第十一章 要塞、それは甘美な響き。

世界七不思議の一つに数えられることもあるファロス灯台が失われたあとに建てられたという、カイト・ベイ要塞…。

ピラミッドとは違った意味で、オレはこいつに出会えるのを楽しみにしていた。だってさ、要塞だぞ、要塞? いい響きじゃねぇか☆!
日本には要塞なんて名前つくとこ無いからなぁ。城とか天守閣とかなら、あるんだけど(^^;)。

そのカイト・ベイ要塞。
まさに想像した通り!青い空を背景に聳え立つ強固な灰色の壁、はためく国旗。物々しい鉄柵の向こうに続く暗い入り口。明るい日差しの下から暗い壁の中に入ったことで、急に辺りの空間が迫ってくるような気がする。今にもそのへんから、剣の鞘がこすれあう音が聞こえてくるような気がする。

観光客でごった返していながら、どこか古臭い、…まるでシェイクスピアの劇の中に出てくるような世界だ。ここんとこ人気のない(マイナーな)遺跡ばっかし巡ってたもんで、人の多いのが久しぶりな気がする。何だか、こう、自分のいるのが外国だったことさえ忘れてしまうような雰囲気だ。
カイト・ベイ要塞って造りからして物々しくて、いかにもって雰囲気の建造物なんだぜ。各国のガイドさんがツアー客ひきつれて説明している、その姿さえ「部下に作戦を説明している上官」に見えてしまうくらいだ。
古めかしい調度品と、ロクに掃除もしていないんだろう、ほこりっぽい狭い階段。
思うんだけど、エジプトって全体的に埃っぽいからさ、掃除機とかホウキとか、あんまし使ってなさそうだよな。ハタキなんて文化、あるんだろうか…。

しかし、その掃除してなさげなところが、またイイ雰囲気なんだよな。
砲台を設置したという小さな窓から見える海や、展望台に通じる急な階段は、ここが使われていた時代のまんまだろう。
オレは、ロードス島戦記(角川文庫のファンタジーではない。れっきとした歴史小説)など思い出しつつ、しばし要塞の中を探検することに夢中になっていた。

そして、ふと気が付いた。
…藤村が、いない?
 「あれっ…?」
きょろきょろ辺りを見回しても、いない。今日の藤村は確か水色のズボン履いてたはず。「藤村?」オレの背筋が、さーっと寒くなった。

ヤバい! またボーっと考え事してて、藤村のこと忘れてた!
オレっていっつもこうなんだよな、何かよそ事考えだすと絶対トチる。駅の改札口で切符通すの忘れて引っかかったり、エスカレーター降りるの忘れてコケそうになったり、自動ドアに顔面からぶつかったり、えーっとそれから…
 とにかく!
これは非常事態だ。この人の多い中、「迷子のお呼び出し」サービスも無いのに一体どうやってヤツを見つける?!

要塞内部はかなり広い。ここに来るまでだって、階段上ったり降りたり迷路みたいな場所を沢山通って来たんだぞ。どこで藤村とはぐれたかなんて、思い出せるか!

宿は同じなんだから、サイアク発見できなくても宿で出会うのは分かっていたが…。地図は藤村しか持っていないのだ!
 「それじゃオレは辿りつけねーじゃん!!」

焦ったオレは、少しでも広いところに出ようと、屋上っぽいところに出た。眩しい。今まで暗いとこにいたから、世界が真っ白だ。
石の手すりの向こうに広がる青い海…そして…
見慣れた後姿。
 「藤村!」
 「あれっ、岡沢。どこ行っとったん」
そうだ。そうだよ。確かココ、さっき通ったとこじゃん。「どこ行っとったん」って、お前もしかして…。

藤村は、ツアーで来てるらしい日本人観光客にお菓子など貰って、楽しそうに会話を交わしていた。
 「…おいおい…。」
オレは、どっと疲れたね。はぐれたんじゃないよ。コイツが立ち止まってんのに気付かずに、オレがそのまんまスタスタ行っちゃったんだよ。
そんでもって、藤村のほうも、オレが立ち止まらずに歩いてったことに気付いてなかったんじゃん…。
 「なに呑気に菓子食ってんだよお前は」
 「え? 岡沢も要るで?」
 「いらんわ(怒)」
一瞬でも、マジで心配したオレが馬鹿だったのか…? 呑気に見知らぬ日本人と盛り上がっている藤村を見ていたら、何だか異様に疲れてしまった。

要塞の上から眺め下ろした、真昼の地中海―――青い海。
その景色をバックにした記念写真は、菓子くれた日本人撮ってもらいました(笑)。

いやー、それにしても楽しかった、カイト・ベイ要塞! あそこで鬼ごっこなんてしたら、絶対楽しいってば!