北欧神話−Nordiske Myter

サイトTOP2号館TOPコンテンツTOP

神話エピソードの成立・原本


「エッダ」内の神話に関係しているエピソードの成立は、最古で起源1世紀ごろとされるが、文章、つまり現在残っている書物の形式が形作られたのが「いつなのか」については、様々な研究がなされている。
詩の成立年代や故郷についての推測は、詩形、使われている言葉や情景描写などを元にして、語学的に割り出されているという。本によって多少異なる場合があるが、「おおむねこんな感じ」ということで。

■…一般的な北欧神話 ○…独立した神話
◎…英雄伝説(ヘルギ) ●…英雄伝説(ニーベルンゲン) △…英雄伝説(独立) ×…分類不能
タイトル・分類 成立年代/故郷(推測)/内容
■巫女の予言 1000年前後/アイスランド(出典:Konungsbók,Hauksbók,Snorra Edda)

巫女が、オーディンの要請によって北欧神話の世界観を語る最も有名な詩。
いわば、神話世界のストーリーダイジェスト。
過去の世界の創造から、未来の破滅(ラグナロク)までの予言。
オーディンの箴言 10世紀/77節まではノルウェー、他は不明(出典:Konungsbók)

ロッドファーヴニルという詩人にむけて、オーディンが語る人生の心得。
■ヴァフズールニルの歌 10世紀前半/ノルウェーorアイスランド
(出典:Konungsbók,AM 748,4to,Snorra Edda)

オーディンが、巨人の中でいちばんの物知りである
ヴァフズルーズニルのお宅を訪問し、知恵比べをするという話。
■グリームニルの歌 10世紀初頭/ノルウェーorアイスランド
(出典:Konungsbók,AM 748,4to,Snorra Edda)

王の二人の息子を、オーディンと妻フリッグがそれぞれ養子にして育てる話。
オーディンは、グリームニルという偽名を使い成長した義子の宮殿に行く。
スキールニルの歌 900年ごろ/多分ノルウェー(出典:Konungsbók)

巨人の娘に一目ぼれしたフレイ、スキールニルに求婚させる。
■ハールバルズの歌 10世紀後半/アイスランドよりむしろノルウェー(出典:Konungsbók)

渡し守ハールバルズに扮したオーディンが、
意地悪をしてトールを船に乗せてやらない話。
言い合いに負けたトールは岸辺にぽつねんと取り残されてしまう。
ヒュミルの歌 10世紀後半/アイスランドよりむしろノルウェー(出典:Konungsbók)

トールとチュールが、賢者ヒュミルのお家から大鍋を盗み出す話。
ロキの口論 10世紀末or12世紀初頭/多分アイスランド(出典:Konungsbók)

神々の宴に乱入したロキが、フライデーの記者さながらに
来客たちのスキャンダルを暴き立て、帰宅したトールにこらしめられる話。
■スリュムの歌 11世紀前半/アイスランド(出典:Konungsbók)

トールが、大切な仕事道具の鎚をスリュムに盗まれてしまう話。
女装して巨人の館に乗り込むトールを想像し噴出すこと請け合い。
○ ヴェルンドの歌 9世紀/ノルウェー(出典:Konungsbók)

いわゆる「ヴェルンド伝説」。鍛冶屋ヴェルンドにまつわる物語で、
「シドレクス・サガ(ディートリッヒ伝説)」のエピソードでもある。。
■アルヴィースの歌 11世紀/多分アイスランド(出典:Konungsbók)

自分の娘を小人の嫁になんかしたくないトールが、
小人アルヴィースを相手に策を弄する話。
◎フンディング殺しのヘルギの歌 1 11世紀中ごろ/アイスランド(出典:Konungsbók)

英雄ヘルギの誕生、成長と戦乙女への求婚を語る物語。
◎ヒョルヴァルズの息子ヘルギの歌 900年ごろ/ノルウェー(出典:Konungsbók)

フンディング殺しのヘルギとは別人。ヒョルヴァルズ王の息子ヘルギの出生と成長、
戦乙女スヴァーヴァとの愛、決闘による死を描く。
◎フンディング殺しのヘルギの歌 2 9世紀中ごろor12世紀末/ノルウェー(出典:Konungsbók)

