…、ト、トト…?」
 トト「どうしたの一体!」

 壁の壊れたところから、息をきらせながらヨロヨロ入って来たヘルメス君に、トトもびっくり。散らばった書類を片付けることを忘れて、とりあえず話を聞くことにした。
 どうやら、彼は、さきほどの牛を追っかけている最中らしい。

 トト「まさか、ギリシアから来たの?!」

 幾らヘルメスが機動力の高い「翼あるサンダル」を履いていたって、サンダルである以上、自分で走らなきゃ動かない。いわば自転車みたいなモンである。走れば疲れる。ギリシアからエジプトまで走るのは、オリンピック発祥の地ギリシアの神といえども、ムチャ以外の何者でもない。

 ヘルメス「真っ直ぐ来てくれりゃーいいんだけどな…アイツ、海は渡るわ山は越えるわ。最悪だぜ、マッタク。」

なるほど、どうりで、髪にクモの巣やら木の枝やらオキアミやらいっぱい引っかかっているわけだ。よっぽどあちこち走りまわされたらしい。

 トト「で? あの牛は一体…。」
 ヘルメス「よくぞ聞いてくれた! あれはな、親父の愛人で、イオって言う女なんだ。」
 トト「女って…。人間?」
 ヘルメス「んー…人間っつーか神っつーか精霊なんだろうけどな。とにかく人型してることはマチガイない。いくら色魔の親父だって獣を愛人にはしないだろう。」

ムチャクチャ言う息子。

 ヘルメス「んで、話せば長いんだけど、正妻のヘラに浮気がバレそーになったのを隠して牛にしたところが、実はヘラにはバレバレで、その牛をどーしても苛めたかったらしくてさ、牛の尻に強烈なアブを放ったったワケさ。イオは、そのアブに追いかけられて半狂乱なんだ。分かる?」
 トト「……。(修羅場ってる。修羅場ってるよ…ギリシア…)」
 ヘルメス「と、いうわけで、暴走中のイオを何とかしたいんだけど、オレじゃーなー。あんましおおっぴらなことすっとヘラに睨まれるしなぁ。はぁ。」
 トト「だったら、力を貸すよ。」

と、トト神。別に考えもなく言ってるわけじゃありません。トトとしては、困ってる人を助けずにはいられないのです。基本的に、お世話焼きさん。

 何せ、ここはエジプト。ギリシアの神々にとっては領域外。それに、ギリシアの神じゃないトトが手を出すなら、さしもの恐妻ヘラ様も文句は言えないはずだ。

 トト「僕が、そのアブを捕まえてイオさんの暴走を止めるから。ヘルメス君は、ゼウス社長に奥さんを説得するように言ってよ。」
 ヘルメス「分かった。ありがとう、恩にきるよ!」

ヘルメス君は、疲れを癒すのもそこそこに、大急ぎでギリシアへ引き返して行った。
 一方、トトは、エジプト内を暴走するイオの行方を捜索。彼女は、相変わらず物凄い勢いでナイル流域を突っ走っていた。さっすがヘラ様の嫉妬魔法は凄まじい。
 追いついたトトは、魔法で牛の尻にくっついているアブを叩き落し、彼女を自由にしてやった。

 イオ「…?!」
 トト「しー。静かにしててね。とりあえず話あわせといて、キミもエジプトの神のフリしてね。非公式にだけど、亡命扱いで書類通しとくから。」

 こうして、ヘラ様のお怒りが解け元の姿に戻ったイオは、「エジプトの新しい神」として、一定期間、エジプトで亡命生活を送ることになった。ドゥアト産業は他国の神に非常に寛容な会社なので、イオは、研修生として、イシス女神管轄下の「恋愛相談所」に組み込まれることになったそうな。

 元の神話では、エジプト人がイオをアッサリ神と間違え過ぎてるんだけど、本来なら、たかが川から出てきた牛をそんなに簡単に神様だと思うはずがないが、もしトト神がウラから手を回して当時の王様に「彼女はギリシアから亡命してきた新しい神様なんで、ひとつヨロシク」と言っておけば、皆進んで彼女を崇めたことだろう。
 これで神話の不自然さが無くなったね。


 なお、公式のギリシア神話には、トト神のウラの活躍は登場しません。本来の(正しい)神話は、お近くのギリシア神話資料にてお確かめ下さい。(笑顔)



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