中世騎士文学/パルチヴァール-Parzival

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パルチヴァール


「叔父上、どこがお痛みですか。」――約束の問いかけが成されたとき、
聖杯は光り輝き、新たな王の名を指し示す



  全体を通しての主人公です。主な「アーサー王伝説」は英語で書かれているため「パーシヴァル」と読まれますが、この作品は、ドイツ語で書かれたものなので、「パルチヴァール」と読みます。つづりも若干違いますが。
 最初に登場するときは、思いっきり子供です。「まだ、ひげも生えない」と、いうからには、成人前。成人が15歳なので、それより以前ですね。
 …中学生か?
 聖杯の探求に約5年かかっているので…ええ…
 それでも、戻ってきたとき、ギリギリ10代くらいですね。実に若いです。

 いちばん有名なマロリーの作品では、ランスロットの息子・ガラハッドが聖杯のもとにたどり着くことになっていますが、元々の聖杯探求の主人公は、このパルチヴァールのものです。
 彼の母は聖杯王の妹、彼の父はアルトゥース(アーサー)王の縁者、と血筋的にはサラブレット状態ですが、既に主要なアーサー王伝説で知られているとおり、生まれる以前に父を亡くしたあと、母の手によって森の奥深くで育てられたため、最初は騎士の作法も、そもそも騎士というものの存在さえも知りません。
 小鳥の声にわけもなく胸が苦しくなって、旅に出たくなったりしてるあたり、妖精族の血が全開ですね。(笑)
 しかも、かなり野生で育っているので、弓の腕前は相当なもの。身軽で、あとのほうでは、甲冑を着ているのに鐙をつかわず馬に飛び乗ったりしています。まず通常の人間ではムリです。

 いちおう洗礼は受けているのですが、俗世のすべての知識から切り離されているため、神と悪魔のことも、善と悪との違いも知らず。
 「お母さん、神とは何ですか」とは、ヴィルテンベルグ城址跡にも刻まれた、有名なセリフ。このとき聞いた、「神とは光り輝くものだ」という答えに、彼は、生まれてはじめて見る、光り輝く甲冑に身を包んだ騎士たちを、神だと思い込んでしまうのです…。
 なんて純粋な。

 その最初の憧れが、「騎士になりたい」という幼いながらも強い願いとなり、「息子を騎士にしたくない」と、いう、母の目論見は空しく崩れ去ることとなりました。
 運命は変えられない、そう悟った母は、悲しみながら息子をアルトゥースの宮廷に送り出します。
 それが、流転するパルチヴァールの物語の始まりでした。無垢なることは、無知であること。ひとつ知恵を得るごとに罪を知り、大きな挫折も味わい、すべての誉れを失って神さえも恨むようになっていた彼は、多くの人々の導きによって、長い旅の果てに、再び、光の当たる場所へと戻って来るのです。

 「パルチヴァール」は、主人公の旅立ちと成長、聖杯という到達点へ至る物語です。
 それは、人の心の成長の過程でもあり、読者に、「聖杯とは何か」「人の罪とは何か」を考えさせるための過程でもある、といいます。
 マロリーなどの手によるアーサー王伝説の中に欠けているもの、人の成長の物語、騎士の栄光の陰にある真の人間くささ…そういったものを一人で表現する登場人物、それが、このパルチヴァールではないでしょうか。

 最初は何も知らない少年だった彼が、後半で、成長して戻ってくる時には、母親の気持ちで涙してみたり。
 ヴォルフラムが大急ぎで仕上げたらしい怒涛の最終巻、約束の問いかけによって聖杯が奇跡を起こす場面は要チェック!

 彼とともに、「聖杯を探求することの意味」を、探して欲しい。
 

 




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