サイトTOP別館TOPコンテンツTOP

「ハムナプトラ」

―失われた砂漠の都


俳優や監督にはまったく興味の無い、「映画は面白ければ何でもいい」な人のため、詳しいデータは検索して探すべし!


【STORY】

冒険家の父とエジプト人の母を持つエヴリンは、古代エジプト文字がすらすら読めちゃうドジッ子メガネ司書★

あるとき、彼女の兄が、砂漠に眠る伝説の都「ハムナプトラ」の地図を手に入れてきた。両親の血を継いで冒険大好きな二人は即効、冒険の旅へ。偶然ハムナプトラへ踏み込んでしまったアメリカ人青年・オコーネルを道案内に、砂に埋もれた古代の都へ、宝探しにレッツゴー!

だが、その都には、ファラオを暗殺して「ホムダイの呪い」を受けた神官・イムホテップが封印されていたのだった。

勢い余って呪いを解いてしまった冒険者たち。蘇ったミイラの引き起こす災いの前に、次々と倒れていく宝探しの人々。
カイロの町がイムホテップの手に落ち、人々は操られ大ピンチ。
そんなとき、エヴリンの職場の上司が封印された邪悪なる神官を目覚めさせぬ使命を背負った一族の末裔と判明。
蘇ったミイラにホレられ「我が后」なんて言われながらキッスされて攫われちゃったエヴリンを愛の力でおっかけるオコーネル&あまり役にたたない兄。

頑張れ冒険者たちよ、ヒロインを取り戻し、蘇ったミイラを永遠に葬るため、「アメン・ラーの書」を探すのだ!


【一般むけポイント】


「古代エジプトの呪い」「砂漠に消えた伝説の都」「お茶目な考古学者と二枚目冒険者」…と、いったキーワードにときめきを覚える人なら必ず面白いと思うであろう作品。ありがちな古代エジプトミステリーものだと思って間違いない。ギャグ8割。


【マニアむけポイント】

エジプトマニアとして敢えてツッコミを入れながら見てみよう。
まずは、冒頭の古代エジプトシーンから…

▲蘇るミイラ「イムホテップ」は、クフ王の父の父・スネフェルの時代(第4王朝)に実在した人物で、ピラミッドの建築法を考案したとされる、ヘリオポリス太陽神殿の大神官。のちに知恵者として神格化されたほどで、日本で言うと菅原道真みたいなニュアンスの人物だったようだ。
その愛人アナクスナムンだが、おそらく「アンケセンアメン」の英語読みだと思う。アンケセンアメンとは、ツタンカーメンの王妃となった、アクエンアテン王の娘である。(第18王朝)
実在の2人のイメージと、映画の中の外道な2人のギャップを楽しむのも、また一興。

ところで、冒頭でテロップに流れる通り、「ハムナプトラ」にイムホテップが封じられるのは紀元前1290年。第19王朝初期である。イムホテップとアナクスナムンは力いっぱい王様を殺害しているが、殺されているのは、一体誰…?
答えはラメセス1世。※1
19王朝を築くも、数年で亡くなってしまった王様だ。その後、息子のセティ1世が即位して、王朝を盛り立てる。実在のラメセス1世は墓所が盗掘に遭い、ミイラが発見されておらず、死因は不明のままなので、愛人と部下に殺害されたってのも、また一興…
…ちなみに古代エジプトでは、王宮は石では作らないので、王様が暗殺されていた石造りの建物は「神殿」なのだと思われる。
神殿で女性と通じるのは大罪ですよ、イムホテーップ!! いくら恋の女神バステトの像の前でも…!

※1. これについて「セティ1世だ」という情報がきました。どうやら映画の設定としてそうなっているようです。ただ、映画内で言われていた「紀元前1290年」だとすると年代的にはラメセス1世です・・・。(2014/2/24追加)


▲どんどん行こう。次はミイラ作りについて。
王様を暗殺した咎でとッ捕まり、ミイラにされてしまう神官たちだが、なんと罰として生きたままミイラにされたという。生きたまま包帯を巻くのは、ミイラって言わない(笑) しかもミイラ作りは神聖な作業のため、専門職の神官でなくては行えなかったのだ。兵士が乱暴にやっていいものではない。「んー、んー!」と悲鳴を上げながら包帯を巻かれ、棺に押し込まれる神官さんたちが、かなり哀れであった…。

その、生きたまま包帯巻いた人間を人型の棺に押し込んだあと、直接、砂に埋めてしまっているのも、かなり危険である。
…浸水しますよ?

