大神殿のナイショ話

続・太郎物語



 ―――前回の続き。

 ハルポクラテスの反則的な大魔法の前に敢え無く敗れ去ったヌビアのホルス君。羽根をなくして丸裸、国境近くの砂漠に転がっているところを、通りかかった親切な人に「パピルスの穂にくるまって転がればいいよ」と教えていただき、復活することが出来ました。(何故か因幡の白兎)

  「負けてこのまま引き下がっちゃア男が廃る! おめおめと故郷に帰れるかア!」
 彼は性懲りもなくリベンジを決意します。
  「おお、男じゃのう。何だか知らんが、男気じゃな!」
と、助けてくれた人も共感します。
 …ん?

 助けた人って…ヘジュ・ウルじイさんじゃん!

 そーですジジイは旅行中だったのです。意外じゃないですよ、若い頃、キレてエジプトを飛び出した反抗期のセクメト女神を連れ戻しに、ヌビアへ来たこともあります。それ以降、休みの日はちょくちょく遊びに来てたのでした。

 何だか分からないけれど賛成してくれたので、ホルス君はジイさんに相談を持ちかけてみました。

 ホルス君「とにかく勝負を申し込みたい相手がいるんだが、何とかして呼び出して一対一に出来ねェかな。」 
 ジジイ「ほう…果し合いじゃな! ならば古来からの慣わしどうり、『果たし状』と、いうのが一番じゃないかね。」
 ホルス君「はたしじょう…。」
 ジジイ「そうじゃ。何ならわしが届けてやるぞい。」
 ホルス君「本当か! そりゃ、ありがたい!」

 と、いうわけで果たし状を書いたホルス君。…え? このホルス君に字が書けるのかって?
 書けたんですよ。書けなきゃ話にならんから、そこらへんはご都合主義。

 ちなみに、ヌビアの文字はエジプト象形文字を真似たもので、形はよく似ていますが、文法などが特殊なので現在でも解読されていません。お勉強になりましたね?


 はてさて。そんなワケで、果たし状を持って戻って来たヘジュ・ウルじいさん。エジプトはちょっとした騒ぎになりました。ヌビアの神が挑戦状を叩きつけてきたとは!

 ヌビアの神々は、基本的に南方の国境線を取り仕切るクヌム神の支配下です。そして、外国の文字を読めるのは、外交役を兼ねているトト神だけです。さっそく2人がお呼び出しを食らいました。

 クヌム「ったく、今日はオフなのに〜。休みくらい家でゴロゴロさせろっちゅうの。」
 トト「そんなこと言ったって、半分は君のせいだろ? ちゃんと見てなきゃダメだよ、南方」
 クヌム「知るかよ。どうせ、大したことないヤツが挑戦してるに決まってる。オレの部下は、そんな下らんことはしねえよ!」
 トト「だと、いいんだけど…。」

みんなの面前で、くだんの果たし状を渡されたトト神。さっそく読み上げます。

 トト「えっと…。『はいけい、エジプトのみなさん。こんにちわ。はじめまして』」
 クヌム「…。」

おいおい、何だか果たし状って感じじゃないぞ。しかも正しくは「こんにちわ」じゃなくて「こんにちは」だ!

 トト「『せんじつは、とてもおせわになりました。つきましては、ほるすをぶっころしたいので国境まできやがれ、ばかやろー。ほるすより』」
 クヌム「……。」

 一同、静まり返ったまま。
 ぼそり、とクヌム君が言いました。

 クヌム「バカ、だな。」
 側にいたアヌビス神「ああ…バカだ…。」
 ネイト女神「ふん、愚かものだな。私が出るまでもない。」

高位の神々にこぞってバカにされたヌビアのホルス君。そりゃアそうでしょう。こんなんで休日に呼び出されちゃちまったもんじゃありません。

 トト「で? これ、どうしますか。」
 クヌム「あー、いいていいって。ほっとけ、そんなバカ」
 トト「でも…。」
 クヌム「オレの部下にホルスなんて紛らわしい名前のヤツいないし。関係ないない。さー帰ろっと」 
 トト「あ、ちょっと」
 ヘジュ・ウル「ちょぉっと待ったあああ!!」

 帰ろうとしたクヌム君の後頭部にジャンピングハイキックが炸裂、ずべしゃアと滑ったクヌム君の背後にすたりと着地したるは銀色の毛並み靡かす狒々の神! 仁王立ちのヘジュ・ウルじいさんでした!!

