第十三章 藤村危うし! タクシー運転手の魔手が迫る

海で楽しんだあと。

オレたちは、円形劇場跡を見に行くため町を歩いていた。中心部ともなると、いやー、さっすが大都会! 屋台につるされて万国旗のようにハタめく下着(雨降らないから、屋根なしで店になってるし)や、店の入り口に丸ごとつるされた豪快なヒツジ肉。

イスラム教徒の多い国とあって、さすがにビキニなんぞは売っていなかったが、男性用水着ってのはちゃんとあるもんだな。浮き輪とか、サンダルとか…。

サンダルなんか、包装もなんもナシ、サイズを言うと、店のオバチャンがサンダルの山ン中に「ぼすっ」と手ェつっこんで中から商品つかみ出すんだぜ。なんか日本の整然とディスプレイされた靴屋とはエラい違いだ。

円形劇場跡は、まア、けっこー楽しかったぞ。ほかにもナイロメーターとか、地震で倒れそこなった柱とか色々見てまわった。けど、それはそれでガイドブックにも載ってるような内容だしさ、いちいち書くほどのことでもない。時代もだいぶ新しく、ローマが入って来た辺りの文化だから、もはやエジプトと言っても古代王国とはほど遠い雰囲気なんだよな。何か、オレ的にはあまり楽しくはなかった。

で、宿へ帰るとき。
その時もオレはぼんやり考え事しながら歩いてたわけだ。
なんで信号無いんだろ、とか、舗装してあんのに何で馬車が走ってんだろ、とか、自動販売機という文化は無いらしいな、とか…。

ここで、カイト・ベイ要塞での出来事を思い出してもらいたい。
考えごとしながら歩いている時のオレは、何も見ていないし気付かない!
十字路まで来たところで、ふとオレは足を止めた。…あれ? なんか、やけに静かだなーっと…。
その時だった。

 「オーカーザーワァァ!!」

怒りと恐怖を混じらせた藤村の叫びが、背後から聞こえたのは。
振り返ったオレが見たものは、はるか後方にて、なんか怪しげなオッサンに腕つかまれ、車のほうへ引きずられていく藤村の姿だった?!

 おい!
 おいおいおい!!

 「藤村?!」
オレは慌てて駆け戻った。ようやく腕を振り解いた藤村は泣きそうだ。「何しょんや!(←方言)」「岡沢〜! 見捨ていかんといてやあ!!」
近くで見ると、その車はやけにボロいタクシーだった。男はタクシー運転手らしく、辺りにはも同じような客引きタクシーがぞろぞろ停車している。
近くに高級ホテルでもあるのか、こっちが日本人観光客と知ってのことだろう。こ、これがガイドブックにあった「強引なぼったくりタクシー」ってヤツか?!
 「ノー、サンキュー! いらんちゅうんじゃ、ワレ!」
日本語といってもバリバリの関西弁なので、相手にはわかるまい。オレは危ういところで、藤村奪還。男は肩をすくめ、背を向けた。
 「ったく藤村、なんでこんなとこに引っかかっとんじゃ」
 「ほなって気ィついたら岡沢、さきさき行っきょるし!」
 「いや…まぁ、気ィつかんかったけん…。」

藤村は、本気で怖かったらしい。いきなり巨大な外国人のオッサンに見下ろされて声かけられて、うろたえているところを車に連れ込まれそうになったのだから、それも当然と言えば当然か。しかし、オレは見捨てたワケではない。言い訳ではなく、全く気が付いていなかったのだ。
 「とっとと行かんか。」
藤村をひきつれて、さっさとその場を立ち去ろうとしたオレの耳に、先刻の男が仲間たちと話している何語だかわからない訛りだらけの言葉の断片が耳に届いた。
 「…ボディーガード」

何ですと?!
藤村と年令も体格も変わらんオレ様がボディーガードとな! 藤村がそんな要人に見えたのか? ああそうさ、確かに奴は人のよさげな顔してるさ。そんでもってオレは無愛想だよ。悪かったな。畜生、あいつら…オレは金持ってそうな日本人観光客には見えないというのだな!(事実持ってなかったが)

喜ぶべきなのか悲しむべきなのか。とりあえずオレは、ショックのせいで妙に無口になった藤村を引き連れて、再び町の雑踏へと歩き出したのだった…。

なお、すべてのタクシーがヤバいわけではないので、そこんとこは念のため。(事実、オレたちもそのあとでタクシー使ってたし)
乗るときには、事前に値段交渉しておくのがオススメであります。