死者の棺は、防水のため、内側にタールを塗った木の蓋を重ね、何重にもしてから、空間に置くのがセオリー。直接埋めちゃったら、木が腐ってしまう。
砂漠だから砂も乾燥してるし、直接埋めても大丈夫だと思うかもしれないが、近くを河が通ってるだけあって、地下水や降雨が地下に溜まるのは、よくあることだ。実際、発掘された古代の墓の大半に、浸水した跡が残されている。それでも、完全に腐ってしまわなかったのはイムホテップの執念なのだろうか。

ちなみに、古代エジプトでは、死者の復活を防ぐためには、まず、「その死体をバラバラにする」というのが普通だった。
セトがオシリスに為したことしかり、「二人兄弟の物語」で兄インプが不貞を働いた妻にしたことしかり、である。わざわざ「ホムダイの呪い」なんて面倒なことをしなくても、イムホテップを殺してバラバラにし、燃やすなり河に流すなりしてしまえば、遠い未来まで遺恨を残すこたぁなかっただろうに。などと思ってしまうのであった。


▲まだまだ行っちちゃおう。次は砂漠の都の備品についてだ。
ハムナプトラというのがエジプト語じゃないのは言わずもがな、だが、その遺跡の鍵というのが、またアヤシイ。何故か六角形(古代エジプトでは特別な意味を持たない図形)の上、キラキラ輝いているのである。
…第19王朝はじめは、まだ鉄器時代に入っていないので、金属といえば青銅では? 三千年も前の青銅がキラキラ…は、しないよなぁ。金メッキだろうか。(そういえば遊戯王のアイテムもキラキラしてましたっけ^^;)
ちなみに鍵の六角形はイスラムの星なので、現在イスラム教圏であるエジプトではよく見かけるが、古代には無かったハズである。


▲そのナゾの鍵で開く本! そう、この映画の中で、死者の書とアメン・ラーの書は、なんとパピルスの巻物ではなくて、羊皮紙っぽい、製本された本になっちゃってるのだ!
そんなものが埋まってるなんて、ハムナプトラは本当に古代の都なのか。後世の偽造じゃなくて?(笑


▲セット内のヒエログリフは丁寧に書かれているが、残念、文字は金メッキではなく、赤や緑で彩色すべきでした〜。
キンキラキンのヒエログリフは無いっス。いくらエジプト=黄金というイメージが強くたって^^;
アヌビス像の足元に書かれた、カルトゥーシュで書かれた王名も、ラメセスやセティのものではない。一瞬しか映らないので「アンク」「sii」「ハト」しか読めなかったが、アンクとハトの音が入る王命って、アンクエムハトくらい…? ちょーっと時代がズレてるような。


▲ハムナプトラの地下には、宝物がてんこもり。
黄金に輝く備品の山。青銅器のはずなのに何故かキラキラ輝く大きな鏡、器も金、ナイフも金。…ま、当時、金の器よりガラスの器のほうが貴重だったとかいう話は置いといても、金しかないというのは実は不自然なことなのだ。金よりも、エジプトで採れないラピスラズリや香木のほうが高価だったはずだからだ。そこまでリアルに作るのはちょっとムリだろうか。
リアルといえば、地下の宝物庫に置かれている巨大な鏡は、ツタンカーメンの副葬品である黄金の鏡入れを模している。実物の高さは27cm(笑)。鏡を支えている神はシェド神である。副葬品のイメージは、ツタンカーメンの墓から取ったもののようだ。

宝探し隊の皆さん、その黄金を取らずにカノポス壷を発見して「いくらで売れるだろう。」なんて大事そうにしていたが、色からしてアラバスター製と思しき内臓壷1つなんて…そんな、高値で売れないと思うんだよねえ。4つ揃って厨子に入れたら、そりゃあ、価値は上がると思うけど。アラバスターはただの石なので…。


▲古代エジプトの遺跡で、「死者の町」、ギリシア語でネクロポリスと呼ばれているものがあるが、この言葉は「死者が住んでいる町」ではなく「共同墓地」のことを指している。だから、死者の町っつったって、アヌビス像を都のド真ん中に立てるなんて在り得ないし、都の中に死体を埋めるなんてしない。まぁ、当たり前だわな…。死体が埋まってる町なんか、衛生上よろしくないに決まってるし。
死者の町と呼ばれる以上、ハムナプトラは「ゴーストタウン」なのではなく、「共同墓地」でなくちゃーならないと思う。
ちなみに、墓地にホルス神の像やら祭壇やらを作ることは、フツーは無い。


▲古代エジプト語の発音は、分かっていない。
件゛財は誰も使っていない、死語だからだ。現在の発音は、かすかに生き残る古代エジプトの流れを汲む言語「コプト語」から推測された発音に過ぎず、便宜上に過ぎない。現代のエジプト学者は、古代人と筆談は出来ても、会話は出来ないのだ。(※映画「スターゲイト」の設定には反映されていた)
ヒロインのエヴリンは、「死者の書」や「アメン・ラーの書」を見つけても、その呪文をスラスラ読み上げてはいけなかったのだ…。

