*神話資料目録−Materials

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おすすめファンタジー


…今まで、こんな本を読んできました。たぶん「心のバイブル」です。



●ピアズ・アンソニイ「魔法の国 ザンス」シリーズ(ハヤカワ文庫)

舞台は「そこに生まれた者は、一人一つ魔法の力を持つ」世界、"XANTH"。エルフにグリフィン、トロルにゴルゴンと様々な種族が暮らすその世界に生まれた、サエない青年・ビンクは、何一つ魔法の力を持っていないためイジメに会い、境界を越えた魔法の無い世界"マンダニア(実は地球)"に追放されることになる。だが彼には、実は誰よりも強力で、しかも誰の眼にも見えない、特殊な力があったのだった…。

第一巻「カメレオンの呪文」から始まり、十冊を越える長編ファンタジーだが、一巻ずつ完結しており、舞台もテーマも雰囲気も一冊ごとに違うので、ぜんぜん飽きない。"ザンス"シリーズの魅力は、なんといっても作りこまれた世界観。独特の魔法観で、読めば読むほど世界が広がっていき縦横無尽の大冒険となる、様々な神話ネタとギャグを盛り込んだ、オリジナリティ溢れるファンタジーだ。

十巻を越えて第四世代に入るあたりから面白くなくなる…気がするが、そこに到達するまでにたっぷり十冊ぶん楽しめる。
個人的なお気に入りは、ザンスという世界の"魔法の源"の謎を探る第二巻「魔法の聖域」、ビンクの息子がハエ取り蜘蛛のジャスパーとタペストリの中の世界を旅する第三巻「ルーグナ城の秘密」、メインメンバー総出演で挑む第六巻「夢馬の使命」、幽霊ジョナサンの八百年前に終わったはずの恋が復活するという第八巻「幽霊の勇士」。といってもほとんど全部オススメなので是非探して楽しんでほしい。



●アラン・ディーン・フォスター「スペルシンガー・サーガ」シリーズ(ハヤカワ文庫)

"スペルシンガー"とは、呪術歌の歌い手のこと。とはいってもオカルティックな話じゃ、ぜんぜん無い。
動物たちが知性を持ち、歩き、話し、人よりエラソウに生きている異世界に、ある日とつぜん召喚されちゃった主人公。世界が大ピンチなので異世界から適当に助けを呼んでみました!! …と、いう、日本のライトノベルやアニメでもお馴染みのパターンなんだけど、とにかくギャグのねじ込みがハンパじゃない。

召喚された主人公は、自称・ロッカーで、法律専門のダメダメ大学生。ファンタジー世界に法律ですよ。マルクス主義のドラゴンと社会思想を話し合って意気投合。そんなファンタジー見たことない。
魔法の楽器・デュアを手に吟遊詩人として戦うんだけれど、アメリカの80年代流行曲なんか歌っちゃったりする脱力加減。
トラウマで高所恐怖症のペガサスに、スーツ姿で魂の「取立て」にやってくる悪魔たち! 主人公はバニーガールにはフラれるわ、ホワイトタイガーの雌に惚れられるわ、カワウソの女の子にディープキスで唇を奪われるわ、人生は散々。もうめちゃくちゃ。

一巻は世界の危機を救え、オー! なんていうRPGの勇者様なノリですが、二巻からの世界の危機がどうにかなった後、というのがこの物語の真骨頂。今度は「彼自身の問題」を解決するための様々な冒険にスタートする主人公…。だがしかし。世界を救うより、相思相愛のカノジョを作るほうが実は難しかったのだ!(笑)
笑いあり、涙あり。そんな中、ダメダメ大学生だったジョン・トムが少しずつ逞しくなり(でも運の無さは変わらない^^;)、仲間に恵まれて成長していく姿は、意外に感動巨編かもしれない…。

異世界ファンタジーのお約束として、異世界に召喚された主人公は最後は「元の世界に戻る」か「異世界に住み続ける」の選択しかないのだけれど、…本来の自分の世界に戻った主人公が選ぶ道が、これがもぅぶっちゃけスゴいよ。アメリカ人ならではのエンディング。「えー、そんなのアリ?!」と思った二秒後に「でもOK!」と納得して、清清しく本を閉じられるはず。
最終の第六巻で運命の決断をするシーンは、最初から読んでないと感動できないので、決して最後を見ないように!



●ロード・ダンセイニ「魔法使いの弟子」ちくま文庫

ケルティック・ルネッサンス真っ盛りのアイルランドに生まれた幻想作家、ダンセイニの作品。(でもイェイツとはすぐにたもとを分かってしまったらしい。)
スペインの貧しい地方貴族の跡取り息子ラモン・アロンソは、妹の結婚持参金を手に入れるため、「錬金術」−−それは金を作りだす技術とされていた―を学ぶよう父に言いつけられ、暗い森の奥に住む魔法使いをたずねる。しかし魔法使いと取引するためには、代償として自分の影を差し出さねばならなかった。

