第十七章 カイロ博物館へ行ってみた。

そして、運命の日はやって来た。

カイロシェラトンなんぞという高級ホテルに泊まったのみならず、その日は、なべてビンボな全行程の中で最も金を使う日だったのだ!

 朝からカイロ博物館へ―――。

オレたちは、いそいそと身支度をした。カイロ博物館つったら考古学ファンにとっちゃあ宝の園だろうよ。町のド真ん中にあるカイロ観光の中心地、これを見ずしてエジプトに行ったとは到底言えない、本日のメインイベントだ。

カイロ博物館は、外壁が赤いレンガでつくられていて、不自然に洋風なライオン像が置かれていて、なんか噴水の側にパピルスなんぞ生えてる近代風の造りだ。
これがまァ…行ってみれば何のことはない、外装だけ格好よくしただけのモンなんだよな。

そもそも入り口のチケット売り場からして、スキだらけだし。(どんなスキだ)

ともかく、エジプト人って、マジメに商売してる人少なげなんだよ。暑いせいもあるんだろうけどネ、ピラミッドつくれるほどの覇気なんか全く感じられん。

…だいたい、エジプトの古代遺産が散逸しちまった原因は、地元の盗掘者が盗み出しちゃあ売りさばいてた所為なんだよな。
研究より金。その気持ちはわからんでもないが、自分らで売りさばいておいて、買った国に対して今さら「返せ」っつーのは、どう考えても身勝手すぎるよな。

 ―――そして、その考えは、博物館内に入るや否や実証された。

 なんじゃこりゃ。

今のエジプトに高度なディスプレイ技術など求めるべくもないのか、博物館内は、ほとんど、石を並べただけの単なる物置きと化していた。照明ナシ。天然光。ガードマンおらず。室内砂だらけ。
おまけに。
王の立像に落書きまでされていた!!

オレは呆然としたね。博物館内に飾られてる石像にだよ、その腕んとこにガッチリと彫り込みがされてるんだからね。幸い日本語ではなかったが、信じられない気持ちだった。
文化財、保護してねーじゃん!
怒り通り越して呆れるよマッタク。
通路のド真ん中の柱の上に、脈絡もなくハトシェプスト女王の頭置いてあってさ、パンチくれたら転がりそーなんだよ? 石棺なんか、壁にたてかけて通路に置いてあるんだよ。入り放題じゃん(いくらオレでも入ろうとは思わんかったが)。

…なんてイイ加減なんだカイロ博物館。ちゃんと学芸員おるんか? なんだかな。あのぶんだったら、本国に任せずにイギリスあたりが管理したほうがええんちゃうか?

ただ、さすがに、ツタンカーメンの黄金コーナーの警備は厳重だった。
棺に使われている金をあわせれば、全部で2億から3億にもなると言われる、まさに金塊。コレクターに売れば、20億はくだらないという価値あるシロモノだけに、警備員もキッチリ目を光らせている。
もっとも、…オレたちは別だったが。
ボディチェックとかあるはずなのに、オレらはなっからムシされてんだよね。日本人観光客の子供だと思われているらしい。そりゃー、オレも藤村もチビだったが?

あともう一箇所、歴代王のミイラ展示室。ここもかなりチェック厳しかった。しかも、「お静かに」。
墓と同じだからだろうか。シーンと静まり返った薄暗い部屋にミイラが整然と並んでて、その間を客が物も言わずに巡り歩く。何千年か前の偉大なる王たちを前に、オレもちょっとは敬意を表することにした。

 「なあ、ラメセスのおっちゃん。(←話し掛けている)カエムワセトの魔術書って、ホンマにあったと思う?」
 「…岡沢、またマニアックなネタを」
 「えー。ほなって欲しいやん? ソレさえありゃあ思いのままよ、クックック」

しかしたとえ本当に魔術書をみつけられたとしても、古代エジプトの魔法は発音することによる言霊だったため、発音の失われた今となっては、どーしようもないのであった!
全然、敬意表してないし。

そーんなこんなで、ホコリっぽい博物館内を駆け足に半日ばかしウロついたあと、オレたちは、お買い物をすべくハン・ハリーリ市場へと向かうことにした。
うん、大してなんもなかったんだよカイロ博物館。
ただ警備のアマさが気になっただけ。
警報装置も無かったし、何か盗もうと思えば盗めたと思うよ。…多分…。


ところでこの時、オレたちは、博物館内に奇妙なものを発見していた。
どう見てもエジプト人な格好をしているのに「地球の歩き方(日本のガイドブック)」を手に、ウロウロしているバックパッカー風の男だった。
 怪しい…。
 怪しすぎる。
あとあとになり、コイツとは色々と因縁浅からぬ関係? に、なるのだが、この時のオレたちは、ありがちな貧乏旅行の学生だとタカをくくっていたのだった…。