第九章 夏色のハイスピード アレキサンドリア到達

「んー。いよっしゃあ、目ェ覚めたッッ!」

その日も、オレは快調に朝を迎えた。エジプトに来て3日め。砂っぽいシャワーにも、ものッ凄いニオイのするシャンプーにも、やたら固いトイレットペーパーにも、そして何より、「チップ」という嫌な習慣にも、少しずつ、慣れてきたところだ。

 そう…チップ。

だって枕もとにお金置いていんくだぜ。お金。悲しいじゃん。当時は1エジプトポンド40円ちょいという値段だったから、たかだか40円。それでもさ…。
 「悔しいから日本円で置いてったれ」
小銭ざらざらざー。一円・五円・十円と。
 「岡沢…それ、イヤミ…。(換金できないじゃん)」
と、藤村のツッコミ。
 「知るか。持ってけドロボー!(どうせこのホテル今朝までだしさ)」
こんな鬼畜なことをしつつ、オレたちはホテルを後に、一路、別の目的地へ。
目指すは北の果て、アレキサンドリアー!


青い空・青い海。地中海、初体験!

だが、地図を見てのとおり、ギザからアレキサンドリアまでは直線距離にしてかなりの距離がある。大阪から北海道まで行くようなモンだ。一日でたどり着けるのか?
ふっ。
全然大丈夫だ。なんせ、エジプトは本当に広いからな。

砂漠のド真ん中に出現した黒い線。ひたすら続く直線道路!
北海道なんてメじゃないぜ。黄色い荒野を一直線にブチ抜いた道路のほか、時折立てられた広告用の看板以外、何も無いんだからな。途中に何箇所か無人ガソリンスタンドとサービスエリアはあったけど、「家」とか「オアシス」とか、そういうモンは一切ナッシング。途中でパンクしたら、映画ん中みたくヒッチハイクだぜ? ほんと。
遥か遠くに、ゆらめく陽炎に包まれた小さな丘が見えている。

何かさ、こうして見ると道路は道路としてだけ作られたっていうカンジ。
だって道路しか無いんだもんよ。
信号も横断歩道も料金所も何もない、ただ真っ直ぐの道なんて、目ェつぶってたって走れるよな。バスの運ちゃんは、ノリノリで歌なんか歌いながらアクセル踏みっぱなし。景色はオレが今まで体験したことのないような、物凄い勢いで流れていく。
 「な、なあ、これ絶対時速200キロは出てるよな。」
 「…。」
恐れを成したオレは声を潜めて振り返ったが、返事は無い。
 「ふじむら?」
 「…スカー」
寝てた…(泣)。

おいおいおい。
この景色を見ずして一体何がエジプトか。砂漠へ来たんだろ? 砂漠だぞ? ナイル5千年の歴史(注/ナイルのほとりに文明が発祥したのは紀元前3000年頃と推測されている)を感じないのか!
 むー。
早朝の出発とあってか、バスん中の人間はほとんど爆睡状態。藤村はもとより、話が出来そうなやつがいない。
しょうがないので、オレは一人、ハイスピードに流れ去る炎天下の砂漠を眺めていた。


ギザを出発して、わずか数時間。
お昼ごろには、バスはアレキサンドリアに入っていた。思っていたより相当早い。そんでもって、
 「青ーい!☆」
その時藤村が聞いていたのは、ゆずの「夏色」だった。ウォークマンから漏れてたから、間違いない。

 ♪この長い長い下り坂〜を〜♪

空は快晴、海は濃紺! 星のマークのイスラム寺院。十字架はキリスト教会。
面白いことに、町には両方の聖堂が立てられている。町を行き交う人々のファッションも、様々だ。ギザ周辺と違って、地中海に面したアレキサンドリアは、なんだか「都会風」に思える。明るくて、豊かで、…命を拒むような砂漠の厳しさは感じられない。中途半端にローマナイズされた町、それが、アレキサンドリアのイメージだった。

ここまで快調に走って来たバスも、町に入ると、打って変わったようにノロノロ運転になっていた。
なんてったって、アレキサンドリアは、道路事情がすごく悪い町だ。
何でかというと、道路を作ろうと掘るたんびに遺跡が出てくるからなんだってさ。オレたちが行ったこの時も、メインストリートに近い場所のど真ん中に、発掘中の遺跡があって交通渋滞を起こしていた。
日本で言うと「奈良・京都」だな!(笑)

まあ、何はともあれ、アレキサンドリアに無事到着だ。
現代により近い時代のエジプト文明が、オレたちを待っている!