大神殿のナイショ話

知恵神コンビ・初めての出会い



 エジプトの知恵の神・トトと、ギリシアの知恵の神・ヘルメスは、何かと縁のあるコンビだ。
 ヘルメスと言えばオカルト世界では錬金術師のバイブル「ヘルメス文書」が有名だが、実はコレ、書いたのはトト神。何でそう断言できるかって言うと、

 1)エジプトは人工宝石まで製造できる高度な技術保有国で、その技術がギリシアに輸出されていた。
 2)中身にエジプトのシンボリズムが採用されている。
 3)あのヘルメス神が、頼まれもしないのにチマチマ本書いたりするワケない(笑)。

…と、いう理由から。まー最初の2つはともかく、(3)はたぶん当たってるでしょうよ。夏休みの宿題でも作文書かなさそーなヘルメス君が、本なんて書くわけないってば^^;

 なんてコトはともかく、トトとヘルメスは、習合ユニットを組んで神々の知恵をコッソリ人間に流してたり、宗教弾圧から隠れて17世紀まで活動したりしてた知恵神コンビだ。だったら、彼らは一体どこで出会ったのだろう…?


 始まりは新王国前期。それは、エジプト王国およびドゥアト産業の最盛期が始まろうとしていた、ある日のことであった。
 「…何ですって? 新規お取引先からのあいさつ回り?」
副社長・イシス女神は、秘書・ペテト女神(敢えてマイナーどころ)の報告に眉を寄せた。新規お取引先とは、地中海の北側を主な顧客とする同種企業、ギリシア万神社(ばんしんしゃ)であった。
 組織力と従業員数ならドゥアト産業を遥かに上回る人材派遣の最大手。地中海の南側はドゥアト産業のゆるぎない勢力圏とは言え、敵に回すよりは手を結んでおいたほうが得策。イシス副社長の経営戦略であった。
 「通して頂戴。」
同盟関係は、まだ浅い。ここで、相手の不興を買ってはならぬとイシスは気を引き締めた。

 が―――。

 現れたのは、息子と同じくらいの年にしか見えない、ラフな格好の若者だった。
 「ようこそ、わが社へ。副社長のイシスです」
 「はじめまして。オレ、ヘルメスです。よろしく〜」
けっこう軽いノリだ。これが本当に最大手企業の使いだろうか、と、イシスは訝しげに相手を眺める。ギリシア万神社の経営方針は、個人の自由を尊重し(だからホモ・レズOK)、能力を一律に保つことにある(オリュンポス12神以外は似たり寄ったり)という。

 ちなみに、この時なぜヘルメス神がエジプトに寄越されたのかというと、ヘルメスは「オリュンポスの神々のパシリ役」だからである。他国はもちろんのこと、冥界までもパシらさせる彼以外に、営業まわりに相応しい役目の人はいないのだ。
 そしてまた、同じパシリ神である虹の女神イリスは、エジプトには雨が降らず虹が出来ないことからパシリ不可能! よってヘルメス。

 とりあえず名刺交換をしたイシスは、そこに書かれている肩書きの中に、「知恵の神」なる項目を見つけた。
 「…あなた、知恵の神なのね?」
 「はい、まぁ。純粋な意味での知恵っつったら、社長(ゼウス)とか守備隊隊長(アテナ)より下かもしれませんけどー。」
なるほど、だったらトトに相手させよう、と副社長は思った。この一見軽いノリの若い神も、悪知恵が働くなら真の姿を偽っているかもしれないし、知恵の神どうし、打ち解けられるかもしれないからだ。


 と、いうわけで、接待係には課長のトトが選ばれた。
 こーいう大切な役目は、たいていの場合、彼に責任がふっかけられるモンなのだ。

 「はじめまして。エジプトの知恵神やってるトトです。」
 「オレ、ヘルメス。へー、若いじゃん、あんた。」
 「はあ。2代目なんで」
と、まぁ、イシスの狙いどうり、2人はすぐさま打ち解けた。彼らに共通する、何かと苦労性な境遇を感じ取ったのかもしれないが…。

 トトとヘルメスは、さっそく地元名産のエジプトビール(※)でカンパイに入った。

 ヘルメス「やっぱ知恵神って苦労するだろー? 何かにつけて呼ばれるしさぁ」
 トト「うんうん。知恵の神だからって万能じゃないのに。病気になったら呼ぶし、夏が暑すぎたら呼ぶし、受験祈願に縁結びにピラミッド建設でしょ…。はあ〜」
 ヘルメス「えー、お前それは働き過ぎだって。ウチは完全分業、フレックスタイム制。残業手当がつかないトコがイタイけどな。」
 トト「うちは、残業手当より顧客重視なんだ。でも、信仰が深まるだけ報酬(神聖パワー)も増えるしね。実力主義なんだよ。」
 ヘルメス「なるほど。年功序列制が崩れてから、各会社ともイロイロだねぇ…。」

…などと、やけにリアルな会社話に盛り上がってみたり。(ヤバイ、これシャレになってない)

 ヘルメス「あー、それにしてもホンっと、うちの親父、いや社長だけど、あいつシャレなんねーよ。浮気はするし、厄介ごとは起こすしさー。世話の焼けるっつーか。お前んとこは?」
 トト「うん…。うちの父さんはいるんだかいないんだかよく分からない人だからサ。僕はじいちゃんに育てられたんだよ。」
 ヘルメス「へー、じいちゃんっ子かぁ! いいな。オレのじーちゃんは親父のせいでヒドい目に遭って、天球を支える人柱にされちまったんだよなぁ。(←ヘルメスの祖父はアトラス)はー、オレも親父よかじいちゃんのが好きだな。」
 トト「兄弟とか、いないの?」
 ヘルメス「いないねー。異母兄弟なら死ぬほど沢山いるけどな。中でもアポロンっての? コイツが何かイロイロとむかつくやつでさー。ああいう優等生タイプ、なんか苦手なんだよな。バリバリの美形だしさ!」

 …とか、家族話題で盛り上がってみたり。(ありがち)

 こんなふうに親交を深め合った2人は、いつしか、会社のツキアイを越えて友達になっていたそうな。
 イシスの狙いは当たったのか、外れたのか? それは分からない。しかし、エジプトとギリシアの神々の関係が、ローマ時代まで継承されたことは、確かだ。

 とにもかくにも、この2人の地中海を挟んだ友情はこの時はじまり、その後、遥か時を越えて今に伝えられることになったのである。

 ロマンですね。


※エジプトビール
現在のエジプトはイスラム教国なのでアルコールは禁止。しかし観光客とキリスト教徒のための酒は在る。
ちなみにキリンビールが復活させようとしてたエジプトビールからするに、古代のビールはかなり酸っぱい味だったようだ。

※古代エジプトと古代ギリシアは、同時期に栄えた文明ではないのでご注意を。
これはパロディで神様の話なので、トトとヘルメスが共存してますが、実際あり得ない話ですんで。


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