サイトTOP別館TOPコンテンツTOP

エジプト人

角川文庫(リバイバル・コレクション)  ミカ・ワルタリ


 古代エジプトをテーマにした「最初の」小説にして「最高傑作」。これを越えるエジプトネタ小説は、おそらく作れないでしょう。
ありとあらゆる神話・考古学のネタを盛り込み、網羅しつくした小説。

マニアなら「ああ、ここはxxxからの出典だ!」と分かるほど原典に忠実でありながら、古代エジプトのことは何一つ知らない人もするすると読めてしまう文章の軽さ、アレンジ具合。主人公「シヌヘ」の一人称語りによる回想という形で、自然に、なめらかに語られる、古代エジプト人の一生。

最高傑作の名に恥じない名作です。

ちなみにミカ・ワルタリはフィンランド人。この小説の発表は1945年。なのでリバイバルされた本で手に入れるしかないが、多少なりとエジプトにハマっている方は、是非とも読んでみることをオススメ。

------

ストーリーは、生涯を孤独のうちに生きた男・シヌヘの、生まれてから死ぬまでの一生を書き綴った独白。
「シヌヘの物語」という古代の文献があるが、その物語を下敷きにしつつ、シヌヘ自身には「物語に出てくるシヌヘと同じ名前をつけられた」と語らせている。
「シヌヘの物語」は中王国時代に書かれたもので、この物語の中のシヌヘが生きたのは新王国時代だから、もしかしたら、そういうことも在り得たのかもしれない。

主人公の個性が控えめにしてあるので、回り周囲を流れていく時間と風景とがより鮮やかになり、その中に取り残されていくシヌヘが見えてくる。

育ての両親、親しき友、異国にてめぐり合った美しい女、つかの間の安らぎ、それらすべてが一瞬にして消えうせていく。
シヌヘの一生は、描写が生き生きとしているがゆえに、あまりにも切なく、あまりにも空しい。

彼は最後に、"トト神の経典と同じように"自らの書き記したものを、河に沈め隠す。…それがゆえに、書き記されたものは永遠を得て、時を越えられたのだ、と作者は言いたいのだと思う。

作者が想像によって作った箇所と、考古学的な知識から綿密に作り上げた箇所の判別は、ほとんど気が付かないほどになっている。
あまりにも使っているネタが濃ゆく、量も多いので、ひとつひとつを解説するのはムリだろう(^−^;


この小説に影響を受けたと思しき小説やマンガも多く、それだけに、今なお色鮮やかに、読まれ続けている作品と言えよう。


戻る