第十章 エジプトランチに一工夫?日本人ならやっぱりコレだね!

  旅といえば、やっぱメシだよな!(って、前にも言ったけどさ)

青と灰色のベヌウ色した町、アレキサンドリア。オレたちは、そこの海沿いのレストランで昼食を取ることにした。
 「海じゃー!」
藤村、子供のようにおおはしゃぎ。昼時だってのに人のいないレストランは、さらさらした潮の臭いに満ちている。日本の海とはエライ違いだ。色も、風も。

レストランの窓からは、ウラの海で泳ぐたくさんの人々が見えた。何か、水着なんてモン着てる人のほうが少ないんだよな。堤防の上から服のまんま飛び込んでたり。人が泳いでる横で平気で釣り道具持ち歩いてたりさ。
なんか、やっぱり日本とは楽しみかたが違うよ。
そもそも「海水浴」って、日本文化じゃーないんじゃないか? 夏の海ってのは、地中海みたいな海でこそ似合うってモンだよ。松林バックにして泳ぐよか、そよぐヤシの木をバックにしたほうが格好いいって。
だからなのか…金持ちが、やたらとグアムやオーストラリアに出かけたがるのは。

何はともあれ、昼ゴハン。
 「うおお、スパゲッティ?!」
オレたちはたまげたね。エジプトでスパゲッティだよ。トマトスパゲッテイ。ミートソースじゃないところがミソ。
でもさ、確かに、海を渡れば向こう側にはイタリアがあるんだよな。近いっちゃあ、近い。アレキサンドリアにスパゲッティがあっても、不思議ではない。
ただ、何でわざわざエジプトまで来て、レトルトっぽいスパゲッティ食わされてんだ、とは思った(^^;)。エジプト人のつくるパスタ…、違和感ありまくり。

そして次に出てきたのは、「サラダ」。
ただし、日本でよく見かけるような生野菜のサラダじゃない。エジプトの水は観光客が腹壊すから、水気の多いサラダはつくれない。そして、そもそも、砂漠の国に生野菜が豊富なはずもない。
日本でいうところの、漬物みたいなサラダをパンにくるんで食べるんだ。

知ってたか? エジプトって、パンの発祥の地なんだぜ! 歴史の授業じゃ教えてくんないけどな。パン生地を発酵させるってこと、最初に思いついたのはエジプト人なんだ。だからオレはちょっと期待してたんだけどな…
出てきたのは、なんか得体の知れない、焼きそこなったカレーナンみたいなパンだよ。そいつに、どう考えても「ごまシャブのたれ」にしか見えない白っぽいドロリとした液体や、チーズ味のするピクルスなんかをのせて食べる。
…あんまりおいしくない。パンも、塩味しかしないし。
 「このトマト、硬いなあ」
 「そらそーだ。水気少ないとこで育ってんだから、皮だって分厚いやろ。」
文句言いながら、オレたちは、やたら皮の分厚いトマトやキュウリらしきものをせっせと腹に詰め込んだ。エジプトのメシは、素材は新鮮だがいま一つ美味しくない…。ここに周さん(料理の鉄人)がいてくれたら、きっとスゴい料理つくってくれんだがなぁ〜。
そして、キワメツケは。
 「うおお、ボラ?!」
そうだ。ここ数日、毎日のように食べつづけた、あの魚(だって安いし)。

 和名;ボラ。現地名、ムギール・セファルス。
 「おいおい〜。何だかな、もう…。」

日本でも食える魚を、わざわざ焼き魚にして出されてもな。しかも、そいつにレモンかけて、塩味だけで食えってんだろ。酷じゃん、オレたち。いくら魚好きでも毎日はキツいよ。せめて味噌汁と白いゴハンをつけてくれ…。

と、その時、藤村の眼がいつになく鋭く光った。
懐から、するすると赤いキャップのついた小さなボトルを取り出し、テーブル上に置く。
 「うッ…、そ、それは…!」
ボトル側面には、見慣れた日本語で、こう書き付けられていた。
 「し ょ う ゆ」

醤油!! 旅行に持ってく、携帯用のしょうゆボトルだ!
 「ふっ、藤村、一体ドコでそんなもの…」
 「スーツケースん中に入っとったん、ゆうべ見つけた。」
そうだ、ヤツの一家は旅行好きだった。そして、物の整理があまり得意ではない人たちだった。前の旅行の時に持っていたものが、入りっぱなしになっていたのだろう。
 「でかした、藤村!」
オレたちは、さっそく焼いたボラに醤油をかけて、レモンをかけて美味しくいただくことにした。レストランじゅうのエジプト人が奇妙な顔をしてこちらに注目しているのもお構いなく、得意げに二人してソイ・ソースの魔力に酔いしれたんだ。
日本万歳! これでもう、ボラなんて怖くないさー!

大満足で食事を終えたオレたちは、海の香りを嗅ぎながら食後の散歩とシャレ込むことにした。
エジプトは、日本からあまりに遠い。
たとえボラの卵をカラスミにして食う共通の文化があったとしても、彼らとオレたちの味覚はだいぶ違うものなのだろう。
 だが…
魔法の醤油がありさえすれば、その味覚差は越えられるのだ。すばらしいです、日本の味。

目指すは、アレキサンドリア随一の観光名所、カイト・ベイ要塞!