第六章 海の恵み、砂の世界

旅の楽しみといえば、やっぱメシだよな!

けど、エジプト料理って、何か想像もつかない。ガイドブックには「あまり安い店だと、観光客は腹を壊してしまう」なんてかかれていたからな、仕方ない。オレたちは、「いかにも観光客向け」ってカンジのレストランで昼食を取ることになった。
観光客向けの店って、オレはどうも嫌いなんだけどな。
やったらニコニコと、店員が媚び売って来る気がしてさ。

まぁそれはともかく、料理はわりとおいしかった。
驚いたことに、エジプト料理って魚が多いんだよな。タコに、イカに焼き魚にフライ。そりゃ砂漠ばっかの土地で菜食主義をやんのはムリだろうけどさ、正直、ナイル中流で、こんなに海の幸が出てくるとは思ってもみなかった。魚の神様がいないから魚はあんまり意識されてないかと思ったら、実はけっこう身近なものだったわけだ。

向かい側のテーブルで、磯釣りやってそうな無粋な日本人観光客のおっちゃんが、「おお、ボラじゃあ」とかって喜んでた。ふーん、ボラなのかと思いつつ、焼き魚をぱくつく。いちばん美味しかったのは、海鮮ピラフだな。色々入ってて、けっこうウマかった。

地ビールなんてものもあった。「なあ、飲んでみぃへん?」と藤村。しかし当時、オレたちはまだ10代だ。「おいおい…そりゃ拙いんとちゃうか」「郷に入っては郷に従えっちゅーやん。エジプトの法律では未成年にならんからええんじゃ!」
こういう時だけ、やたら強気な藤村(笑)。しかも、何だか本当っぽく聞こえるぞその意見は。

けど、結局オレたちは、地ビール「ステラ」には手を出さなかった。
何でかというと、一本で12エジプトポンド(約500円)もしたからだ。
日本でさえ、んな高いもんちゃうぞ、ビールって。絶対ぼったくられとる。それでもガンガン飲んでる周りの金持ちそうな日本人が、ちょっち羨ましい。と、いうか…
そんなだから、日本人はぼったくられるんじゃい!

エジプトって、生水は飲めないんだ。
オレらの軟弱な胃袋では、現地の水に耐えきれんらしい。だからな、照りつける日差しの下、口にする水はペットボトル入りのものを購入するしかない。生存に金が必須条件なんだよ。途中で路銀が尽きようものなら、オレたちはそこらへんで乾き死ぬか、腹壊して病院に担ぎこまれにゃならん。金が有り余ってる観光客ならともかくさ、土産買う金さえケチらねばならんビンボな学生トラベラーには、面白半分に高価な飲み物を試す余裕なんてない。
4エジプトポンドで購入したペットボトル入りのミネラルウォーターを二人で分けるくらいで、丁度いい。
しかも、隣のツアー客が余したピラフ貰って食べた(笑)。
同じ日本人にたかってしまう自分ら、けっこう逞しいのかもしれん。 

 「あー、美味かったー。」
満腹したところで、満足したオレたちは次なる目的地へ向かうことになった。この旅のもう一つのメインイベント、早稲田の発掘現場だ。
何? 何でそんなとこに行けるんだって? ふっふっふ、オレはとある発掘ツアークラブに(どういうわけか)入会していたりしたからだ。

クラブの運営者は、西早稲田に拠点のある、早稲田大の考古学研究所と連携してツアーやイベントなどの企画をしている会社。つまりは知名度UPと発掘資金調達のための出城だな。
テレビでしか見られねぇ発掘現場に立ち入れるなんて、滅多にない体験だぞ。オレも、縄文土器の発掘現場とかは見たことあるけどさ、エジプトのって、初めてなんだよな。

集合の時刻。オレたちは、ツアーに所属する客たちを迎えに来たワゴンに分乗して、砂漠のど真ん中の発掘現場へと向かう。大型のバスなんかでは行けない、かなりヘンピなところにあるらしい。
その時になって、オレは、自分がいる場所の広さに気が付いた。
 地平線――――。
町を通り過ぎて、目の前に広がるのは、あまりに果てしなく、巨大で、偉大な黄色い大地だった。

「星の王子様」の中でサン・テグジュペリは言っていた。砂漠は心を強くする…と。
突き放されるような冷たさと、何もかも受け止めてくれるような広さと、燃えるような熱さと。ここに暮らしている人々は、こんな風景を当たり前に見ているんだろうか。
 日本は、狭い。
オレが今まで知ってた世界は、何てちっぽけなんだろうと思った。

でもさ、ちっぽけだけど、緑溢れてエジプトに負けないくらいの神秘があって、いい味ぎゅっと濃縮したカンジの日本も、オレは好きだぞ。なんたって…そう、オレの国だもんな!
壊れた窓から流れ込んでくる真昼の熱風を首筋に浴びながら、オレは360度の黄色い世界に魅入られていた…。