 ヘジュ・ウル「貴様! 果し合いを申し込む若人の熱い情熱と迸るパトスを踏みにじるつもりか?! 貴様には武人魂というものが無いのか! たとえ無謀な挑戦と知りつつも、受けてやるのが武士の情け! ムシるとは言語道断、諸行無常、抱腹絶倒、二者択一!」

 なんかやたらカッコいいセリフ吐いてます。こういう時だけ、知恵の神。

 トト「じ、じーちゃん。まさか…コレ…持って来たのって、じーちゃんなの…?」
 ヘジュ・ウル「左様!!」
 トト「(もー! またそんな厄介ごとを、どうしてじーちゃんはー!!…と、叫び出したいのをグッとガマン。)―――それで、相手って…。」
 ヘジュ・ウル「うむ、何やら満身創痍の若者じゃったがのぅ。」
 トト「……。」

 何かイヤな予感がして辺りを見回すも、それらしい神はおらず。
 当のハルポクラテスも、側にいたモントゥも、先日のことはすっかり忘れていたのでした。(それ以前に、相手の名前も覚えていないらしい)

 そのとき、成り行きを見守っていたエジプトのホルスが口を開きました。

 ホルス社長「…確かに、せっかく果たし状まで出しているのに、受けないというのも失礼だな。(けっこう慈悲深いホルス神)」
 トト「え?! しゃ、社長―――」
 ホルス「その、ヌビアのホルス? だっけ。どういう理由か知らないけど、挑戦したいんならいいじゃないか。」
 トト「……。」
 ホルス「別に問題は無いだろう? 大した相手じゃないとクヌムも言っていたことだし。」
 クヌム「……。(←フイ討ちで気絶中)」

 けれど、トトに言わせれば、問題はアリアリでした。エジプトの神々の長たるひとりホルス神が、のこのこ国境まで出かけていくというのは拙いだろうし、もし万が一、相手がホルスを本気にさせてしまったら、軽〜く国境付近の人間たちが全滅してしまいます。(人間と環境に優しいトト神)
 こういうとき、知恵の神一族はとってもトンチの働く存在でした。何てったって一休さん。


 かくして、果し合いの当日。
 気合い満々でその場所にやって来たヌビアのホルスは、恐るべき光景を目にすることとなったのでした!

 ホルス君「ぎゃー!! な、なんじゃこら」

 そこにはなんと50柱ばかりの神々が集まっていたのです! まさに神の一個師団。

 ホルス君「果たし状には一対一と書いたのに! く、くそう、騙されたか…よってたかってオイラをやっつける気なんだな?! 卑怯だ! 卑怯だぞ、エジプトの神!」
 トト「あ、君がホルス君なんだ? はじめまして」

トトは、ホルス君を見つけると、にっこり友好的に笑ってこう言いました。

 トト「卑怯じゃないよ。君の言ったとおりにしたじゃないか」
 ホルス君「な、何だと?」
 トト「君がホルスと戦いたいっていうから、エジプト中のホルス神をかき集めてきたよ。だってどのホルスか分からなかったからね。親切でしょ? この中から、君の相手を探すといいよ。」
 ホルス君「……。」
 トト「さあ、誰でも自由に選んで戦ってよ。それとも、全員とやる?」

  友好的な微笑みを浮かべながら、さりげに物騒なセリフなど吐いてみたりするトト。
 もちろん、この中に本命のホルス神は居ませんでした。けれど、そんなこと、ヌビアのホルス君には分かるわけがありません。


 ―――このお話の顛末は、伝わっておりませんが、おそらくヌビアのホルス君は、戦わずに泣きながら故郷へ帰ったことでしょう。そして、もう二度と、エジプトのホルス神に挑戦しようとは思わなくなったはず…。
 ヌビアが独立するのは、この時代からはるか未来、そう、あと千年くらい経った、第3中間期のことなのです…。

 やっぱ本場には勝てないってことですかね。
 めでたし、めでたし。

 クヌム君「…めでたくねぇよ…。(ズキズキ)」



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