ヴォルスンガ・サガ/ワルタリウス

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「エッダ」の中のニーベルンゲン伝説


【前提】
ここで言う「エッダ」とは、スノリの書いた本来のエッダ(散文エッダ)ではなく、
スノリが元にしたと"誤って"信じられたためエッダと呼ばれることになった、「詩のエッダ」のほうです。
「詩のエッダ」は、一人の人間に書かれたものではなく、異なる場所/時代に作られた
エッダ形式の詩の集合体を指す呼び名なので、前後の話と矛盾する詩もあります。

レギンの歌

養父レギンが、シグルズに、自分の兄ファーヴニルと呪われた黄金について語るシーン。レギンの父フレイズマルには、ファーヴニル、オトル、レギンのほかに、リュングヘイズ、ロヴンヘイズという二人の娘もいたことが語られている。フレイズマルは死ぬ前に、娘たちに、王のもとに嫁ぎ、息子ができなかったら娘を生め、その娘が復讐のための子を生むであろう、と、言い残している。

ファーヴニルの歌

シグルズがファーヴニルを殺害するシーン。ファーヴニルの心臓をあぶっていたとき、指についた油から鳥の言葉を知り、レギンを殺害して黄金を手に入れる。そして、鳥の言葉に従って、シグリドリーヴァ(ブリュンヒルド)のもとへ行くのである。

シグリドリーヴァの歌

シグルズは馬で炎を越え、オーディンによって眠りにつかされていた戦乙女、シグルドリーヴァと出会う。彼女はシグルズに多くの知恵を与え、シグルズは彼女を妻にとのぞむようになる。二人は誓いを交わしていちど別れた。

グリーピルの予言

「シンフェイトリの死について」と「レギンの歌」の間に入っている、短い物語。ヴォルスンガ家の血を引くシグムンドが倒れたあと、その息子シグルズが、母の弟の息子、つまり従兄弟であるグリーピル王のところへ自分の将来を占ってもらいに行く、という話である。
グリーピルは彼に告げる、シグルズは父の仇を討ち、敵を倒すだろうこと、レギンとファーブニルを倒すこと、ギューキ王のもとへ行くこと、ブリュンヒルトに心奪われるが、彼女とは結婚せず、偽りを働いてグンテルに渡すこと、その結果、義兄弟たち(グンナルとヘグニ)に殺されるであろうこと、など。
予言されていながら、まさしくその通りの悲劇が起こるのは、エッダの神話部分、「巫女の予言」と同じである。神々がラグナロクという運命から逃れ得なかったように、彼もまた、暗殺から逃れることは出来なかった。
しかし、この予言が神々と違うところは、シグルズは、「運命には抗えないのだから」と、すべて享受する台詞を残しているところである。

グズルーンの歌 1

シグルドの亡骸を前に悲嘆にくれるグドルーンの前で、ギューキの娘(グズルーンの妹)、ギューキの妹(グズルーンの叔母)らが、自分たちも夫や息子を戦で失ってきたのだ、しかしその悲しみを乗り越えてきた、という話を語る。ブリュンヒルドはグズルーンになぐさめの言葉をかけるが、グズルーンはお前こそ元凶だとはねつける。
ブリュンヒルドは悲しげに、自分の兄、アトリこそすべての元凶のもとだと言い、苦しみの後、侍女たちとともに自害して果てる。グズルーンはデンマークへ行き、ハーコン王の娘ソーラのもとで寡婦としてしばし暮らした。
「エッダ」でも他の物語でも、ブリュンヒルドは死んで冥界へシグルドの後を追い、クリエムヒルトは生き残る、というパターンが定着している。

シグルズの短い歌

グンナルの妻となったが、シグルズのことが忘れられず、夜ごと一人、城壁をさ迷うブリュンヒルドは、「シグルズを胸に抱きたい、それがかなわぬなら、彼は死んでしまえ」と、つい正直な言葉を口にしてしまう。
自らの言葉に恐れおののいた彼女は、夫グンナルにシグルドとその息子を殺すよう強いる。グンナルは迷い、弟ヘグニに相談した。ヘグニは、シグルズを殺すことは得策ではないと引き止めるが、グンナルは、知恵遅れの末の弟グトホルムを使ってシグルズを暗殺させてしまう。
自らの望みがかなえられたことを知ったブリュンヒルトは、腹に刀を差し、血を流しながら夫に予言を話す。自分の兄、アトリがグドルーンと再婚するだろうこと、グンナルは自分の妹オッドルーンを妻にと望むだろうこと。しかしグンナルの願いはかなえられず、アトリはグンナルとその一族をひどい目にあわせるだろう、と。
グズルーンには、シグルドとの間にもう一人スヴァンヒルドという娘がいる。この娘がビッキの計略によって死ぬ遙かな未来までも。
そして彼女は力尽き、自分を、シグルズとともに葬ってくれるように言い残して、息絶えるだった。

