大神殿のナイショ話

太郎物語



  ホルス神といえばとっても有名な神様だが、実はエジプト神話には、ホルスっていう名前の神様が2、30柱はいらっしゃる。
 中でも一番有名な、オシリス&イシス夫妻の息子ホルスの叔父上、ハロエリス様だって、実を言えば本名は「大ホルス」。それがギリシア風に訛った通称がハロエリスなのだ。
 それだけではない。
 地平線のホルス、天空のホルス、○○(地名)のホルスなど、全国各地にホルスさんが存在し、その年齢・能力も様々。

 「ホルス」とは、日本で言うところの太郎みたいなオーソドックスな名前だったのだ。

 ―――だが、ヌビアで生まれた彼は、そんなことを知るよしもなかった…。

 「オイラは世界でいちばん強い!」
 彼の名は、ホルス。ヌビア生まれヌビア育ちの生粋のヌビアっ子だ。母は魔女で、いわゆるヌビアのイシス(パクリ?)だった。
 「いい、あんたにはエジプト最強の神の名前をつけるわよ。だからあんたは最強になるのよ。いつかエジプトの神を倒して、ヌビアがエジプトを支配してやるんだから。」
 …と、ヌビアのイシス(仮名)は、息子に教え込んでいた。当時、エジプトの南にあるヌビアの国は、エジプトの属国扱いされて、憧れつつ独立を目論んでいたからだ。

 いわゆる文明の反抗期ってやつだな。

 「エジプトからもらえる技術はもらったしぃー。鉱物取られ放題、人材盗まれ放題、このまんま奴隷として働かされるのもイヤだよね。」
 と、ヌビアの人たちは思っており、自国でいちばん有望な神、ホルス・ヌビアバージョンに多大なる期待を寄せていたのだ―――。

 そして、このホルス君が成長したある日のこと。
 「母ちゃん、オイラ、ちょっくらエジプトのホルス倒しに行ってくるわ。」
 と、突然ムチャなことを言い出したのであった!
 
 母は大慌て。「ちょっと待ちな! あんたは確かに強くなったけど、まだムリだよ。あっちのほうが強いに決まってるよ!」
 「何だよ、相手の力、試したことあんのか?」「…それは、無いけど。」「じゃーやってみなきゃ分かんないじゃん。意外と名前だけで力はショボいかもしれねーだろ。はっはは!」

 と、止めるのも聞かずに一路エジプトへ殴り込み。ところで、その頃エジプトでは…。

 ホルス「ふー。やっぱり、仕事のあとの一杯は落ち着くなぁ…。」
 トト「社長、お疲れ様です。どうですかもう一杯」
 ホルス「あ、いい。自分で注ぐって」
 トト「大丈夫ですよ。ノンアルコールだしコレ」

 ホルス(未成年)は、ハトホル女神のバーで部下と一緒にアフターファイブを楽しんでいた!


 はてさて、そんなことは露ほども知らぬヌビアのホルス君。
 とりあえず鷹に変身してエジプトとの国境を越えてみたものの、肝心のホルスがどこにいるのか分からない。目的地くらい聞いてから出てこいよ、というツッコミは、神なので無視。
 「まいったなぁ…。エジプトって結構広いじゃん。」
田舎モンは、都会に出てくると迷うものなのだ。困った彼は、手近なところででっかそうな神殿に降りてみた。

 テーベ大神殿(河岸神殿側)。

 そりゃデカいけど、こんなとこにホルスが居るはずも…ない。
 しかも、そこは神殿の本宅(アメン神一家のお住まい)ではなくて、テーベ聖域守護神、モントゥの館だった。大神殿には、モントゥが結界を張っているので、迂闊には近づけないのだ。

 「ちっ、警戒厳重だな。やっぱここがエジプトのホルスの家か?!」
カン違いしたヌビアのホルス君は、とりあえず結界を破ろうと、ウロウロしてみた。と、向こうで何やら声がする。

