大神殿のナイショ話

お迎えはセクメト様です。



 神話といえば、死にかかわる神様は不可欠ですよね。どこの神話にだって冥界はあるし、冥界神はいらっしゃるモンです。陰気で恐ろしい死の使い、イメージ的には闇色か灰色って感じでしょう。
 ところが!
 エジプト神話の死神さんはちょっと赴きが違うのです。美人です。強いです。逆らえないです。
 え、エジプト神話に死神なんかいたっけ? 
 居たんですね。兼業で。

 セクメト様です。(アヌビスに非ず)

  そう、彼女は死を告げるデス・プレゼンター。
  これに関する神話はあまり豊富ではないのでイマイチ活動の実態は掴めませんが、彼女はどうやら死の使いという一面も持ち合わせていた模様です。

 ちなみに、セクメト様の息子・ネフェルテムは、医学を司る神の1人です。ネフェルテムは蓮の化身→蓮は薬草の一種、ということから、生命の救い手としての属性を持ったようですが、医学の「知識」は、すべての知恵を司る神トトの管轄下にあります。ネフェルテムとトトは、ある意味、同業者。

 と、それはさておき、息子は生命を司るのに母親は死の使いというのは、対なすようで面白いですね。
 息子さんが「治療できません。」とさじを投げたら、そのさじをお母さんが拾い上げ「じゃー私が処理しておこう。」と。まあ素敵、魂の流れ作業。(ギャー)

 ところで、死の使いと言っても、セクメト様は具体的に何をしていたのでしょう。他の国の死の使いたちの業務に倣えば、

  1.死にかけの人の枕もとに立ち、死の時が来たことを告げる。
  2.死んだ人を死者の国まで護送する。
  3.死にたくなくて逃げようとしている人をとっつかまえる。

 …辺りが考えられますが、2,はアヌビス神やネフェルテムなど他の神さまの仕事っぽいので、たぶん1と3。それも、特に厄介な死者の強制連行など、まさに彼女にピッタリのお仕事だと思います。

 考えてもみてください…。セクメト様ですよ。力の女神さまですよ。人類撲滅計画をたった1人で成し遂げられるお方です。弱点は唯一、「酒に弱い」ってことだけで、キレると神々が束になっても敵わないという素敵ステータスをお持ちの彼女に、一体誰が逆らえるんです?

 ギリシア神話では、死の使いタナトスが柱に縛り付けられますし、インド神話では死の女神カーリーが半殺しのメに遭わされてますが、エジプトの死の女神はとてつもなく強い。たぶん世界最強の死の使いです。
 死を告げに来たセクメト様を追っ払えるか? ムリ。
 獅子のお姿でファイアブレスとか食らわされたら、その時点で死ぬし。

 あれこれと手練手簡を組み合わせて死から逃れようとしても、セクメト様の前には無駄無駄無駄。(ジョジョって感じで)

 死亡予定者「ま、待って下さい。私にはまだ、なすべきことが…」
 セクメト「却下。」
 死亡予定者→死者「うっ、うわあああ!」

 …同情とか、情状酌量とか無さげだもんセクメト様。常にピリっとして辛口&クールな女神様だからv

 でも、だからって、与えられた運命が常に決定的であるとは限りません。
 人間に長寿を与えるのは、トト神。だから、長生きしている人間は「トト神に愛された者」と呼ばれていました。正直者で頭がいい人間は人間世界に必要なので、トトがセクメト様を説得して「もーちょっと待っててやってくれる?」と、頼んでいたのだと思います。(多分。)

 トト「…ダメですか?」(びくびく)
 セクメト「ふん。まぁいい。どうせいずれ死ぬことには違いない。」
 トト「あ、ありがとうございます…」
 セクメト「ただし、110歳までだからな! 110歳を越えたら、容赦なく迎えに行くぞ。」
 トト「はあ。それだけあれば、十分なんで…。」

 と、いうわけで、古代エジプトでは人間のMAX年齢は110歳とされていたそうな。まあ、そんだけあれば十分過ぎです。トト神、頑張ったんですねえ。セクメト様を説得するなんて、さすがというか、相変わらずの苦労性というか。

 さて、あなたなら、セクメト様に迎えに来て欲しいと思うだろうか。


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