北欧神話−Nordiske Myter

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ユングリンガ・サガ

(ヘイムスクリングラ序章)



 「ユングリンガ・サガ」は、ユングリンガ王朝の王たちの物語であり、「ユングリング家のサガ」、または少し読み方を変えて「イングリンガ・サガ」と呼ばれることもある。実際は、独立したもの方りではなく、前のページで紹介した「ヘイムスクリングラ」の、序章部分のタイトルだ。
 どこの国でもおんなじだが、王家の始まりは神様に由来しており、神話の世界から、歴史が始まる。(日本の天皇家が、天から下ってきた神々から由来するのと同じことだ)
 神々を伝説の王として描いていることから、神話の資料としても、よく名前が挙げられる。
 これも完全な和訳は今のところ無いようだが、以下に、おおまかなあらすじだけ挙げてみる。


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 「ユングリンガ・サガ」におけるオーディンは、アース神の祖であり、古代の伝説的な族長である。彼らは、コーカサス地方から黒海北岸に進出したアジア系の民族だということになっている。
 オーディンの率いるアース神たちは、あるとき、ドニエプル川の川下地方にいた異民族(ヴァン神族)と出会い、戦い、和解のために人質を交換する。これが、神話の中に登場する「アース神とヴァン神の同盟」の元だというのだ。

 (つまり、歴史的な出来事が、語り継がれるうちに神話へと変化した…というのが、この書物の基本的な考え方。
 事実かどうかはサテ置いて、スノリ以外にも、同時代のサクソも同じ考え方を持っていたようである。)

 ヴァン神と和解し、融合したのち、オーディンの部族は、ローマの軍に追われて北欧の地へとたどり着く。そして、スウェーデンのウプサラ地方に建国して、ユングリング王朝を開く。
 この王朝の王は、初代をオーディン、二代目がニョルズ、三代目がフレイだったといい、現在ウプサラにある3つの大きな塚が彼らの墓だというふうに伝えられている。オーディンが火葬されていることや、フレイが豊穣の神として土葬されていることなど、神話的でありながら、どこか現実味のある奇妙な感覚が面白い。

※:細かいことを言ってしまうと、古代のウプサラ周辺はスヴェア(ヘイムスクリングラ内では”スヴィーショーズ”)であり、スヴェア人といえばスウェーデンの人を指す。ということはノルウェー王家はスウェーデン人から出たのですかという話になるのだが、古代の国境は現在とはかなり違っていたし、ヴァイキングたちの領土とり戦争によって時代ごとに王家の支配地は大きく変わっていたので、単純にノルウェーに移住したとは言えないようだ。

超カンタン民族移動図。

■ストーリーの一部

 フレイ神から続く人間の子孫たちについてのストーリーを、簡単に纏めてみる。
 ユングリング家は、フレイの息子ユングヴィ(ユングヴィはフレイ神の別名でもある)からはじまった。
 その子孫に、ヴィスプールという王が生まれる。王は、富豪アウドの娘と結婚し、多くの持参金を受け取るが、息子が二人生まれたあと、こともあろうに妃をないがしろにして愛人を作ってしまう。
 怒った妃は夫を見捨て、実家に帰ってしまうが、離婚の際も、夫は持参金を返してくれない。
 古代北欧社会における結婚と離婚には常に財産の移動がつきまとう。結婚すれば財産は夫婦のものだが、離婚するときは、もはや絆は切られるため、花嫁が持っていった財産は、そのまま返還されなくてはならないのだ。

 息子たちは、成長すると母の財産を返してくれるよう父のもとを訪れるのだが、父である王は強欲なためか交渉に応じようとしない。そこで息子たちは、仕返しとばかり、母が嫁ぐときに持っていった嫁入り道具のひとつである、黄金の首飾りに呪いをかける。

 ”ユングリング家の優れたるものが死ぬように。”
 ”ヴィスプール王とその身内に禍がふりかかるように。”


 呪いは現実のものとなり、ヴィスプールは二人の息子たちによって殺される。悲劇の始まりである。
 その後、王位を継いだ王の息子アグネも、妻にしようと攫ってきたラップランドの王女スキャルフによって謀殺されてしまう。さらに、アグネが死ぬと、息子たちの間に仲たがいが生じ、エリクとアルリクの兄弟は戦場でとも討ち死にすることになる。
 そののち王座についたのは、アルリクの息子のアルフとユングヴィだったが、アルフの妻ベラとユングヴィの仲良い様を妬んだアルフ自身の手によって、兄弟は刺し違えることとなってしまう。

 ほんの些細なことから殺し合いが始まり、王座が血塗られない代は無い。
 …そして、この凄惨な呪いの果てに、ユングリング王家は、最後にはみな死に絶えてしまうのだ。

 王家の歴史は、常に身内同士の争いに満ちていた。争いは実際にあったことかもしれないし、多少は虚構や、後世に跡付けされた理由も交じっているのかもしれない。
 しかし、かつてそこにユングリンガ王朝があったらしいことは確かであるし、過去に存在した王たちの、三つの大きな塚が残されているのもまた、事実である。

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 ところで、この物語って、黄金の首輪をさっさと返却しなかったヴィスプールの強欲が招いた悲劇なんでは。
 そこにツッコんでしまうと、元も子も無い気がするのだが…。^^;


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