ブリュンヒルドの冥府への旅

シグルズとともに火葬にされたブリュンヒルドは、ヴァルキューレであったときのまま、鎧を身にまとい、戦車に乗って冥界へ下る。入り口を守る女巨人は彼女に、なぜヴァラルンド(南の国、の意。北欧から見た南なので、ドイツ・オランダのあたりと思われる)から来たのか、と問いただすが、彼女はそれに、雄弁に答え、押し通る。

ニヴルング族の殺害〜グズルーンの歌 2

「ニーベルンゲンの歌」では第二部にあたる。グドルーンはアトリのもとに嫁ぎ、グンナルとヘグニはシグルズの持っていたニベルングの黄金を手に入れた。アトリは、その黄金を欲するあまりギューキの一族を招待し、罠にかけて殺してしまう。
(古代北欧では、血のつながりは、血のつながらない夫婦の関係よりも強いとされていた。
夫シグルズを殺されたにも関わらず、グズルーンはアトリのたくらみを事前に兄弟たちに報せようとしている。)

一族を失ったグズルーンは、アトリの宮廷に来ていたスィーズオレク(シドレク=ディェトトリーヒ)とともに、一族を失った互いの境遇を嘆きあう。ここでのシドレクは、「ニーベルンゲンの歌」と同じく、国を追放された身である。
会話の中では、前述した「グズルーンの歌 1」や「シグルズの短い歌」での出来事が、繰り返し語られている。

グズルーンの歌 3

上の続き。グズルーンとシドレクが並んで話しているのを見た召使のヘルキャ(ドイツ語で書けば”ヘルヒェ”になる)が、二人の仲をうたがい、アトリに告げる。アトリは不倫を疑うが、グズルーンは、やましいことは何もしていない、と判定を裁きの場に持ち込む。それは、ぐらぐら煮立つ湯に手をつっこみ、正しい者はやけどをしないというものだった。
この裁判にグズルーンは勝ち、よからぬことを吹き込んだヘルキャは沼に沈められた。

グリーンランドのアトリの歌

「詩」と「歌」は、ストーリーは同じだが語り方の違う二つの作品。
「詩」のほうが成立が古く、「歌」のほうがより北欧らしい語り口を残している。その差は一読すると歴然であろう。
双方とも、グドルーンがアトリのもとに嫁いだあと、招待された彼女の兄弟、グンナルとヘグニがアトリの策略によって殺されるストーリーである。グンナルは蛇の穴に放り込まれ、ヘグニは生きながらにして心臓を抉り出されて死ぬ。悲しみにくれたグズルーンは、復讐のためアトリとの間に生まれた二人の息子、エルプとエイティルを自らの手で殺害し、その心臓をアトリに食わせるのである。
アトリは涙を流すが、グズルーンは涙を見せない。酔ったアトリを刺し、館に火を放ち、彼女自身もまた、炎の中に呑まれて行く

グリーンランドのアトリの詩

上記と同じストーリーの中で違っているのは、最後の部分。アトリを殺すのは、グズルーン自身ではなくヘグニとコストベラの間に生まれた息子。酔ったアトリの寝室にグズルーンが招き入れたのだ。
アトリの死後、グズルーンは死なず、「シグルズの短い歌」で予言されたとおり、入水しても死に切れず、潮に流されるままヨーナクの国へ流され王と再婚し、息子ハムディルとセルリとエルプをもうける。
そしてこれが、シグルドとの間に生まれた娘、スヴァンヒルド殺害と復讐の物語へと繋がっていく。

→ここから後の物語は、ニーベルンゲン伝説よりも、むしろディートリッヒ伝説に関係の深いものとなっていく。なぜなら、スヴァンヒルドが嫁いだ先は、ゴート族の王イェルムンレクの元だからだ。
イェルムンレクは歴史上の王、エルマナリクと重なる。
グズルーンとヨーナクの間に生まれた息子、ハムディルとその兄弟の死を歌う「ハムディルの歌」などは、シドレクス・サガの形成に大きな影響を及ぼしたとも言われているのだ。






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