大神殿のナイショ話

オシリス一家物語 お正月編



 古代エジプト暦のお正月は現代で言うところの7月19日だった。

 クヌム君がナイル川の結界を矢で「えーいっ!」と、破って洪水を起こしたら、お正月。
 この日ばかりはドゥアト産業も業務を完全に停止するので、神様たちも寝正月し放題。ある者は自宅(守護都市)でお祭りに参加、またある者は奥さんとラブラブデート、またある者は…。

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 冥界のオシリスさん家でも、お正月なので家族一堂に集まって年始パーティーとかやっていた。

 セト「だからと言って、なぜこの私がこんな所に来なければならないのだ。」
 ネフティス「あなた? ダメでしょそんなこと言っちゃあ。あなたがオシリス兄さんを殺したりするから、兄さんが冥界から出られなくなっちゃったんじゃないのよ。」
 イシス「そうよ。もとはと言えばあんたのせいでしょ。折角のお正月くらい皆で集まったっていいじゃないのよ。」

 どうやらセト神は、オシリスと会うのがかなりイヤなようです。だって、殺人事件だったらアノ世で被害者と顔突き合わすようなものですよ? そりゃ気まずいでしょうよ。
 さすが神、死んでも生きてるのとあんまし変わらないし。^^;

 オシリス(父、長男)「まあそんな昔のことは忘れて、気楽にして行きなさい。イシス、おつまみの追加ある?」
 イシス(母)「ええ、取って来ますわ。」
 オシリス(父)「そういえば、最近、上はどうなんだい? ホルス」
 ホルス(息子)「…まあまあだよ。だいぶ慣れて来たしね」
 オシリス(父)「そうか、はっはっは。お前も大きくなったなあ。」

 ―――とか、どこかのホームドラマばりの幸せ家族的会話を交わしてみたり。

 ハロエリス(風来坊の次男。最近帰ってきたばかり)「セト、お前も飲んだらどうだ?」
 セト(ひねくれ者の3男)「…要らん。貴様らの注ぐ酒など拙くて飲めるか」
 ネフティス(3男の嫁)「あなた! …もう。ごめんなさいね、この人ったらいつもこうで。」
 ハロエリス「ははは、いつものことですから、お構いなく。そういえばセトは、子供の頃も…」
 セト(ちょっと顔を赤らめつつ)「だ、黙れ! そういう話はするなっ」
 オシリス「何だ、恥ずかしいのかい? ふふふ」

 ―――などと、結局セトも苦手な兄キたちに面白いようにホームドラマに引きずり込まれてみたり。
 いやぁ、平和なもんだ。(ヲイ)

 オシリスさんとこは、こんな調子で今年もそれなりに楽しくお正月を過ごしているらしい。
 でも1人、セトだけはあんまし楽しくない。当たり前か。だって自分で兄ちゃん暗殺してんだものなあ。(しかも、その兄ちゃん家に遊びに来ている)

 それとなく場を離れ、表へ出てみたセト。むしゃくしゃする気持ちをどうしていいか分からず、舌打ちしながら土手(何処だそれは)を歩いていた―――

 セト「…フン。下らんな…」
 ナゾの声「ふっふふふ」
 セト「?! な、何者だ」

 どこからともなく、ナゾの声が! しかしそこは冥界の中でもオシリス管轄下にある領域。他の神々も、おいそれとは入ってこられないはず―――なのに?!

 ナゾの声「ふふふ。私はここだ…。」
 セト「くっ…?!」

 背後を取られた! こんなコトができる神は1人しかいない。

 セト「き、貴様、ホルアクティか…!」

 そう、相手はなんと、普段姿を見せないナゾの存在、ホルスの名をもつ神のひとり、ホルアクティ神だった。ホルアクティとは、神一族の忍びの者、太陽神ラー(殿)の命に従って、神々の素行を調査する、隠密也。

 まさか、神々の平和なお正月を調査しに…?! 今までのこっ恥ずかしい成り行きホームドラマも監視されていたのか? セトの背中に冷たいものが滑り落ちたその時!
 彼は言った。

 ホルアクティ「セトよ。だんご3兄弟…と、いう歌を、知っているか…。」
 セト「何?」

 知ってますかって言われても、全く脈絡がわからない。

 セト「そ、それがどうした。」
 ホルアクティ「知っているのだな。」
 セト(動揺を隠しつつ)「ああ…確かニッポンとかいう国で流行っていた下らん歌だろう。それが何だというのだ。」
 ホルアクティ「似ているのだ…。お前たちに」
 セト「似ている?」

 ホルアクティは背後にいるので表情は見えないが、どうやらニヤリと笑ったらしい。

 ホルアクティ「いちばん上は長男、いちばん下は三男。間に挟まれ次男」
 セト「それは知っている。」
 ホルアクティ「だんご三兄弟。」
 セト「だからどうした!」
 ホルアクティ「お前は…三男だな。」

 どきゅん!!
 な、何をイキナリ言い出すんだ、このお人は?!

 ホルアクティ(あくまで淡々と)「弟思いの長男(長男♪) 兄さん思いの三男(三男♪) 自分がいちばん次男(次男♪)…だんご三兄弟。」
 セト「……。」
 ホルアクティ「次男ハロエリスは、アレでああ見えても自己チューだ。」
 セト「………。」

 だからどーしたよ、ってカンジだが、それよりも何よりも、セトは、ホルアクティの思いもよらずシブい歌声にかなりビビっていた。
 しかも、裏声でちゃんと合いの手部分歌ってるし。
 自分ひとりでハーモニー。やはり、ホルアクティはタダモノではない。

 ホルアクティ「…お前も、何だかんだ言って、オシリスのことは気にかけているようだな。」
 セト「な! 何を言い出す、貴様」
 ホルアクティ「ふふふ…だんご三兄弟だ。」
 セト「私がダンゴだと言うのか!」
 ホルアクティ「そう、ダンゴだ。色は違えど味に大差なし。所詮は一串のダンゴに過ぎん」

 なんか、すっごい意味深なようで全く意味が無いようにも聞える不思議な台詞だった。
 セトが振り返ったときには、そこには、もう誰もいない。

 セト「……。だんご、か…。」

 おいおいセト神よ、そんなことで真剣に悩まないでくれ(しかもシリアスな顔で)。

 セト「…来年は、姿くらまそう…。」

 それが良いかもしれんですな、セト神よ。(=_=



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