シグムンドと、妻ボルグヒルドの間に生まれたヘルギの戦の話。
スヴァーヴァの生まれ変わり、戦乙女シグルーンとの出会い、死による別離。
◎シンフェイトリの死について 12世紀後半/アイスランド(出典:Konungsbók)

シグムンドとシグニューの間に生まれた英雄、シンフィエトリが
継母の盛った毒に斃れる話。「髭で漉して飲め」という有名な言葉はここに登場。
●グリーピルの予言 12世紀後半/アイスランド(出典:Konungsbók)

最も有名な英雄、シグルズを主人公をした一連の英雄伝説の一部。
●レギンの歌 10世紀中ごろ/ノルウェー(出典:Konungsbók)

ロキがカワウソに化けていた小人を殺してしまい、
その身の代償として小人アンドヴァリから黄金を巻き上げる話。
ニーベルンゲンの財宝にかけられた呪いの由来について語られている。
●ファーヴニルの歌 10世紀/ノルウェーorアイスランド(出典:Konungsbók)

シグルズが竜に化けて黄金を守っていたファーヴニルを殺し、不死の体になる話。
ついでにレギンも殺してしまう。
このときの四十雀たちの会話から、ブリュンヒルド(シグルドリファ)の存在を知る。
●シグルドリーファの歌 900年ごろ/ノルウェー(出典:Konungsbók)

ここではシグルドリーファとなっているが、ブリュンヒルドのこと。
眠りについていた戦乙女の彼女をシグルズが目覚めさせる。
●シグルズの歌 断片 9世紀初期/ノルウェー(出典:Konungsbók)

シグルズ殺害場面の一つのバリエーション。
ここでの殺害者は、間抜けなゴドホルム(グンナルとヘグニの弟)。
●グズルーンの歌 1 11世紀前半/アイスランド(出典:Konungsbók)

夫シグルズをなくして悲しむグズルーン(→グートルーン→クリエムヒルト)の話。
グズルーンは生き残るが、ブリュンヒルドはシグルズの後を追って自殺する。
●シグルズの短い歌 11世紀末or13世紀初頭/アイスランド(出典:Konungsbók)

シグルズ殺害場面の一つのバリエーション。殺害者はやはりゴドホルム。
ブリュンヒルドは、自ら命を絶つときに、その後のことなどを予言して果てる。
●ブリュンヒルドの冥府への旅 11世紀or12世紀はじめ/アイスランド(出典:Konungsbók、Norna-gesta þáttr)

シグルズの後を追い、ブリュンヒルドが冥界くだりをする話。
冥府の女巨人の館へ殴りこみ。
●ニヴルング族の殺戮 ニヴルング(ニーベルンゲン)の一族、
つまりグンナルやヘグニの一族が絶滅する話のダイジェスト。
シグルズの死の歌から、その後に続くグズルーンの歌への導入部。
●グズルーンの歌2 10世紀中頃or12世紀末/アイスランドorノルウェー(出典:Konungsbók)

上の続き。グズルーンが夫や兄弟を失った話を、スィオーズレクに打ち明ける。
●グズルーンの歌3 11世紀前半/アイスランド(出典:Konungsbók)

さらに続き。スィオーズレクとの浮気を疑われたグズルーンが、
嘘の密告をした召し使いを逆告発する話。
●オッドルーンの嘆き 11世紀前半/アイスランド(出典:Konungsbók)

グンナルの恋人であった、アトリの妹オッドルーンによる嘆き。
親友ボルグヒルドのお産を手伝いに行って、その場所で語る。
●グリーンランドのアトリの歌 9世紀/故郷はノルウェーだが改作された(出典:Konungsbók)

アトリがグンナルとその一門を宴に招待し、策にかけて殺す場面。
さきの「オッドルーンの嘆き」は、この場面のダイジェスト版になっている。
グズルーンは、アトリとの間に出来た息子たちを殺し、館に火を放つ。
●グリーンランドのアトリの詩 1100年頃/グリーンランドorノルウェーのグレンランド(出典:Konungsbók)

アトリ殺害の別バージョン。
アトリを殺すのは、ヘグニの息子になっている。
●グズルーンの扇動 11世紀前半pr12世紀前半/アイスランド(出典:Konungsbók)

シグルズとの間にできた娘スヴァンヒルドを殺されたグズルーンが、
息子たちに仇を討て、とけしかける話。グズルーンは夫シグルズのことを嘆きつづける。
●ハムジルの歌 9世紀後半?/ノルウェー(出典:Konungsbók)

