大神殿のナイショ話

二代目は苦労性〜後編〜



 →前編よりの続き。

 ってなワケで現在に至る、知恵の神一家の二代目当主、トト。
 彼は生まれながらにして天才のサラブレッド神様だったが、何の因果か、先代と先々代の築いた神様関係も引き継がねばなりませんでした。


 まずヘジュ・ウルの場合。太陽神ラーは天の女神ヌトに子供を産ませたくなくて「一年360日のどの日にも子供を生んではイカン!」と言ったのに、「なんじゃー、だったら一年にあと5日、新しい日を増やせばえぇんじゃい」と、勝手に一年の日数を増やしちゃったヘジュ・ウルじいさん。ヌトとオシリスたち兄弟からすれば大恩人ですが、太陽神ラーからすれば謀反人。でも必要戦力だったので(セクメトとか連れ戻してるし)、追放されずに済んでおりました。

 次に、初代トト。ホルスとセトの王権争いで、初代トトは、イシスを逃がしたり暗殺されたホルスを蘇生させたりと陰でホルス支援に暗躍していました。太陽神ラーは「ホルスなんて青二才ではないか」と思っていたので本当はセトを即位させたかったのに、トトの仕組んだ状況により、結局ホルスが勝利してしまいます。
 セトからすれば、初代トト=憎んでも憎みきれない政敵。

 このことがあったせいで、現在の二代目トトは、とばっちり食らってラーとセトにかなり恨まれているのでありました。(推測)

 でもね、知恵の神は必須神だし、他に代わりもいないので、追い出したりは出来ません。
 エジプトの神様たちは賢明なのです。いなくなったら困る豊穣の神を冥界に閉じ込めてから大慌てするような、どっかの後先知らずな神話とは違うのであります^^;。

 …そこで、ラーは立場が上なのをいいことに、何かにつけて嫌味を言ったり、無理難題ふっかけたりしてトトをイビり倒していた。
 ヤなジイさんだな、太陽神ラーよ。

 セトのほうはと言うと、同じ知恵でもまっとうな知恵を司るトトが何か気に食わないーと思っていました。
 だって彼は「たくらみの神」。悪巧みが正義の前に敗れ去るというのは時代劇ではありガチですが、神々の世界ではそれは政治抗争みたいなモノです。神々の法廷で選挙(?)に敗れたセトは、世論を味方につけた影の仕掛け人のことを、今でも相当恨んでおりました。

 けれど、何だかんだ言って、自分が無事に生まれてこられたのは、知恵の神一族の初代、ヘジュ・ウルじいさんのお陰。だから、その能力を継承している現在のトトにも、少しは恩を感じていて真正面から攻撃するわけにはいかないのです。

 セト「クッ…。金も人脈も実績も、私のほうが上だった。なのになぜ、あんな小僧が当選してしまうのだ!」

 どうやら自分が負けたことを認めたくないようです。
 もちろん、ホルス成功の裏には典型的な政治家の妻ばりの母・イシス(笑)も、いましたが、それよりも何よりも、やっぱりトトをイビりたいと見えます。
 イシスには勝てそうにないから、トトなんだなきっと。
 と、いうより、ある意味トトがお気に入りなんだな? セト神よ…。

 政治の世界と同じく、神々の力関係もとっても複雑で素敵なものですね。


 居なきゃ困るし、お役立ちなんだけど、何か苛めたくなる神様、それがトト。
 二代目は何もしてないんだけど、ヘジュ・ウルじいさんと初代がイロイロやったのが積りに積って現在に至る―――でもって二代目は、先代にも増して生真面目な性格でした。
 イビられても叱られても、文句ひとつ言わず頑張ってお仕事をこなしていました。

 でもね、そんな頑張り屋サンのトトでも、たまにはお疲れになって、友人に悩みを持ちかけることもあるかも…。

 アヌビス「なに? またセトに文句言われたって?」

 その相手とは、同僚のアヌビス神でした。

 いや…だって他に悩みとか聞いてくれそうな人、いないし。まさか妹に弱音はくわけにはイカンだろうし、マアト様だと「清く正しく生きなさい」しか言ってくれなさそうだし。
 だからアヌビス神。

 アヌビスとは、「魂の審判」で一緒に働くお仲間です。でもって、かなりイイ人です。(予想)

 アヌビス「…そうか。ラー様にも冷たくされて、困っているのか。」
 トト(ナイル川に石とか投げながら)「うん…。何か嫌われることしたのかな、僕。」

 トトはバカ正直なので、他人様を疑うことはあまりしないようです。厳しく当たられるのは、自分に何か原因があるのだろう、と思い込んでいるのでした。で、何で2人して夕焼けのナイル川河畔にいるのか、ということは深くツッコまない。お約束なのです。

 アヌビス(男前な横顔でナイル川を見つめながら)「…それは、お前が悪いんじゃあないさ。」
 トト「じゃあ、どうしてなんだろう。何か、僕、自信なくなってきちゃったよ…。」
 アヌビス「そう落ち込むな。お前が落ち込むと、セシャト(トトの妹)が心配するぞ。」
 トト「うん…わかってるんだけどさー…。」

 どうやら、だいぶ深刻なご様子。そこで、友情に厚いアヌビスは、考えた挙句、こう言いました。

 アヌビス「仕事ばかりしているから疲れるんだろう。どうだ、ウサ晴らしもかねて、しばらく休養の旅に出てみないか。」
 トト「ええ〜?!」
 アヌビス「お前の仕事は皆で分担して受け持とう。なに、死者の審判なら、死人名簿を渡してくれればウェネプ(書記の神、下級神。)に読み上げさせる。読むくらいなら、何とかなるだろう。」
 トト「で、でも。」
 アヌビス「書記労働組合のほうは、セシャト1人でも何とかなるだろう。マアト様にも、あとで話を通しておこう。さぁ、そうと決まったら休暇届を出してこい」
 トト「うん…、あ、ありがとう!」

 こうして、有史以来はじめて有給休暇を取ることになったトト神。その業務は、補佐役のセシャトが臨時に引き継ぐことになりました。

 セシャト「お兄ちゃん、ゆっくりして来てね♪」
 トト「お土産買ってくるからね。何かあったらすぐ戻るから。」

 で、トトは、以前ハロエリス様に聞いた北の国々を見るために、旅に出たのでありました。
 だがしかーし!!

 面倒見よすぎるトトは、行く先々で出会う様々な事件を見過ごせないタチなのだった!

 温泉に行けば殺人事件に巻き込まれ、列車に乗れば爆弾仕掛けられ、通りすがりの国で戦争に巻き込まれ、指名手配され女にホレられ殺し屋に狙われ、挙句の果てには王様にされかかり…。

 各地で事件に巻き込まれ、故郷にいるときよりハードボイルドな日々を過ごしたといいます。

 そう、トトの名前が、アッカドやらバビロニアやらギリシアやら、あっちこっちに残っているのは、この時の休暇旅行が原因だったのでありました。

 …んなわけないけど、だったらいいな的妄想とゆーことで。
 どこ行っても平和になんて暮らせない運命なのだよ君は。ご苦労様…。


                              <終わり>

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