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この、第一中間期は、それまで繁栄を築き上げてきた古代エジプト文明が最初に直面した崩壊の時であり、記録の混乱のため、今もなお、名の知られていない王の多い時代である。
多くの無名の王たちが現われては消え、覇権を争いあい、領土を奪い合っていた。そんな中、分裂したエジプト全土を掌握し、崩壊していた王朝を再建するのは、それまで地区第二位の都市に甘んじていた町、ウアセトの勢力だった。
古王国時代のウアセトは、決して貧しい都市ではなかったはずだ。しかし、行政の中心地は近くのコプトスの町にあり、宗教都市としては、ネケン(ヒエラコンポリス)とティニスという古い勢力に挟まれている。そのため、地方都市という立場からは抜け出せなかった。
第一中間期、この混迷の時代は、古いしがらみや立場、常識といったものを覆すことのできる「破壊」と「再生」の時代だったとも言える。
『神殿の建物から記録が持ち去られ、その秘密の場所が空っぽになる。
役所がこじあけられ、書類が持ち去られ、隷農だった者たちが隷農の主人になる。
土地台帳の書記たちの書類が破棄され、エジプトの食料を誰でも勝手に自分のものとする。
裁判所の掟があばかれる。…最高裁判所に卑しい者たちが、勝手に出入りする。』
王家の墓は暴かれ、暴動によって貧しかったものが富を手に入れる。すべての価値が覆されていく中、ウアセトという一つの町が、冴えない地方都市から一気に歴史の表舞台に踊り出る。
そしてこのとき、このウアセトの守護神であったアメン神が、最高神という立場を手に入れたのである。
人の世の動乱は、同時に神々の世界にも動乱を起こすものか。それとも、逆に神々の世界の動乱が、人の世にさざなみを立てるのか。
この時代より、エジプト古代王国の末期まで、首都は上エジプトのテーベにある。豪華絢爛を極めた新王国時代、王国は、ウアセトの町と、太陽神アメンとともにあった。
混迷の第一中間期、人々は「太陽神ラーは地上を見放した」という嘆きを残している。
それまで信仰は、真実と秩序の女神マアトはラーの娘とされ、すべての秩序はラーのもとにあるとされていた。この混乱が、ラーの地位を落としたのも当然といえば当然かもしれない。
ウアセトの挑戦と、国家の最高神の交代は、神々の世界の一大革命でもあったのかもしれない。