円卓を統べし ベルターネの王
その名は、はるか地中海にも轟く
「アーサー王伝説」のアーサーに当たる人物ですが、「パルチヴァール」はドイツで書かれているため、もちろん、アーサーもブリテンの王ではありません。この作品自体、13世紀と、かなり古い時代のもので、マロリーによる「アーサー王の死」が書かれる前のため、一般によく知られているアーサー王のイメージとは、少し違うかもしれません。
ともあれ、この作品中でのアーサーは、王妃ギノヴェーア(グウィネヴィア)の不倫に悩まされることも、息子との悲劇的な戦いをすることもなく、偉大で名の知れた王であるとともに、人間くさい、登場人物の一人です。
この物語では、アルトゥースの周辺には、ケイエ(ケイ)卿やガーヴァーン(ガウェイン)といった、見覚えのある家臣がいる反面、見慣れない名前も多いようです。家系図も少し違います。父はユーサー・ペンドラゴンではなくウテパンドラクーン、母はイグレーヌではなくアルニーヴェ。
ちなみに、ユーサー・ペンドラゴンのつづりがUther Pen-dragonで、よーく見るとUther
Pen→ウテパン dragon→ドラグーン と、読めるところからして、この時代から「アーサー王のおやじさん」の人物像は引き継がれているのではないかと思います。ドイツのアーサー王伝説と、イギリスで後の時代に作られたアーサー王伝説は、無関係ではないのです。
「パルチヴァール」では、聖杯探求が中心となっているためアルトゥースの出番は少なく、ほとんど城で待っていて話を聞く程度のもの。けれど、アルトゥースの登場する3つの場面は、それぞれ、主人公たちにとって大きな転機を意味しています。
一回目は、パルチヴァールが騎士になりたいと訪ねてきて、イテールを殺し鎧を奪うところ。
二回目は、誉れを得て円卓に迎えられるも、そこで叱責され、円卓を去るところ。
そして三回目は、再び円卓に戻り、聖杯城からの使者に迎えられるところです。
円卓は、多くの人々の集いし場所であり、人々の去り行く場所でもある。作者は、物語の中で自分自身も騎士の一人であるかのように振る舞い、主人公たちの冒険を、誰かから聞いたものとして語ろうとしているようです。
つまり、物語の中心はアルトゥース王の宮廷とも言えるのです。
作者は、そこにもたらされる話を書き留めるように、読者に話しかけてくる。
作者の話に耳を傾けるとき、読み手の向こうには、同じく、話に聞き入るアルトゥース王がいるのかもしれません。