上のつづき。グズルーンの息子ハムジルとその兄弟たちが、
スヴァンヒルドの嫁ぎ先イェルムンレクの城に討ち入り、
家臣たちもろともに果てる壮絶な話。
■バルドルの夢 10世紀末or12世紀初頭/多分アイスランド(出典:AM 748,4to)

バルドルが自らの死ぬ不吉な夢を見たあと、
オーディンが自ら冥界へ行き、巫女に未来を問う話。
■リーグの歌 10世紀半ばor12−13世紀/ノルウェーかアイスランド(出典:Snorra Edda)

ヘイムダルがリーグと名乗って人間界に行き、子供を授けて階級を作り出す話。
生まれたときから人間の価値は決まってしまうというものである。
■ヒュンドラの歌 12世紀/アイスランド(出典:Flateyjarbók)

ワガママフレイヤが、お気に入りのオッタルのウソ家系をでっち上げさせるため、
女巨人ヒュンドラを捕まえて輝かしい家系の経歴を語らせる話。
○グロッティの歌 10世紀後半/ノルウェー(出典:Konungsbók/Snorra Edda)

グロッティとは石臼のこと。3人の女巨人が、文句を言いながら石臼を引き回す話。
結局、女たちはキレて臼を壊してしまう…。
×フン族の戦争の歌 またはフレズの歌 900年頃/ノルウェーorアイスランド(出典:Hervarar saga ok Heiðreks)

フン族が出てくるのだからニフルンガル(ニーベルンゲン)関係の歌かと思うのだが、
これまでのものとは雰囲気も脈絡も違う。
主人公はフン族のフレズという男らしいのだが、これも他の歌には出て来ない。
もしかして、ブレダ?
△ ヒルデブラントの挽歌 13世紀/アイスランド(出典:Ásmundar saga kappabana)

ディートリッヒ(ディエトリーヒ)の腹心として、
「シドレクス・サガ」ならびに「ニーベルンゲンの歌」に登場するヒルデブラントが
主人公の伝説のひとつ。
中高地ドイツ語のものと、タイトルは同じだが内容が少し違う。
<スノリエッダ>
◆ギュルヴィたぶらかし
13世紀(確定)/アイスランド(確定)

「古エッダ」の一部(「巫女の予言」など)を引用しつつ書かれた話。
スノリの手による、神話の世界観の語りなおしと言っていいかもしれない。
神話の資料として、いちばん使用頻度が高く、有名なもの。
<スノリエッダ>
◆詩語法
重要な神話のエピソードを多く含む。
他では失われてしまった部分もあり、貴重な神話の資料である。
※表データの元になっているのは「エッダ―古代北欧歌謡集」(新潮社)。
スノリエッダの「詩語法」などその他の部分は、この本では訳されていない。


●「ギュルヴィたぶらかし」だけ年代が確定になっているのは、書いた人(スノリ・ストルルソン)の生没年や出身地が判明しているからだ。それ以外のエピソードは、別々の人によって、別々に書かれたものなので年代も成立場所もまちまちである。個々の作品を誰が書いたのかは、作品中に名前があるわけでもないので分かっていない。というより、作者ではなく「筆写した人」という意味になるので、分かってもあまり意味がない。

なお、上の表にある地名は、あくまで「書かれた場所」のことである。話自体は口伝として、書かれるよりずっと以前から存在していた。

●「詩のエッダ」部分で、「バルドルの夢」から下は、内容的にエッダ詩に近いものを、それぞれ別の写本から引っ張ってきたものである。
現在の「詩のエッダ」とは、エッダ詩という「形式」で書かれたもののことを指し、かつてセーンムンドの作品と見なされ、セーンムンドのエッダと名づけられた、「王の写本」そのものを呼ぶのではない。

たとえば、「フン族の戦争の歌 またはフレズの歌」は、エッダと名のつく書物に収められていたわけではなく、「ヘルヴォルとヘイズレクのサガ」から持ってこられたものだ。
同じように、「ヒルデブラントのサガ」は、「Ásmundar saga kappabana」の一部である。
資料には「詩形」についての言及もあったのだが、どれがどの詩形なのか区別がつかなくて挫折…。orz


戻る