−アスガルド放映局 開局1000周年記念特別企画
今夜は2時間スペシャル 丸ごと見せます! トールとロキの珍道中−
※これは「スリュムの歌」のパロディ&あらすじです。(笑)
<<間奏in>>
所変わって、とある人間界の片隅。雷神トール殿は、日ごろのお疲れから道端でグッスリ眠り込んでおられました。
鼻にハエが止まろうが、足に蛇が噛み付こうが、起きそうもないくらいグッスリと。そんなトールさんの側に、こっそりと忍び寄る影の一つありき。…それは盗人の手でした。
ふだんは、巨人の頭も一撃粉砕、最強武器ミョルニルを肌身離さず持ち歩き、正面きって戦うことの出来ないトールさんですが、その武器も、今は無造作に投げ出され、枕元に転がっています。
転がってるっていうか、ミョルニルは使い手の意志次第で、デカくもなればポケットサイズにもなる伸縮自在の武器なので、たぶんその時はちっちゃくなっていたんでしょう。
チャーンス。
手はミョルニルをむんずと掴み、どこやら。バク睡中のトールさんに気づいた様子は無く、それから、さらに何刻かの時が過ぎて行きました。
…さわさわ
……さわさわさわ
「ふぁーーーあ。」
ようやく、お目覚めのようです。
警告するように揺れる梢の音で、目を開けます。
大きく伸びをしたトールさん、体をバキッ、ポキッ、と鳴らして整えると、「ちっと寝すぎたかな。あーあ。さて、戻るか」
よっこらしょっと立ち上がりかけ、枕元に置いといたミョルニルに手を伸ばし…
「ん?」
手が、槌のあるべきところで空を切ります。
「あれ?」
枕元はからっぽ。草の上には、重たい槌を置いた跡だけが残されています。大慌てで辺りを見回しますが、…見当たりません。
「無いッ!!!」
トールさんは珍しく真っ青になっていました。
おヒゲが赤で顔が青、んーんいいコントラストだぁ、ってそんなことではなく、だーいピーンチ。
もちろん転がったなんてこともありません。誰かが持ち運びするには重すぎるブツです。そして、ミョルニルの槌は、彼のはめている手袋とワンセットになっているので、普通の人には振るえません。(その意味では、安心なのですが。)
しかし何です。商売道具をなくしちっゃたら、トールさんはただの怪力オッサン神です。(ズキュン)
て、いうか、怪力では息子のほうが上なので、むしろ役立たずです。(ドキュン)
そして多分、奥さんに叱られます。(ガキョン)
…ああ、今、心臓に3発ほど鉛弾食らったトール殿がよろめきました。ヤバイ。ヤバイのですトールさん。そんなところを、もし万一誰かに見られたら、「今、アスガルドを守る者はいない」と、敵の国に触れ回られるかもしれません。
「い、いかん。急いであれを見つけなければ…」
いまさらながらに、うたた寝などしたことを後悔してみますが、もう遅い。後悔というのは、いつだってそんなもの。その思いが生まれる頃には、既に取り返しがつかなくなっているのです。
無駄とは思いつつ、必死んなって、そこらへんの藪の中や木の枝を探るトール殿。
…と、その時、音もなく、背後に立つ人影が。
「なあ、何してるんだ?」
「ああ? 見てりゃ分かるだろう。探してるんだ」
「何を。」
「ミョルニルだよ。俺の槌」
「はあ? なんで探すんだよ。あんたいつも持ってたじゃん」
「それが無いんだよ。無くし 」
言いかけて、トール殿はハッと気がつきました。今、誰としゃべってた?
おそるおそーる振り返ると、そこにはニヤニヤ笑っているロキさんが…。
「ギャー! ロ、ロキ」
「よお、トール。あんまり帰りがおッそいから、迎えに来てやったぜー。っていうか、今の話、マジ?」
「わあ、ええと、そ、その…」
トールさんダラダラ汗を流しながら、うろたえていました。ああもう、何でこんなときに。よりにもよって、口の軽そうな、そう、まさに口に羽根でも生えてそうなヤツに見つかっちゃうのか。
「なぁ〜あ? トール? あんた今、ミョルニルを無くしちまったって言ったよなぁぁ?」
「し、しらん」
グイと顔をそむけるトールさんにすりよって、ロキさんは意地悪くニコニコ笑っています。
「ほんとに無くしちまったの?」
「しらんと言うとるだろうに。」
「うっそばっか。へへっ、探し回ってるあんたの姿をずっと見てるのも楽しそうだけどォ、困った時はお互い様って言うよな。」
「うるさい。貴様の手など借りんわ」
たかる蠅でも払いのけるように振られるトールさんの腕を、ひらりひらりとかわしながら、ロキさんは満面の笑顔。
人の不幸は蜜の味。しかもそれが、いつもしかつめらしい顔をして文句ばっかりつけてくるトールさんの不幸なら!
こーんな面白いことは滅多にありません。ロキさんとっても楽しそう。
「分かった、分かったよトールの旦那。そこまで言うんなら、オレは助言だけにしといてやるよ。まずヘイムダルに頼もうぜ。あいつだったら、そこらへんも見えるだろうし。」
「何…ヘイムダル…。」
はたとトールさんは腕を止めました。
そう千里眼のヘイムダル氏なら、たとえ盗人がどこに隠れていようと、見つけることは容易いはず。
「な? アイツなら口も硬いし、ここで庭師の真似事しててもしょうがないだろ。」
「う…うむ…、まぁ…。」
と、いうわけでヘイムダルさんのところへドン。お邪魔します。
「何? ミョルニルを無くした?」
いつものように、アスガルドと下界を結ぶ虹の橋、ビフレストのたもとに立って下を見下ろしていたヘイムダルさんは、かすかに眉をひそめました。
「…ウチには届いていないのだが」
「誰がお前に遺失物拾得係を頼んだよ、ちげーよ。何処にあるか探してくれっての」
「ああ、そういうことか。」
さらりと惚けたヘイムダルさん。ちらりとロキの後ろのトールさんを見ます。
「…スマン。頼む。」
「まあトールがそう言うのなら、仕方ない」
オイオイ頼みに来たのはこのオレだよ? じゃあ何か、オレが頼んだらうんとは言わないのかオメーはよ、などとブツブツ言ってるロキさんをよそに、ヘイムダルは視点をチューニング。うぃ〜んっと千里眼でアスガルドの果てから遠くのほうを見渡します。
「うーん。」
「…ど、どうだ。見つかりそうか。」
「あれかな…巨人スリュムの家に届けられてる…。」
「す、スリュムだと?!」
トールさんは色をなくしました。よりにもよって、天敵の館に! トールさんは、その破壊の槌で、幾多の巨人族の頭をカチ割って来たお人。当然、恨みを買っています。
しかし、それを取り戻すためには、丸腰で、巨人の国へ行かねばなりません。ああ、なんたること!
「へ。巨人が巨人殺しの道具を手に入れて、どうするってんだろうね。」
ロキはますます面白そうな顔で言いました。まったくです。どうするんでしょう。
「な、トール。…そんな死にそうな顔してんじゃねーよ。こっからが本番だぜ?」
ピンチの時こそトンチで勝負。
さて次なるロキさんの作戦とはいかに。続きはコマーシャルの後で。
なお、この番組は、「いつも皆様に笑顔を」の北欧通販、信頼と実績のエインヘリアル共済その他の提供でお送りします。
−続く