北欧神話−Nordiske Myter

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アルヴィースの歌


■「アルヴィースの歌」は、トールと、こびとアルヴィースの会話のみで成り立つ物語である。アルヴィースの名は、英語ではall wise、つまり「すべてを知る者」という意味である。この小人は、原初の巨人ヒュミルの体からこぼれたウジ虫を始祖とする、地下世界に住む黒い小人たちの一人で、太陽の光に当たると石になってしまう。

■ある日、トールが家に帰ってくると、この小人が彼の娘(フノス、またはフノッサ)を花嫁として連れて行こうとするところだった。ゲルマン社会では娘の婚姻を許可するのは父親であるため、トールは、自分のいない間の取り決めは無効だとして、小人に、「もしこお前が本当にこの世のすべてを知っているのなら、新たに約束して、娘を嫁にやってもいい。」と、言う。

■こうして、トールの問いかけに対し、アルヴィースが答えを返す物語が始まるのである。

トール 言ってくれアルヴィース。小人のお前は、生きとし生けるものの運命については、何でも知ってのようだな    
     人の子の大地の前に広がっている、この大地は、それぞれの国では何と呼んでいるのだ。
アルヴィース 人間たちの間ではイェルズ(大地)、
アース神の間では、フォルド(原)、
ヴァンル神たちは、ヴェグ(道)と呼んでいる。
巨人たちは、イーグレーン(緑なるもの)、
小人たちはグローアンディ(緑なすもの)、
天の神々は、アウル(砂地)と呼んでいる。
トール 言ってくれアルヴィース。小人のお前は、生きとし生けるものの運命については、何でも知ってのようだな    
     あのは、それぞれの国では何と呼んでいるのだ。
アルヴィース 人間たちの間ではヒミン(天)、
アース神の間では、フリュールニル(星の撒き散らされたるもの)と呼ばれ、
ヴァンル神たちは、ヴィンドオヴニル(風を織るもの)、
巨人たちは、ウップヘイム(上の国)、
妖精たちは、ファグラレーヴ(美しい屋根)、
小人たちは、ドリュープ サル(水の滴る館)と呼んでいる。
トール 言ってくれアルヴィース。小人のお前は、生きとし生けるものの運命については、何でも知ってのようだな    
     人々に見えるあのは、それぞれの国ではどう呼んでいるのだ。
アルヴィース 人間たちの間では、マーニ(月)、
神々の間ではミュリン(欠けるもの)と呼ばれ、
冥府<ヘル>では、フヴェルファンダ フヴェール(回転する輪)、
巨人たちは、スキュンディ(韋駄天)、
小人たちは、スキン(光)、
妖精たちは、アールタラ(時飾り)と呼んでいる。
トール 言ってくれアルヴィース。小人のお前は、生きとし生けるものの運命については、何でも知ってのようだな    
     人の子らが見るあの太陽は、それぞれの国ではどう呼んでいるのだ。
アルヴィース 人間たちの間では、ソール(太陽)、
神々の間では、スンナ(南の輝き)と呼ばれ、
小人たちは、ドヴァリンスレイカ(小人を虐げるもの)、
巨人たちは、エイグロー(永遠に輝くもの)、
妖精たちは、ファグラヴェール(輝く輪)、
アース神の子らは、アルスキール(全く明るいもの)と呼んでいる。
トール 言ってくれアルヴィース。小人のお前は、生きとし生けるものの運命については、何でも知ってのようだな    
    にわか雨を降らすあの雲を、それぞれの国ではどう呼んでいるのだ。
アルヴィース 人間の間では、スキュー(雲)、
神々の間では、スクールヴァーン(驟雨<シュウウ>のぞみ)と呼ばれ、
ヴァンル神族たちは、ヴィンドフロト(風に漂うもの)、
巨人たちは、ウールヴァーン(霧雨のぞみ)、
妖精たちはヴェズルメギン(天候の力)、
冥府<ヘル>では、ヒャールム フリス(隠し兜)と呼んでいる。
トール 言ってくれアルヴィース。小人のお前は、生きとし生けるものの運命については、何でも知ってのようだな    
    遠くかなたまで吹き渡るあの風は、それぞれの国ではどう呼んでいるのだ。
アルヴィース 人間の間では、ヴィンド(風)、
神々の間では、ヴァーヴズ(揺れるもの)と呼ばれ、
より高い神々は、グネギューズ(いななくもの)、