ところで、クライマックスでアメン・ラーの書を手にしたとき、こんな会話があった。「ああ! 最後の字が読めない!」「どんな形してる?」「えーと、コウノトリ!」… コウノトリの文字は「バー」、つまり魂を意味する。葬儀に関する文章では頻繁に出てくると思われ、ものすごく初歩的な文字なので、これが読めないのにそこまでの呪文が読めたというのは、不自然…よって、兄さんはパニックに陥ってド忘れしたのだ、と、いうことにしておこう(笑)

ついでに、コプト語を使うコプト教徒の人たちは、古代エジプト宗教とキリスト教の融合した、独自の宗教を信仰していた。
いまでも古代王国時代の遺跡を守る一族がいるとしたら、キリスト教でもイスラム教でもなく、このコプト教徒である可能性が高い。…と、いうことはオープニングで銃をぶっ離してた人たちも、エヴリンの上司も、遺跡についてきてくれた、顔に刺青(?)のある兄ちゃんもコプト教徒かもしれない。そんな設定、全然見えなかったけどね(笑)


【その他のツッコミポイント】

・古代エジプト人は体にペインティングはしない…。刺青を入れていた人はいたが、それは主に娼婦です。

・カノポス壷の数が1つ多い。間違いは「獅子の顔の壷」

・ナイル河からピラミッドはそんなに近くない。ピラミッドの大きさと建物の大きさの比率が不自然。(画像はCG)
んが、年代的にアスワンダムは築かれていないため、現在より河が近かったことは考えられるかも。

・羽をひろげたスカラベ「ケペル」は再生の象徴なので、蘇りを拒みたい罪人の棺には刻まないのでは…。

・死者の都に、太陽の象徴であるオベリスクは立てない…。

・スカラベは人なんて食べない。糞ころがしなので、動物の排泄物を食べます。

・猫が冥界の監視役という根拠は無い…。ミイラが猫をニガテとするのは、もしかしてアヌビスが犬だから?

・オベリスクに巨大なアヌビス神が刻まれているのはワザとらしすぎるような。

・街中で操られていたミイラがみんなアラビア人(イスラム教徒)のようだが、イムホテップは古代エジプト人なので宗教が違うのではないかと思ってみたり。

ワンポイント謎解き”スカラベは人を食う?”

映画の中では何故か人食い魔虫として扱われているスカラベ。スカラベといえば、エジプトふくめアフリカ大陸には多く生息するフン転がしのことである。フン転がしなのだから、当然、動物の排泄物を食べている。
そのスカラベが、何故、劇中では人食いにされているのか…。
実は、古代エジプトのミイラには、甲虫が巣くうことが良くあった。発掘されたミイラの包帯をほどいてみると、中からボロボロに食い荒らされたミイラと虫の死体が…、なんてことも。それというのも、エジプトは気温・湿度が高く、よほど素早く、しかも気をつけてミイラづくりをしないと、あっという間に死体に虫が湧いてしまった、というところに理由がある。
イムホテップの死体を暴いたところ、中から虫の死体が大量に…というのは、この事実を元にしたものと思われる。

ただし、ミイラから見つかるのは、あくまで「腐肉を食う多種多様な甲虫」であり、「フン転がし」ではない。
また、甲虫たちは「腐肉を食う」のであり「生きた人間の肉まで食べない」。
途中までは事実だが、途中からは物語上の創作になっているのだ。



【神話的ツッコミポイント】

死者の守護者であるアヌビス神がとんでもなく悪者にされちゃってますがー、本来は、死者を裁く役目も持つ神様である。
古代エジプトの宗教では、死者は裁きの広間で、エンマ様ならぬオシリス神のもと、生前の行いを裁かれる。復活を許されるのは、その審判に合格した、「声正しき者」だけなのだ。アヌビスは、トト神とともにオシリスの補佐を勤める。

だから、イムホテップが悪人だとすると、蘇りを許されるのがおかしいし、あたかもアヌビス神の守護下にあるような描かれ方をしているのは、実際の信仰とはちょっと違うのである。

ところで映画の中では、エヴリンが「死者の書」を読んでしまったためにイムホテップが蘇った、ということになっている。
死者の書とは、基本的に死者が「あの世で」生きていくために必要な呪文を書いたものだ。しかし、その一部には「ラーと一体化して地上に蘇る」と取れる内容もあるので、エヴリンがドンピシャで狙ってこの部分を読んでたとしたら、蘇っても不思議は無いかも?

…そのあとアメン・ラーの書で滅するというのがナゾだけど。(笑)


戻る