第十六章 ホテルに潜む罠…偽りの饗宴。

そうしてオレたちは、再びカイロに戻って来た。

その日のホテルは、ナイル川岸のちょっと高級☆なホテルだ。その名もカイロシェラトン。
…な? 高級だろ。メチャ高級だろ。
オレたちみたいな貧乏人は、入り口からしてビビり入りまくり、どう考えても場違い。いくら安全だからって何もこんなトコにしなくたって…とか思いつつ、中に入るや否や。

 エスカレーター故障中。

歩きかい!!
なんかダマされた気分で、とりあえず荷物(しかもオレだけザックだし)をポーターに預け、吹き抜けのホールをフロントへ向かう。
と、そこには。

オレのさらに上をゆくバックパッカー風の金髪女性が、エジプト人相手になにやら英語でまくしたてているではないか!!

 …。

そんなビビる必要なかったのかもしれん。カイロシェラトン、意外と敷居は低いようです。(笑)

だが、オレの読みはまだまだアマかった。
なんと予約してあるはずなのに部屋が足りない、とか、ぬかしやがるよフロント。これが世に言うオーバーブッキング? おいおい、代理店通じてチャンと予約確認してあるハズだぞ? どういう了見だ。敷居低いのとサービスレベルが低いのとは、また違う次元だろうよ。ここまで来て泊まれんちゅーのは許せんぞ。

結局、その場にいあわせた謎の日本人(現地滞在の日本人専用仲介人…らしいが。具体的に何してる人なんだろ)の助けを借り、どうにか部屋を確保したのはいいけど、ナンか様子が怪しい。英語はカタコトレベルのオレにだって、多少は聞き取れるモンだ。
 「じゃあ、最上階へ」
さ、最上階?!

予想的中。

なんと、そこは…VIPルームだった!!
藤村「うひょうおおお?!」

オレの部屋(6畳一間)よりも、藤村の下宿(コンロ台のうしろに洗濯機がある)よりも、はるかに立派なスウィーート! 窓、デカし! キッチン、在り! トイレは会議室とベッドルームに2つ、風呂はまるで楽園だ! おまけにバカでかいTVとビデオデッキ(SONY製)がベッドルームとリビングにセッティングされているッッ!

 ―ーーーまさに、まさに夢の城じゃあ?!

 オレ「ヤバい…。ヤバいって、これは。」
 藤村「なんで。」
 オレ「ほなってさぁ…、こんな部屋、普通泊まれんでよ…?」

混乱のあまりお国訛り全開のオレをよそに、藤村はかなり余裕ぶっこいて、ふかふかソファに寝っ転がったりしている。
 「ええってええって。楽しめるうちにやっとかな。」
こういう時はホント、藤村の能天気な性格がかなり羨ましいね。

いつしか、時は夕刻にさしかかっていた。
オレたちは、窓を開けて最上階から身を乗り出し、赤く染まるカイロの町並みとナイル川の流れをぼんやり眺めながら、これまでの旅の疲れを癒していた。
 「たぶん、こんなとこ、もう一生泊まられへんのやろなぁ。」
藤村の言葉がチト胸に痛かった。
…そらそーだ。
最上階スウィートなんて、フツーは泊まらんわい。

両足を投げ出し、ぼけーっとしていると、なんか、妙に日本のことを思い出してしまった。

 「そういやさあ」
 「ん、何や。」
 「今夜、岡沢どっち側で寝る?」
 「はあ?!」

そうなんだよ。
VIPルームのベッドは、キングサイズのダブルベッドがドカンと一個置かれているだけなんだよ。社長がキレイな姉ちゃんとヨロシクすることを前提としているのか? 社長は家族と旅行なんかしねーってことなのか。

いや、それ以前に、ベッドが一個しかないってのは…。
いつでも何処でも破壊的寝相の藤村と、自分ちのベッド以外では動きが極端に少ないオレ。(←それを「借りてきた猫」と言う)
…ダメだ。こいつには絶対、勝てやしねえ。

結局、オレたちは再度フロントへ行き、追加ベッドを置いてもらうことにしたのだった。
キングサイズベッドの横に、組み立て式の簡易ベッド(笑)。なんか不自然な部屋の出来上がり。

こうしてその日、オレたちは、いやに広いスウィートルームでの一夜を過ごしたのだった…。
なお、あとで知ったのだが、その部屋の通常宿泊費は、一泊約50万(日本円換算)だったそうです。

あなどりがたし…おそるべしカイロシェラトン…(汗)。