巨人たちは、エーピル(叫ぶもの)、
妖精たちは、デュンファリ(騒然と駆け行くもの)、
冥府<ヘル>では、フヴィーズズ(疾風<はやて>)と呼んでいる。
トール 言ってくれアルヴィース。小人のお前は、生きとし生けるものの運命については、何でも知ってのようだな    
    静かな、あの凪のことは、それぞれの国ではどう呼んでいるのだ。
アルヴィース 人間の間では、ログン(凪)、
神々の間では、レーギ(鎮まり)と呼ばれ、
ヴァンル神たちは、ヴィンドスロート(無風)、
巨人たちは、オヴフリュー(鬱陶しい空気)、
妖精たちは、ダグセヴィ(日をやわらげるもの)、
小人たちは、ダグス ヴェラ(日のとどまり)と呼んでいる。
トール 言ってくれアルヴィース。小人のお前は、生きとし生けるものの運命については、何でも知ってのようだな    
    人間たちが漕ぎ渡るあの海は、それぞれの国ではどう呼んでいるのだ。
アルヴィース 人間の間では、セー(海)、
神々の間では、シーレーギャ(あまねくみなぎる潮)と呼ばれ、
ヴァンル神たちは、ヴァーグ(波立つ潮)、
巨人たちは、アールヘイム(鰻の故郷)、
妖精たちは、ラーガスタヴ(飲み代?)、
小人たちは、デュープルマル(深海)と呼んでいる。
トール 言ってくれアルヴィース。小人のお前は、生きとし生けるものの運命については、何でも知ってのようだな    
   人の子たちの前で燃えるあの火は、それぞれの国で、どう呼んでいるのだ。
アルヴィース 人間の間では、エルド(火)、
アース神たちの間では、フニ(焔)と呼ばれ、
ヴァンル神たちは、ヴァグ(ゆらめくもの)、
巨人たちは、フレキ(貪欲なるもの)、
小人たちは、フォルブランニル(燃えるもの)、
冥府<ヘル>では、フレズズ(はやきもの)と呼んでいる。
トール 言ってくれアルヴィース。小人のお前は、生きとし生けるものの運命については、何でも知ってのようだな    
   人の子の前で成長するあの森のことを、それぞれの国では何と呼んでいるのだ。
アルヴィース 人間の間では、ヴィズ(森)、
神々の間では、ヴァラルファクス(原野のたてがみ)と呼ばれ、
人々は、フリーズサング(山腹の海藻)、
巨人たちは、エルディ(火の糧)、
妖精たちは、ファグルリミ(美しい枝)、
ヴァンル神たちは、ヴェンド(藪)と、呼んでいる。
トール 言ってくれアルヴィース。小人のお前は、生きとし生けるものの運命については、何でも知ってのようだな    
   ネルの名で知られたあの夜は、それぞれの国では何と呼んでいるのだ。
アルヴィース 人間の間では、ノート(夜)、
神々の間では、ニョール(暗闇)と呼ばれ、
より高い神々は、グリーマ(隠すもの)、
巨人たちは、オーリョース(無光)、
妖精たちは、スヴェヴンガマン(眠りの喜び)、
小人たちは、ドラウムニョルン(夢の織り手)と、呼んでいる。
トール 言ってくれアルヴィース。小人のお前は、生きとし生けるものの運命については、何でも知ってのようだな    
   人の子たちが蒔く種のことは、それぞれの国では何と呼んでいるのだ。
アルヴィース 人間の間では、ビュグ(麦)、
神々の間では、バル(穀物、ことに大麦)と呼ばれ、
ヴァンル神族たちは、ヴェクスト(生長)、
巨人たちは、エーティ(食物)、
妖精たちは、ラガスタヴ(穀物)、
冥府では、フニピン(しなやかなもの)と、呼んでいる。
トール 言ってくれアルヴィース。小人のお前は、生きとし生けるものの運命については、何でも知ってのようだな    
   人の子らが飲む麦酒のことをは、それぞれの国では何と呼んでいるのだ。
アルヴィース 人間の間では、エール(麦酒)、
アース神族の間では、ビョール(ビール)と呼ばれ、
ヴァンル神族たちは、ヴェイグ(酔わす飲み物)、
巨人たちは、フレイナレグ(生<き>の飲み物)、
冥府では、ミョズ(密酒)、
スットゥングの子らは、スンブル(酒宴)と、呼んでいる。

これだけのことを語ったのち、朝が訪れ、太陽の光に当たって小人は石になってしまう。
さて、それでは本題の、「考察編」に、入ってみましょうか…。


■元資料/エッダ−古代北欧歌謡集(新潮社)

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