 それは、館の主・モントゥ師匠と、仕事仲間のハルポクラテスの話し声だった。

 ハルポクラテス「だっからさぁ、やっぱ必殺技はカッコイイほうがいいと思うんだ。何で僕だけ必殺技が『泣き落とし』なの〜? もっとカッコイイのが欲しいよ。」
 モントゥ「…お前にはそれで十分だ。まだ子供だからな。」
 ハルポクラテス「えーーー。何だよー、そんなのずるーい。何かカッコイイの考えてよー。」
 モントゥ「そういうのは、管理人に文句を言え。」

 そもそも性格の合いそうもないこの2人が同僚であること自体ナゾなのだが、神話的事実には逆らえん。と、いうわけで、ハルポクラテスにはカタブツで気難しやなモントゥ師匠の、お茶目な弟分という設定に。(お茶目?)

 ヌビアのホルス「…何なんだ? こいつらは」
 ハルポクラテス「あっ。」

振り返ったハルポクラテスと、ばっち目が合ってしまったホルス君。ちょっとうろたえたものの、まーこいつらなら戦いになっても勝てるかな、と、ちょっと剛毅なところを見せて、堂々と構えてみることにした。

 モントゥ「誰だ? 貴様は。エジプトの神ではないな。」
 ホルス君「おうよ。オイラの名はヌビアのホルス。エジプトのホルスと勝負しに来た!」
 ハルポクラテス「えーー? 僕とぉ?」
 ホルス君「…何?」

 そうなのだった。
 ハルポクラテスとは、「子供ホルス」がギリシア風に訛った通称なのだから、彼の本名もホルス。ヌビアのホルス君は唖然としていた。

 ホルス君「ホ、ホルスって、こんな子供だったのか…?」
 モントゥ「違うと思うが。」
 ハルポクラテス「何だよー、僕ホルスだよー。」
 モントゥ「そういう名前の問題ではなく、こいつの言うのは、おそらく中央のことだろうと…」
 ハルポクラテス「でも、ホルスと勝負って言ったもん。僕ホルス、だから勝負! わぁいっ♪(性格;獰猛?)」

 などと言いながら、さくさくと戦闘態勢に入るハルポクラテス。彼は子供なので、理屈とか理由とか関係なく、楽しく戦えればそれでいいのだった。
 モントゥは溜息をついただけで止めようともしない。
 ヌビアのホルス君だって、これが目的ではるばるやって来たのだから、相手が子供なくらいで後には退けない。

 ホルス君「くっそう、何か騙された気分だが(実際騙されているんだが)、相手が子供だからって容赦しねーからなっ! いっくぞぉ!」
 ハルポクラテス「いいよ〜ん。えーっと…究極暗黒魔法カオスバニッシュ☆
 ホルス君「はあ?! なっ…え、ちょっ…、わあああ?!!」

 お子様は、手加減しないのだった。
 戦いの基本は最初に手加減しつつ戦いながら語るとか、負けた相手をじわじわといぶり殺しつつ悦に浸るとか、死に際に爆弾発言をするべきだとか、そういうお約束は無敵のお子様の前には無意味。だんだんポテンシャルを高めていってスーパーサ○ヤ人に変身するとか、元気球を完成させて一発逆転を狙うとか、そういう展開はナッシング。
 常に一撃必殺。不意打ち御免。
 バトルの鉄則を無視した大魔法の前に、ヌビアのホルス君、あえなく撃沈。

 ハルポクラテス「わぁ〜い☆ 勝ったあ〜vv」
 モントゥ(ためいき)「…やれやれ。こいつも気の毒に。」

 せっかくやって来たのに、活躍の場も無く葬り去られた可愛そうな挑戦者。
 こうして、野望空しく撃沈されたヌビアのホルス君は、国境あたりにポイ捨てされ、当のハルポクラテスの記憶からもアッサリ消去されてしまったとさ。

 おしまい。

 …なお、実際の「ヌビアのホルスとエジプトのホルス」の物語は、こんなお話ではありません。例によって、騙されないようにしてください。^^;


※おわび/この話は古王国中期を設定にしているハズなのになぜかハルポクラテス君が出ています。
彼はこの時代には信仰されて…いなかったかもしれません。少なくとも名前がちがっていたことは確実です。
間違えました。すいません。(誰もツッコミ入れなかったので自己申告。)



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