第八章 それゆけ! 音痴隊  〜 ピラミッドの歴史がまた1ページ

 その時オレは思った。

こんなピラミッド立てまくって…大丈夫なんか? 石切り出した山の形、変わったんちゃうんか? と。
エジプトには大量のピラミッドがある。短い滞在期間でそう多く周れたわけでは無いが、ほんと、数基だけでも、物凄い量の石を使ってるんだ。
なんせ、石一個でも、オレの身長よりデカいくらいだからな。

その日の午後、オレたちは「各地ピラミッド☆めぐりツアー」へと繰り出していた。
まずはサッカラから始まって、メンフィス、ダハシュール…。
ちなみにサッカラは、現地人の発音では「サックァラ」だ! エジプトん中でも最古の都と言われる場所。日本で言うと平城京?!

いやホント、周りも周ったり。中でも、赤のピラミッドなんかは、近くに軍事施設があるとかで、少し前まで立ち入り禁止になっていた場所だ。入り口にはライフル抱えた兵士が見張っており、それだけに、中には落書きも存在しない。

何もない平らな大地の果てに、ぽつんと立つピラミッド。
その、すぐ側には軍事施設の敷地を示す有刺鉄線が張られている。
何千年も昔の石の遺産と、現代の軍事施設―――それ以外には何も無い。町の影も、緑も。不思議な光景だった。

階段ピラミッドなんかは古すぎて危険なので中に入れなかったが、確か…どれだったかな、どれかのピラミッドん中にはゆっくり入れたんだよな。えーっと…
  思い出せん。
 とりあえず、どれかの中には入った(^^;)。ピラミッドの通路は、物凄く狭かった。

当たり前だけど、ピラミッドというのは出入りするようには創られていない。いちど出入り口を閉ざしたら、それっきりだ。(諸説はあるが)
だから、入り口から内部の空洞までは、急斜面の狭い穴がひとつ、続いているだけ。観光客用に板を渡してあるとはいえ、足を滑らせたらノンストップで下まで転がり落ちそうな勢いだ。
しかも天井が狭い、狭い。背の低いほうのオレでさえ、頭がつっかえそうになるくらいだ。
 「…藤村」
 「何?」
 「どっちが前行くかジャンケンな。」
後ろから、足すべらした奴に体当たり食らわされて落っこちるのほどつらいモンはない。
 「よっしゃ。」
ちなみに、こういう命かかってる(?)勝負において、藤村は驚くほどに強い。
 「ジャンケン!!」
オレは、あっさりと負けた。そして、狭い穴の一番先頭に押し込まれた。
 「ウチが落ちたら受け止めてやー。」
 「い、嫌じゃ…避けたる」
そんな微笑ましい(?)会話を交しつつ、天井に手をつっかえひたすらした下へ、下へ。まるで、冥界アムドゥアトへと通じる通路のようだ。

たどり着いたのは、ぽかんと開いた空間。
王の間、いわゆる玄室だ。写真では見たことがあっても、実際に中で見ると、物凄い高さがある。ビル3階ぶんくらいまで闇色の空間。
その時オレは、「あー、ドゥアト産業が本当にあったら、ここは中庭だなー」とか思っていた。

学者が書いたらしい、フランス語の落書き。
足元に敷き詰められた白い砂利石は、発掘の時に出たピラミッドの破片だったのだろうか。片隅にさりげなく捨てられた薄緑のペットボトルが、何千年という時を越えて結びついた、やけにアンバランスなオブジェとなっている。これで何千年か忘れ去られたあと発見されたりしたら、ペットボトルは「オーパーツ」扱いだろう。

 それにしても、広い。
 とにかく…広い。

ギザの大ピラミッドは壁をムリヤリ掘り返して空間を探したり、観光客に落書きされたり、何だか空間的に手狭になっていたが、ここは違う。限られた観光客しか来ないこの場所には、「静寂を愛するもの」メルセゲル女神が今もどこかにとぐろを巻いているような、そんな神秘的な沈黙が蟠っている。

