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イナンナ

別名・別綴り/イナンナ、インニン(シュメール)、エシュタル、イシュタル(アッカド)、ヌギグ、キティトゥム(キティ市での名前)
性別/女性
守護都市/ウルク、ザバラ、アッカド、キシュ等


【主な役割】
セックス&バイオレンス(性愛と戦争)の神、明けの明星の化身、天の聖娼

【神話・資料別エピソード】
エピソードの多い女神であり、メソポタミア史を通じて最も重要な神の一柱を占め続けた女神。大元の名は「天の婦人」を意味するニン・アナだったと考えられている。また、元々イナンナとインニンは別の女神だったともされる。その場合、名前の語源からして元々の属性は明けの明星の化身だったのかもしれない。

イナンナの象徴は、葦の束、ナツメヤシ、金星である。
また、エンリル同様に王権の授与者の役割をになうことがあるが、役割分担としては以下のようになっている。

 ・権威、領地の安定、政治 →エンリル
 ・領土の拡大、戦闘の守護 →イナンナ

求められる加護が時代によって異なるため、王が王権をもらう相手が異なるという感じ。

知られているイナンナの性格には複数の女神たちが統合されている。
 ・南アラビアの女神 アスタル/アシュタル
 ・シリアの女神 アシュタルト/アシュタルテ
 ・本来は別の神であったイナンナ

複数の女神を統合した都合上、家族関係は場合によって異なる。しかし違うのは主に父親の部分なので、性愛の女神にパパが沢山いるのは、まぁなんだ、そういう意味なのかなってこう(略) …まじめに言うとシュメル語の「父」は敬称としても使われるため、おそらくエンキ神などを「父」と呼んでいる部分は実の父という意味ではないのだろう。ちなみに人気のある神様の常として、「ご当地イナンナ」が存在する。元々その土地にいた弱小の神様がイナンナの分身とされたり、有力な守護神にあやかりたい都市が傘下に入ったりするためだ。なので「xx(都市名)のイナンナ/イシュタル」ごとに神話や性格が多少違っていることもありえる。


●天の女主人
ウルク市の都市神として、天の女神としてのイナンナは、月神ナンナとその配偶女神ニンガルの娘で、太陽神ウトゥの姉妹。
名前の意味からしても、おそらくこれが本来の家族関係だろうと思われる。

●性愛と戦争の女神
この役割は、エンキ神の下した「世界の運命を定める決定」の中で与えられたものとされている。しかしその中に「滅亡せずともよきものを滅亡させ、創造せずともよいものを創造させ…」と語られているところから、よからぬ争いの種を撒くことも既に彼女の役割とされているようだ。イナンナ様関係で何かあったら苦情はエンキ神へ。
なお、この神話の中でイナンナは"エンキよ、わが父よ"と呼びかけている。

「イナンナ女神の歌」
イナンナの特性を語る歌。母ニンガルの胎内から武器を携えて生まれてきたと歌われ、アマウシュムガルアンナ(ドゥムジ)を夫とする。また父という言葉はシンとエンリルの両方に向けられているが、母がニンガルなのでおそらく実の父はシン、エンリルへの「父」は敬称としての呼びかけと思われる。

●「イナンナ女神とエビフ山」
どういうわけかエビフ山にケンカを売りに行くイナンナ女神。最高神アンが止めるのもきかず山に挑みボッコボコにやっつけてご満悦で帰ってくる。しかも倒したあと「お前があまりにも魅力的だからいけないのよ…」と睦言を囁くメンヘラぶり。やばい。
この神話では”スエン神の娘、乙女イナンナ”と呼ばれている。

●「イナンナ女神とエンキ神」
エンキ神に甘えてあらゆる威信(メ)を奪い去る外道イナンナ。酔わせてパパに貢がせる嬢の凄腕。
この神話ではエンキ神が”清きイナンナ、わが娘”と語りかけている。

●「イナンナの冥界下り」
姉で冥界の女王エレシュキガルに会いにいくも捕らえられてしまったイナンナ。
身代わりに恋人ドゥムジを冥界に送り込み無事脱出。この神話でのもう一人の主役であるエレシュキガルは、イナンナの持つ生命・繁殖の母性に対する、子殺しや死の母性(日本でいう死後のイザナミ)である。

●「ルガルバンダ叙事詩」
ウルクの都市神、聖域クラバに座する女神として登場。ルガルバンダは使者としてイナンナのもとを訪れ、エンメルカル王に勝利をもちらしてくれるよう祈願する。

●「ギルガメシュ叙事詩」
ギルガメシュに求婚して振られ、父にアヌに言いつけて天の牡牛を作ってもらう。
また第11の書版においては、エンリルが人類を滅ぼそうと大洪水を起こしたときに嘆きの声を上げる役割を担っている。

●ハンムラビ「法典」
エンリルと並ぶ王権の守護者でもあるイシュタルは、ここでは王権の後見人として登場する。また「ザババとイシュタルが私に託された強い武器〜」という文言がでてくる。

●「ギルガメシュ、エンキドゥ、冥界」
のちに一つの物語としてアッカド語にまとめられる「ギルガメシュ叙事詩」の前身としてのシュメル語作品の一つ。この中でアン神の娘イナンナのためにギルガメシュが玉座と寝台を作成している。この物語の中では、イナンナとギルガメシュは仲が悪くないし、木に住み着いたアンズー鳥をイナンナ様は自分で倒しにいけない。乙女らしいイナンナ様の姿が見られる数少ない作品である(笑)

●地域神キティトゥム
イナンナ(イシュタル)には地域限定の別名が多くあるが、その一つが、エシュヌンナ付近の小都市キティで使用されたキティトゥムの名である。
キティ市の王イバルピエルに対してキティトゥムの語った神託の記録が残されている。

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【参考】
神鳥の運命 <メソポタミア>イナンナの樹と<北欧神話>ユグドラシルの描写比較

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