北欧神話−Nordiske Myter

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ロキという名の正体。



 「ロキ」と言うとき、この名には、ありふれた多くの称号と形容詞がついてくる。
 「トリックスター」、「邪神」、「炎の化身」、「ハーフ」、その他もろもろ。だが、それらの称号の意味をひとつひとつ考えていくと、どうも相応しくないものが混じっているような気がする。そもそもロキって、名前の由来とかあるのー?
 なんていう疑問の答えを探して、とりあえず纏めてみました。

◆ロキが炎の化身にされた理由

 かつて、ロキ、という名前の由来は炎(logi→ローゲ)だと考えられていた。
 なぜかというと、ロキが、炎の国ムスッペルヘイムの一員ではないかと考えられていたから…らしい。

 ロキは、巨人族の出身だと語られる。つまり、オーディンら「神々」の一族とは、もともと敵同士。
 その彼がどうしてアスガルドにいるのかというと、巨人族の動向をオーディンにチクって気に入られ、血の契りによって義兄弟、または親子の縁を結び、アスガルド入りを果たしたのである。ぶっちゃけ裏切り者なのだ(^^;)

 「エッダ」では語られていないが、「フィヨルヴィズの歌」という詩によれば、ロキは”レーヴァテイン”という剣をつくり、炎の国ムスッペルの主・スルトの妻、シンマラにそれを預けたとされる。
 何でまたロキさん、そんなもん作ったんですか? とか、何で自分で持たずにスルトさん家に預けたの? とか、たくさんの疑問は出てくるのだが、それはともかく、ロキとシンマラは、知り合いか、親しい間柄だった可能性がある。
 この事実から、ロキは炎の国の一員ではないか? という説が、出てきたのだ。

 しかし世界の没落の時、ロキは再び、自らの出生である巨人族の側に寝返る。裏切りの裏切り、二重スパイもいいところ。
 この巨人族というのが、実はムスッペルの集団だったとすれば、炎の巨人来襲⇒ユグドラシル燃え落ちる⇒世界が焼き尽くされ崩壊、という流れも自然に見える。
 ワーグナーが「ニーベルングの指輪」を書いた時代は、まさにこの説が常識として固定されていた時代である。
 よって、ワーグナーの作った、この有名なオペラに登場するロキは、炎の化身・ローゲになっているのだ。

 だが、現在では、この説は否定され、一般的ではない。単純に炎の化身とみなすのはどーよ、みたいなカンジで学者の間でも色々説があるよう…だ。
 ロキの別名は「loptr」(ロプト)である。これが「大気(ロプト)」と結びつけられ、大気の人格化とする説もある。また、「(世界の輪を)閉ざす者」、「(世界を)終えるもの」を意味する、という説もある。
 実際のところ、ロキが何を意味する神なのかは、今もって不明なのだ。「まぁなんだかよくわかんないけど面白いヤツだよ。」と、いうのが正解…かな?(^^


◆ロキという名前についての語源説

・lokiはアイスランド語のロキ(lúki)…「終わり」から来た言葉であることから、神性の完結を意味する。
・lokiはギリシア語のlokaõや古代ノルウェー語のlokka(攫う)と関係していて、ものを誘惑する邪神を意味する。
・ロキの別名ロプト(Lopt)が大気を意味するloptから来ていることから、大気の神である
・lokiは古代ノルウェー語のlogi(炎)から来ていることから、炎の神である。

 …など。

 なお、本来、土曜日はロキの日であり、古代北欧人がこの日を「Laugardag」と読んでいたという説もあるらしいが、語学がニガテなのでコメントは控えます。分かる方情報ください。プリーヅ。


◆たとえばこんな説も。

 色んな説がある中でも、ロキは騎馬民族に関係があるのでは? と、いう説が面白い。

 ロキは雌馬に化けて、鍛冶屋の馬・スバルディルファリ(スバルジルファリ)を誘惑し、「馬の中で最高のもの」スレイプニルを産む。すべての名馬は、このスレイプニルの血を受け継ぐとされる。
 と・いうことは、ロキはすべての名馬のなのだ。ロキのシンボルは馬だった、とも言えるかもしれない。
 「巨人族」というのが、騎馬技術に優れた異民族だったとすれば、馬というのは、その一族の象徴ではないか、とも考えられるのである。
 また、ロキは、フレイヤやフリッグに飛翔のための服「鷹の衣」を借りて、巨人の国へお使いに行かされることがあるのだが、これも、「飛ぶように早く旅をする」という意味で、騎馬民族の機動性に関係しているのかもしれない。

