タイトル | : 「誤訳でツノを生やされた」かどうか |
記事No | : 1863 |
投稿日 | : 2023/04/23(Sun) 12:37 |
投稿者 | : カルン |
ブログの「誤訳でツノを生やされた。ローマにあるモーセの像」(2023年04月17日)の記事を拝読しました。「誤訳でツノ」は有名な俗説ですが、いま書いた通り俗説です。ヘブライ語のqeren、ウガリト語のqarnuは「ツノ」が原義であり、qaran「光を放つ」はそこから派生した脱名動詞です。
ご存知のとおり、古代オリエントの王や神の図像はツノを生やしたりツノ帽子をかぶっていたりします(今思いつくところではエジプトのハトホル、アッカドのナラム・シン)。要するにあの「力強さ」のイメージです。なおヘブライ語聖書の中の動詞qaranは4例しかなく、うち3例がモーセの顔、1例は詩編69:32の「ツノを生やす」の意です。
ただし「光を放つ」と解釈するのも間違いではなく、アッカド語にmelammu「神の光」という語があります。これとヘブライ語qaranとの関係性は語史、解釈史の問題です。特に「肌」との関係は若干議論になるでしょう。
いずれにしても、「ツノ」と訳したヒエロニムスは当時のキリスト教の権威本文だった七十人訳ではなく、ユダヤ人のヘブライ語聖書をちゃんと見ていただけ、ということです。秦氏の著作には割とこういうのが散見されます。
余談ながら、「ビール」を意味する語shekharはそれこそ七十人訳の「誤訳」(でもないですが皮肉)のため「強い酒、蒸留酒」と訳され続けてきました。最近の翻訳では「ビール、麦の酒」と訳出されつつあります。
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