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「死者の心臓」

ハヤカワ文庫  アガサ・クリスティー


アーロン・エルキンズが贈る「スケルトン探偵」ギデオン教授シリーズの一冊が、この「死者の心臓」。エジプトを舞台に、アマルナ美術と発掘チームを巡る殺人事件、と聞けば、エジプトファンは興味を示すはず。

古代文明ファンは読んで納得、ミステリファンは解いて満足のこのシリーズ。とにかく一冊ごとに濃厚な知識がつまっている。もちろんメインは謎解きなのだけれど、書記の暮らしや出土品の道具についてのちょっとした説明、現代エジプトの盗掘者たちの日常、アマルナ美術についての概要――などなど、そんじょそこらのエジプト本よりはるかに詳しく、具体的な考古学の知識が盛り込まれている。(そしてそれらは、研究室にこもりっぱなし、紙の上だけ見つめている学者の書いたものより、はるかに活き活きとしている)


主人公は「形質人類学者」という、なんだか変わった職業。
遺跡や古代文明がたくさん出てくるのに、考古学者じゃないのだ。じゃあ何をする人なのか?

簡単に言うと、「遺伝的形質などの生物学的側面から人類を研究する人」。たとえば、ある遺跡から、埋葬された古代の人骨が出てきたとする。その人骨の形や特徴から、生きていたころのその人がどんな暮らしをしていたのか、何歳くらいで亡くなったのか、などを調べるのが、ギデオン教授。

骨に残る傷跡などから疾病の有無を調べたり、わずかな痕跡から死因を特定したり…
…と、ここまで言えば、彼が殺人現場に居合わせる理由も分かるだろう。そう、骨しか残っていない他殺体を鑑定し、ほんの僅かなヒントから謎を解いていく「スケルトン探偵」。それが主人公だ。

それでも、「本当は何万年か前のカラカラした骨がすき」なんだけれど「死にたてフレッシュ」な骨を鑑定させられることが多いギデオン教授。エジプトでは、発掘隊の物置から乾いた遺骨が見つかり、殺人かと騒ぎになる。

四年前の”盗掘事件”に関わる秘密。失われたアマルナ彫刻の首に隠された秘密とは――

ちなみにエジプトものもミステリといっても、オカルトは0.1ミリグラムも無い。
それは小説の最初の10ページで、ケオプス王のピラミッドパワーについて熱っぽく語る夫妻が滑稽に描かれていることからも、分かるはず。現代と古代をつなぐ、上質な「ミステリー」をお楽しみください。


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