スペイン黄金時代を舞台に、錬金術と中世と、貴族と庶民と、暗い森と輝く草原と、様々な要素が絶妙に入り混じる世界観が最高です。
影を失った主人公が、魔法使いにとらわれた掃除女と神父の忠告で過ちに気づき、なんとか魔法使いから影を取り戻そうと苦心する戦いとは別に、主人公の妹・ミランドラもまた、父に勝手に決められた結婚に抗うべく静かな企みを始める。兄がけっこうバタバタして若さゆえの過ちも犯したりするのにくらべ、妹は静かに、ほとんどセリフもなく、小さな身振りだけで読者にわかるよう自分の意図を伝えてくる。
物語には二つの流れがあるということで、性格の異なる二人の主人公が、平行して話を進めていく。
それはさながら、光と影が重なり合ってクライマックスへと向かっていくよう。

とにかく描かれた世界の"背景"が美しいので、情景を想像しながら、そこで動き回る主人公たちを楽しんで欲しい。



●タニス・リー「血の如く赤く」ハヤカワ文庫

稀代の幻想女流作家、タニス・リーの名を知らずしてファンタジーは語れないとかなんとか。
彼女の描き出す「おとぎ話」は、美しくも残酷。闇の中に人間の本性を描き出すかと思えば、光の中に透き通るガラスのような世界観を映し出す。そして文章の一つ一つの流れるようなリズムの美しいこと。(もちろんこれは役者の腕もある)
他に誰が、「夜が漆黒の翼をたたむ頃」なんて、見事な言葉使いをするだろうか。他に誰が、デカダンな雰囲気をたたえ聳え立つシャトーに住む、真紅の衣装を纏った謎の「奥様」なんていう難しいキャラを、妖しく艶やかに、しかも人間らしく描き出して見せることが出来るだろうか?

この文庫は、そんなタニス・リー・ワールドへの入り口。グリム童話を彼女流のパロディに仕立て上げた九つの作品から成り立っている。

第一のオススメはオープニングを飾る「報われた笛吹き」。多少、タイトルに違和感があるが、神とは一体何なのかをテーマにした重い物語。最後の一文にゾっとするような、しかし人間の本質に関わる果てしない悲しみを覚えるような、そんな一品。

次はラプンツェルを題材にした「黄金の綱」。タニス・リーお得意の黒魔術の要素がふんだんにちりばめられている。これはハッピーエンド。暗い世界に輝く月さえも描き出せる、漆黒に思われた世界に突如七色の輝きを持ってくるあたりがすごい。

三番目は「狼の森」。最後のどんでん返しとヒロインの運命にビックリ。デカダンなシャトーに住む奥様というのは、この物語に登場。超美形だが不気味な小人を飼ってみたい、いや、いちどかしづかれてみたいような。うーん、でもシャトーに閉じ込められたくはないような。

これからダークなファンタジー小説を書いてみたい、という人は必読。
ただ血が流れればいいのではない、人が死ねばいいのではない。本当の恐怖とは、ただ静かに花咲き乱れる闇だけが存在する世界にでも、存在するのだから。
(ちなみにタニス・リーの作品は、どれを読んでも独特の雰囲気でのめりこみます)



●ジョナサン・ストラウド「バーティミアス」全三巻 理論社

「プラハの時代は終わり、黒魔術はロンドンに」
18世紀の架空のロンドンを舞台に繰り広げられる、魔術と戦争の物語。主人公は魔術師の後継者として育てられた少年、ナサニエル(ジョン・マンドレイク)。

一巻では自分の才能を自覚しながら認められず、鬱屈した少年時代を送っていた主人公が、大失敗ののち失った自尊心を取り戻そうと初めて悪魔を召還するところから始まる。呼び出された悪魔はバーティミアス。ナサニエルが、恥をかかせた魔術師に復讐するため、バーティミアスに命じて「サマルカンドの秘宝」を持ち出させるところから物語がスタートする。
認められ、権力を手にし、多くのものと引き換えに栄光への階段を上がりはじめるナサニエル――だが、それは、ライバルと蹴落としあい、中傷に耐えながら必死に権力にしがみつく空しい戦いだった。

ストーリーは多くの伏線を交えつつ、ナサニエルの出世と葛藤を描いていくが、伏線が回収され、一気に向う最終巻は大迫力だ。
難題を解決するとともについに大臣の地位を手に入れた主人公は、無能な首相はじめ政府要人たちに嫌気がさし、その転覆さえ頭に描いている。だが、そこに、思いもよらない裏切りとクーデターが起きる。かつて自分も考えたこととはいえ、実際に起きたそれは残虐な殺戮以外の何者でもない。ナサニエルは、それもまた空しい道だったことを知る。
過去の良心を完全に切り捨てる直前、その最後の一歩でふみとどまる主人公の強さ。三巻「プトレマイオスの門」で明かされる、バーティミアスの過去。古代エジプトに生きていた、プトレマイオスという少年ただ一人が成功させ、その後だれも試してみようとは思わなかった”ある魔法”の意味が、この物語のキーポイント。人間と悪魔の間に永遠の友情は成立するのか?それは、たった一度の奇跡だったのだろうか? 彼らが最後に選ぶ道とは? そして――「別れの真実」とは?

これは、皆が笑って終るファンタジーではない。地位、名誉、若さ、命、家族、仲間、魔力、未来…誰もが大切な何かを失いながら、それでも胸を張って生き、一人ずつ舞台から去ってゆく。
崩壊に通じる道と知りながら最後の最後まで皮肉たっぷり、決して涙は見せない(だって悪魔だし)「バーティミアス」。超おすすめファンタジーです。

>>バーティミアス続編


●ガース・ニクス「古王国記」全六巻 主婦の友社

>>こちら



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