中世騎士文学

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お客様のおもてなし


騎士たちの世界では、「お客様のおもてなし」というのは、とても重要な事項であったらしい。
いかに羽振りよく物惜しみせぬところを見せるか、いかに人脈を広げ、風聞を高めるか。
物語の中で、主人公たちは旅の途中でほうぼうの城を訪ね、名前すら名乗らず客人として招かれる。それは、たとえ城が戦争をしていても変わらなかったようだ。

しかしこの城のあるじである者は、実になげかわしい目に遭っていた。城の外郭が本丸の城壁の間際まですっかり焼き払われていたのである。さて、イーヴェイン卿はちょうど道に導かれるままにそこにやって来た。彼が城に向かって行くと、城門の前の橋が下ろされて、六人の立派な小姓が彼のほうにやって来るのが見えた。彼らの容姿も服装も、皇帝付きの小姓にしてもよいほど立派なものであった。彼は彼らに丁重に迎えられた。

ハルトマン・フォン・アウエ「イーヴェイン」―第15巻 ルーネテの危機と巨人ハルピーンの横暴/リンケ珠子訳・郁文堂

…しかし、これは極端な例かもしれない。
戦争中で、城が落ちかかっているときに旅の騎士を迎え入れるというのは、戦力増強の意味もあったかもしれないし、援軍を呼んでいただくための苦肉の戦略だったかもしれない。
また、ピンチのところにたまたま通りかかった主人公が大活躍、困っている人々を救う! というのは、物語のお約束でもある。主人公が城に招いてもらえなければ、ストーリーが進まないのだ^^;


だが、客人を、見た目で判断し、名前も聞かずに城に受け入れていたのは事実のようである。
ガーヴァーン卿など、そのためにヒドい目に遭っている。…なんと、招き入れられた城が実は彼を憎む敵の城だったのだ。丸腰でくつろいでいたガーヴァーン卿は、素性がバレた途端、戦うことも出来ずピンチに陥る。

さて王フェルグラハトが戻ってみると、戦闘部隊がガーヴァーンを相手に戦っていた。この王については正直なところ、私は王を弁護出来ない、王が高貴な客人にひどく振舞い、自らの誉れを汚そうとしたことについて。この王に対しガーヴァーンは懸命に防戦し続けたのだ。宿のあるじ(フェルグラハト)の客(ガーヴァーン)に対する振舞いを見ると、私はアンショウヴェの王、ガンディーンが気の毒に思えてならない。なぜなら彼の立派な娘が、義理をわきまえず部下をけしかけて自分の客人を攻撃させるような息子を産んだからである。

ヴォルフラム・フォン・エッシェンバハ「パルチヴァール」―第8巻 ガーヴァーンとアンチコニーエ/共訳・郁文堂

この作者の憤りの文章からするに、ひとたび客人として迎え入れた者を、城内で攻撃することは、「ワナにかけた」と同じ意味になり、たいへん卑怯な行いであったようだ。アーサー王の宮廷でも、食客として迎え入れられている騎士たちは、アーサーの庇護下にあると述べられている。

北欧のサガには、「館の中で血を流すな」といった言葉が出てくるが、おそらく中世の騎士社会においても、「城の中で殺人はするな」といった戒律のようなものがあったのだろう。城内は、主である城主の管轄下だったのだから、その中での不始末は、城主の責任問題になってくるはずだ。

また、騎士は、決闘に負けて自ら捕虜となりに城へやって来ることもあった。
上、パルチヴァールの第四巻で、主人公パルチヴァールとの決闘に敗北し、アルトゥース(アーサー王のドイツ語名)の宮殿に送られた騎士、クラーミデーは、アルトゥースに対し、こう言っている。

「ご存知のとおり、私の国であなたに対していろいろ無礼なことがなされました。身分高き殿、なにとぞそれをお忘れくださいますよう。私がここで捕虜になっている間は、私に対してそのことで怒らないでください。」


捕虜として城に留まることは、客人としてもてなされることと同じであった。決して地下牢に放り込まれるわけではないし、縄をつけて無理やり引きずられて来たわけでもない。騎士としての名誉を著しく傷つけるようなことは、お互いにしないのである。

客としてもてなすとは、もちろん、お互いをよく知り、過去の怨恨を拭い去ったり、新たな友情を取り結ぶ役目もあっただろうし、貴婦人たちとの出会いの場でもあった。また、遠方からの旅人を迎えることで、情報を仕入れる目的もあったとされる。

そんなわけで、「高貴なお客様のおもてなし」は、中世騎士社会において、非常に重要な意味を持っていたのだ。
皆さんも、甲冑(スーツ)姿で立派な馬(自家用車等)に乗った立派な騎士殿を見かけたら、お宅にお誘いしてみてはいかがだろうか?




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