沈黙の中、オレたちは手にしたペンライトで、片隅を照らし出す。
水は無いはずなのに何だかカビ臭い。これが、4千年前のニオイなんだろうか。ピラミッドの中に閉じ込められた死者の吐息は、入り口が開かれるまで外に漏れ出すことは無いんだろうか。単なる怪談じゃなく、ピラミッドん中で死んだ昔の冒険者の魂って、本気で何十年も中で迷ってそう。ピラミッドパワーってのも、あながちウソじゃないのかもな。
そんなことを考えていた。

壁には、財宝を探して、隠された部屋がないかと探した無茶な発掘の跡が、生々しく残されている。
  ほとんど内側から発破しているに近い。
 でも、結局は見つからなかったようだ。
もし、この巨大な岩の塊の中に黄金の秘宝が隠されていたとしても、オレたちには、それを見つけるすべはないだろう。だから、ピラミッドは「謎」のままなんだ。謎だから、人を惹きつけて止まない。
答えを見つけたくて、学者たちは飽くなき挑戦を続ける―――

四角錐の整った形をした結界は、何千年という時を越えて立ちつづける。
それを全て解体してしまうことも、中の構造を外から完璧に解明することも、今の人間には不可能だ。ピラミッドってほんと、考えれば考えるほどミステリアスなシロモノなんだぞ。

単に「創ることが可能だったかどうか」じゃない。可能だったから創られてるに決まってんだよ。そうじゃなくてさ、当時の人が何を考えていたのか、何を隠したのかってことが知りたい。物に込められた人の思いを知ることは、単に物の創り方を知るより、ずっと難しい。

現代と当時のエジプトと、どちらの文明が「優れている」わけでもないんだ。
どちらにも利点があって、不利な点がある。得意な分野と、得意でない分野がある。
古代エジプト人が大いなる石の遺産に「謎」を隠したように、現代人は、フロッピーやCDといった円盤の中に「謎」を書き込むのだろう。

まあ、オレには電脳世界の謎を解くだけの力は備わっていないけどさ。


 「あー、あ。んん?」
ピラミッドん中でウロウロしていた藤村が、唐突に何かに気付いて天井を見上げた。
 「なんか、ここお風呂みたいな響きすんなぁ」
 「ああ、ほんまやな。」
 「あ、あ〜♪」
陰気な内部の雰囲気が、ヤツの歌声でふいにギャグ調に変わる。

ちなみに、藤村は自他ともに認めるド音痴だ。
本人は「母親の音程外れを引き継いだ」と言うが、それにしたって凄いぞ。なんせ中学ん時、夏休みに一緒に作業してて、その鼻歌で学校の印刷機を壊したという思い出があるくらいなんだからな。
まぁ確かに真夏の昼下がり、クーラーさえない印刷室は、人間様さえ壊れそうなくらい蒸し暑かったが…(笑)。
 だが、その時のオレたちは、あのかつての苦い思い出などスッカリ忘れ去って、浮かれていたんだ。

 「♪あーぁァ〜、川の流れのよォ〜にぃ〜♪」

恐れ知らぬ若者たちは、二人して美空ひばりになり切っていた。二人の歌声は奇妙なハーモニーを成し、音波が空間を満たしていく。
声の反響バッチシ。これでオレたちもこまどり姉妹だ!(古いって)
ピラミッドバワーを信じて、中で円陣組む人たちはいるが、玄室で演歌を歌って反響させた人間は、きっとオレたちが最初だ。
やったよ日本、オレたちはやったんだ。歴史に日本の名を刻んだんだ!☆


…オレたちはそのあと、他の観光客に見つかんないようにダッシュで外に逃げた(←オイオイ)。

 外。
 たかだか1時間少々なのに、空はとてつもなく眩しかった。

生者の世界。なんかヨモツヒラサカを登りきったって気分だった。多分、黄泉の国への道も、ピラミッドの入り口みたいなカンジなんだろうな。

なお、出入り口は狭いうえに、手すりなんて気のきいたものは無い。転がり落ちたら、遥か下の地面までノンストップ。もちろん病院は砂漠の向こう。
まさに生と死は紙一重の世界だ。
そんなだから、演歌も似合うってもんだぜ? 「いのちくれない」とかな!

みんなも、人気(ひとけ)のないピラミッドに入ったら、ピラミッドん中で歌ってみようぜ!(笑)