第十八章 カイロ発、日本料理屋の疑惑

日本を発って、はや一週間近くが経とうとしていた。

米大好き人間のオレにとって、毎日毎日硬くて平べったいパンばかりの暮らしは、辛い。ホテルの朝食はどうなのかって? 甘い甘い。んなエエもん出るはずありませんわ。大体、金かけずに旅しよーとしてんだもん。M&M’sや見慣れたクッキーが安全出来る唯一の食べ物ってくらいよ? ボラ以外はロクなもん食べてないよ(笑)。

そんなオレたちだったが、この日は、つひに白米恋しさに「日本料理レストラン」というものに行くことになった。その名も――――「クレオパトラ」

おいおい、日本料理だろ? 何でクレオパトラ?
とかいう基本的なツッコミはナッシングだ。いいじゃァないか、クレオパトラ。いかにもミーハーな観光客用につくりましたってカンジが出ててさ。(だいたい、クレオパトラという名前からしてエジプト語じゃないし。どうせつけるんならアメンヘテプとかメルエンプタハにしようよ…って、ダメ?)

ちなみに、カイロには日本料理レストランがけっこうあるんだ。
カイロシェラトンの中にも「鉄板焼き サッポロ」なんてモノがあったしな。(北海道ならジンギスカンだろ、鉄板焼きじゃないよ…。と、いうより、どうして京都じゃないんだろう…?)
エジプト人は日本人に対し多大なる誤解を持っている部分がある。
果たしてどのような料理が出るのか。
実はそーとー期待していた。んで、結果は…。

 「イラッシャイマセ。」

なんと竜宮城だった!!!

居並ぶウェイトスたちがにこやかに案内する客席は見事にチャイニーズ。赤い格子窓に天井から下がる蟷螂、八角系の模様を描く絨毯に、淡い電灯に照らされた金魚の水槽! しかし何故か壁に張られているポスターは「ミス・京都」! オレたちは、ただ呆然とするしかなかった。

さらに驚くべきことに、出されたコース料理は、

(1)ごはん。 (2)ザーサイ。 (3)はるまき。(4)焼きビーフン。 (5)えびチリ。 (6)ウーロン茶。 

…当然といえば当然か。中国と日本を勘違いしているんだなあ…。と、いうか、アンタら一体どこへ行かれたんですか。

アジアは全部一緒だと追っているのか? 日本へ行くつもりで、間違えて手前の中国に降りたんちゃうんですか。中国料理じゃないのよ、コレは!

 「だが…ゴハンの炊き込みはカンペキだ。」

器用にチョップスティックス(おはし)を使うオレたちを、横からウェイトレスが物珍しそうにじーーっと見ている。

 「おかわり!」

と、いう日本語も通じた。ウェイトレスのねーちゃん(年上だと思ってたら、実は16歳だったらしい。年下なのにナイスバディ)が笑ってくれる。

おいしかったけどね、ウン。
おいしかったけど、やっぱ違うでしょコレは。
特にエビチリ。味が濃すぎるぞ? 辛いとか甘いとか、そういうんじゃなくて、たぶんエジプト近郊のエビって、ぜんぶロブスターみたいな味なんだと思うんだ…。

はるまきもな。
皮は冷凍で中国から送ってもらってるとして、中身は明らかに怪しい物体だった。おいしかったけどね。羊肉だった気がする。

オレは、伝えたい衝動に駆られた。
これは―――日本料理じゃないよ、ってこと。中国料理屋に「クレオパトラ」って名前はめっちゃ似合わんってこと。

でも、結局言えなかった…。
そう、もしかしたら、店のオーナーは知ってたのかもしれない。知ってて、わざとウケ狙いにそうしたのかもしれない。何故って、店の中には、くだんの「ミス京都」ポスターの他にも奈良公園の写真と七福神と千羽鶴も置いてあったからだ。

日本フリーク…?
そんでもって、もしかして、中国も日本の領土だと思ってるから中国料理を…?

大東亜戦争は50年前に終わったんだ! オーナー!! 中国も朝鮮半島も樺太も、もう日本のモノじゃないんだよオーナー! それとも、もしかして確信犯?! 日本人客のツッコミが欲しくてたまらないんだな? そーなんだな?

よし! 突っ込んでやろう!

店のオーナー…あんたは…関西人じゃあ!(どないやねん)

※関西人とは、わかっててウケ狙いに愚かしい行為に走ることのある日本人の名称です。