 さらにロキは、小人たちに頼んで、トールの妻・シヴの髪の毛、フレイの折りたたみ式船、オーディンの槍グングニルを作らせている。
 北欧神話の世界において、神々は自ら武器や道具を作り出すことは出来ない。魔法の武器・道具はすべて、地下世界に住む黒い小人たちや、巨人族に作らせたものだ。(たとえば、エーギルの持つ宴会用の大なべは、チュールの実家からパチって来たもの。チュールの父ヒュミルは巨人族である)
 ロキは、「魔法の武器や道具を作れる、技術者集団」と、「神々」との間の橋渡し役であるとも言える。

 ちなみに騎馬民族は、早くから鉄の精製技術を持っていた。馬の蹄鉄を作るのに使ったのだ。
 ヨーロッパの民族大移動を引き起こした、アジア系の騎馬民族・フン族が異様な機動力を誇ったのは、優れた製鉄技術で丈夫な蹄鉄を馬にはかせていたからだと言われる。
 神話に登場する「小人」というのが優れた鍛冶技術を持つ異民族で、ロキがそこの出身だったとしたら、神々のご機嫌とりに優れた武器や珍しい道具を持っていくことは、わけなかっただろう。

 さらに鍛冶屋には火がつきものだ。金属を溶解される、高温の炉に燃える赤々とした火は、炎の国ムスッペルを思わせるかもしれない。
 また、ロキがレーヴァティンの剣を作った、というのも、彼の一族が鍛冶の技術を持っていたことの名残りかもしれない。

 そういうわけで、ロキ=騎馬民族 説があるのだが、いずれにしても、証拠はナイ。


◆ロキとオーディンはなぜ仲がいい?

 …仲がいいのかどーかはビミョウだが、腐れ縁というか、似たもの同士というか、なんかちょっと楽しそう(笑)

 そもそも、ロキが神々の仲間入りをしたのは、オーディンのプッシュによる。
 容姿が美しく、頭もキレるロキを、最初は「使える部下」だと思ったのだろう。…役に立つ反面、あとで大変な目に遭わされるワケだが。

 ロキは、オーディンと「血を混ぜ」て、神々の一族に加わったとされる。古代北欧では、互いの血を混ぜ合わせることは、親兄弟の縁を結ぶことを意味する。
 血の契りは絶対
 血縁者が殺されたら報復せよ。復讐せざるは臆病者の証し。一族をけなした者は敵とせよ。
 …と、まぁ、古代北欧というのは、そんなノリの社会なのだ。

 族長ともあろう者が、血の契りを交わした身内を大衆の面前で傷つけるわけにはいかない。ひとたび身内となったものは、どんなロクデナシでも、生かしておくしかない。(でないと体面が保てない)
 だからこそ、詩のエッダ「ロキの口論」で、ロキに「あのときの誓いを忘れたのか」といわれたオーディンは、自分を罵倒するロキを酒の席から追い出せなかったのだ。

 言い換えれば、ロキがあんだけ無茶苦茶して他の神々にシメ上げられずにいられたのは、ひとえに、オーディンによる身の保障があったからだと思う。(^^; 
 そして神々の間の仲は、どんどんこじれていくのであった…。


◆トリックスター

 トリックスターとは、英語で、道化師などを指す言葉だ。

 トリックスターとは、特定個人を指す言葉ではない。神話に存在する、人物の雛形のようなもの。様々な神話や伝承に見られる、「大人にして子供、旺盛な繁殖力を持つ、知恵者であり無知なる者、破壊すると同時に稀有なるものをもたらす」といった特性をそなえた民族的英雄のことで、たとえばヴィネバゴ・インディアンの言葉では「ワクジュンガカ」と呼ばれ、スペイン語では「ピカロ」と呼ばれる。そういう存在なのだ。(ちなみに日本語では「道化師」があてられる)

 つまりロキはトリックスターそのものというよりは、世界中に沢山存在する、トリックスター的なキャラクターを持った存在のうちの一人なのだ。ちなみに、他にポピュラーなトリックスターといえば、中国神話(封神演義)のナタクや、オセアニア神話(ハワイ)のマウイあたりが挙げられる。

 トリックスターには、基本的に善悪の基準はない。自分がやりたいようにやるだけ、である。女をさらいたかったら攫うし、人々の危機を救いたかったら救う。
 その奔放な行動から、時には破壊や破滅がもたらされ、時には他の者には成し遂げられない偉業が生まれる。どっちに転ぶかは、本人にも分からないのだ。
 ゆえに、ロキは「邪神」ではないし、「善神」でもない。善悪から超越した場所にいる、どちらでもない存在と解釈するのが正しいように思う。

 トールのハンマーをもたらしたのも、神々の砦を築くのに尽力したのも、奪われたトールのハンマーを取り戻す手伝いをしたのも、フレイズマルにとッ捕まったオーディンとヘーニルの身代金を集めに行ったのも、ロキだ。
 しかし、最終的に神々の世界と自らの身をを滅ぼすきっかけを作り出すのも、ロキ自身なのだ。

 …ロキがいなかったら、北欧神話はそーとーつまんなくなっていただろう…と思う^^;


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